Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:15





「状況は!?」
 発令所に戻るなり吠えるミサト。
「パターン青!、現在絶対防衛線上の砲座を飲み込んでいます」
「って、ちょっと待ってよ!?」
 これって…
 その情報、データに、ミサトは我が目を疑った。
「第十二使徒じゃないの!」
 黒い球体、その下に広がる影。
「はい、ATフィールドの固有波形パターンも解析済みです」
「十一使徒はどうなったの!?」
 日向に答えられるわけがない。
「ミサト!、とにかく出るわよ?」
「アスカ、あんた一体なにやってたのよ!?」
 弐号機とは音声回線だけが繋がれている。
「そんなのは後で説明するわよ!」
 その中にわずかながら、「ザザ…」という、耳障りなノイズが混じっていた。


 加持さんが生きてた、加持さんが待ってくれてる、加持さん…
 目を閉じ、深くL.C.Lを吸い込むアスカ。
 日本に来る甲板の上での自分が思い出されていた。
 加持さんならいつでも…
 大人ぶっているわけでもなく、そして困っているような加持リョウジ。
 そうよね…、加持さんだって…
 扱いかねていたのかもしれない、年頃になった女の子を。
 心でも体でも何でもいいから…
 求めて欲しかったのかもしれないと気がついた。
 気がつけたのは、余裕が生まれたから。
 それはもう一度会えるかと、口にしてしまったあの瞬間に…
 愛情を与えて欲しかったのではなく、むさぼるほど自分を求めて欲しかった。
 ミサトの香水の香りに吐き気を覚えた瞬間。
 恐れるような目を向ける碇シンジ。
 心配してくれる友人達。
 違う!
 アスカは目を開いた。
 優しくされてた。
 寂しかったから、気付けないでいた。
 求めていた事と、与えてもらってた物が違ったから…
 飢えを癒せなかっただけだった。
 シンジを襲い、奪い、虜にしようとした自分。
 使徒と同じね…
 それはエヴァでの戦いに似た行為だった。
 心の壁を打ち壊し、土足で人の中に入り込み、そして犯して汚して傷つける。
 年に幾度しか尋ねて来てくれなかった加持に、幼いアスカは寂しさを覚えていた。
 今日からはずっといられるようになったよ。
 白い歯を見せて、ニカッと笑ってくれた加持リョウジ。
 ミサトと入れ代わりになった彼。
 アスカはその時、冗談のように「よろしく、加持先輩」と握手を求め直していた。
 終わったら…、全てが終わったら、もう一度加持さんに会えるんだ!
 アスカは口に出してしまいそうになるのを、必死になって堪えていた。
「アスカ、行くわよ?」
 ミサトの確認が入って来た。
「出して!」
 その問いかけに、アスカは怒鳴るように答えていた。


「アスカ、落ちついてるわね?」
 ミサトは弐号機が射出口を昇っていくのを確認しながら、怪訝そうに呟いた。
「シンクロ率はどうなの?」
「あいかわらず、高い水準を示していますが、不審な点はありません」
 地上に出るエヴァンゲリオン。
 のっそりと一歩を踏み出す。
 スピーカーから、「きゃーーー」と言う悲鳴が聞こえてきた。
「非常警報は出ているんでしょうが!」
 まだ逃げ惑っている人達がいる。
 しかしアスカは一瞥しただけで、意識の外に放り出した。
 一歩ごとに起きる激震に、人々は苦情の声を張り上げ、怒る。
 あんた達なんて死ねばいいのよ。
 アスカは優しくない人達に対して吐き捨てた。
「ミサト、作戦は!」
 これ以上は近付けない、一応前回の教訓を生かし、倍の距離を安全圏としていた。
「アスカはATフィールドで周辺の被害を防いで」
「それだけ?」
 拍子抜けするアスカ。
「今あなたを失うわけにはいかないのよ、奴はn爆弾で処理します」
 避難民の誘導、急いで!
 ミサトの怒声が飛んでいる。
 そんなのほっといて、やっちゃえばいいのに…
 アスカの冷たい目が、住民から使徒へと動いた。
「え?」
 ふっと頭上から影が落ちる。
「アスカ!」
 ミサトの悲鳴。
 アスカは真上から降りかかってきた、黒い傘のようなものに包まれていた。


「あれは一体なんなのよ!」
 ミサトは外聞など気にせずに、拳をパネルに叩きつけていた。
 第十二使徒とよく酷似した使徒がもう一匹居た。
「あれも間違いなく、同じ使徒です」
「同じ?、どこが!?」
 マヤはミサトの剣幕に脅えながらも説明を始めた。
「影の様な使徒と言うのが第十二使徒です」
「それはわかっているわ」
 マヤはコクリと頷いた。
「それが空中に浮いた姿を想像してみてください」
 ミサトは空に舞う極薄のビニールシートを思い浮かべた。
「まさか!」
「基本的な構造は同じです」
 アスカを包んだ黒いシートは、地面まで落ちるとそのまま本体の影に吸収されていた。


「だっさぁ…、こんなのがあたしの死なの?」
 目の前に広がる真っ白な世界。
「ヤだな…、せっかく加持さんに会えるって決まったのに」
 その中で、弐号機は胎児のように丸まっていた。
 退屈…
 それを紛らわせるために独り言を口走っていた。
 シンジ…、よくこんなとこで堪えられたわね。
 アスカの脳裏に、寄り添い合うシンジとレイの姿が浮かんだ。
「ちえ…」
 そう言えばシンジ…
 アスカは病院で話しかけられた事を思い出した。
 なんだったんだろ…
 アスカはその事が、妙に気になり出していた。
「死ぬって決まったからかな?」
 一つ一つ、心残りを片付けている。
「でも、嫌よ…」
 シンジとは「繋がった」
 けれど拒絶したのはあいつじゃない!
 シンジのことなど、振り返りたくも無い。
「あ、そうだ!」
 アスカは思い出した、加持の細工のことを。
「最初の思い出って…、やっぱあれよね?」
 初めてのキス。
 まだ6歳のアスカ。
 加持にとっては戯れの…
 アスカにとっては真剣な、たった一度きりの口付け。
 アスカは正確になぞるように、パスコードを打ち込んでいった。


 暗くなったエントリープラグ内に、映像が浮かび上がった。
「なによ、これ…」
 それは2000年の南極大陸での映像だった。
 ノイズが多くてよく聞き取れない、ヘッドフォンならともかく、スピーカーでは良く分からない。
 だけど重要な事はそんなことでは無かった。
「あれは!?」
 そこには、発光する巨人が映し出されていた。


 ザァっとノイズが走った後、違う映像が表示された。
「ええと、これで良いのかしら?」
 ダレ?
 誰かがハンディカメラをセッティングしている。
 アスカはその映像に写っているのが、誰かに似ていると考えた。
 ファースト?
 ファーストのママなの?
 だがその考えはすぐに否定された。
「ほらシンジ、こっちにいらっしゃい?」
 小さいシンジが、屈託の無い笑顔を浮かべてしがみついた。
「良い子ね…」
 うそ?
 アスカは信じられなかった。
 これがあのバカシンジ!?
 にへっと笑う、そこにいるシンジは、今と違って明るく元気で、まるで脅えと言うものを知らなかった。


「実験中止!」
「きゃああああ!」
 ユイの叫びがこだましている。
 脅えて、泣く事も出来ないシンジ。
「ユイ!」
 司令!?
 アスカは取り乱しているゲンドウを始めて見た。
 それに初号機?
 画面はまたも切り替わった。


 ひっ!?
 アスカは両手で口元を覆っていた。
 なによ、これ!
 そこには数十にも及ぶ、水槽を泳ぐ赤子の姿が映し出されていた。
「順調だな…」
 ほくそ笑むゲンドウがいる。
 ファーストだ…
 ファーストよね、これ。
 アスカはレイを人として認識できなかった。
 そこに浮かんでいるのは、間違いなく人形であった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。