Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:15





「アスカの様子は?」
 苛ついたように尋ねるミサト。
「そろそろ限界です」
 日向は、ミサトの組んでいる腕に目をやった。
 トントントンと、内心を現わすかの様に指が動いている。
 時間いっぱいか…
「そう何度も奇跡に頼っていられないわね?」
 ミサトは踵を返した。
「あ、葛城さん!」
 ミサトは一度だけ振り返った。
「…ここ、任せるから」
 発令所を出てミサトが何処へ向かうのか?
 誰もそれを想像することはできなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ…」
 もつれ合う二人いた。
「ああ…、くぅん!、あっ!」
 裸で抱き合い、激しく腰を振っている。
「いっ、あっ、ん!」
 背中に爪を立て、抱きつく少女。
「なによこれ?」
 アスカは呆然として見下ろしていた。
「なんなのよ?」
 そこに居るのは男と女。
 少年と少女から、わずかに脱しているだけの二人が、汗だくになって励んでいる。
「やめて、やめてよ、こんなのやめてぇ!」
 おさげの少女は、両足を男の腰に絡めた。
 角刈りの少年は、少女の肩口に歯を立てる。
 髪を振り乱し、アスカは両手で顔を被った。
 涙が溢れて、流れ落ちる。
 一人は親友だった女の子で、一人は優しくしてくれた少年だった。
「アスカ?」
 アスカは小さな囁きに、指のすき間をわずかに開けた。
「アスカ、見て?」
 少年の肩越しにヒカリの顔が見えた。
 そのうつろで蠱惑的な瞳は、涙を浮かべながらアスカを見ている。
 いやぁ…
 泣き崩れそうになるアスカ。
 彼女を抱いているのは、優しくしてくれるかもと、希望を持ちかけた男の子であった。
「鈴原…」
 少女は耳元に囁いた。
「委員長…」
 あっあっあっあっあっ!
 一層高まり、そして…
 ああーーーー!
 絶叫。
 後には無音が訪れた。
 くっ、ひっく、ひっく…
 アスカは泣いていた。
 もうしゃがみこんでしまっている。
 でもまだ悪夢は終わらない。
 なに?
 アスカは瞳を開けた。
「ひっ!?」
 そこにはヒカリが居た。
 ヒカリだけが立っていた。
「ひいっ!」
 目の前には股間があった。
 厭らしくべとつき、張り付いている恥毛。
 その真ん中からももを伝って流れ落ちる体液。
 アスカは恐怖に顔を引きつらせた。
 眼からは涙が、口からは泡が吹き出てしまった。
 ヒカリは裸体を晒し、立っていた。
 ……ふっ!
 そのお腹が膨らんだ。
 アスカはその動きに目を奪われた。
 膨らんでいく、膨らんでいく。
 その小さかった胸も、お腹の膨らみに合わせて大きくなった。
「アスカ…」
 ヒカリの呟き。
 胸の先端が尖り、そこから白いものが流れ出た。
 ピッ…
 軽い音。
「いやぁ…」
 アスカは泣きながら首を振った。
 ヒカリの下腹部。
 その下の割れ目が裂けた。
「あうっ…」
 ヒカリが歓喜と快感のない交ぜになったような表情を浮かべた。
 内股をつたって、白い液を赤く塗り変える血の涙。
 ピピッ…
 裂け目はさらに上に昇った。
「いや、いや…、いやっ!」
 アスカは叫びそうになり、叫べなかった。
「あっ!?」
 裂け目の中から何かが落ちた。
 とっさにアスカは手を差し伸べていた。
 べちゃっ…
 アスカが受け止めたものは血の塊だった。
 血まみれのしわくちゃ。
 その中央付近から管のようなものが伸び、ヒカリのお腹の中へと続いていた。
 これはなに?
 ぼたぼたと、血が塊りのように降ちて来る。
 それがアスカの腕で跳ね、顔を汚した。
 だがアスカは目を奪われていた。
「…ぎゃ、ほぎゃ、ほぎゃあ!」
 塊が産声を上げた。
 それは赤ん坊であった。
 赤子は泣き声を上げていた。
「おぎゃあ!、おぎゃあ、おぎゃあ!!」
 アスカの手の内にあるのは命だった。
 生まれたての命だった。
 顔を上げると微笑むヒカリと、その肩を抱くトウジの姿がそこにはあった。


「…ばっかみたい」
 目を覚ます。
 それが何を現わした夢なのかは分からなかった。
「あ〜あ…」
 でも死ぬ寸前になって考えても意味は無い。
「そうよね?、もう死んじゃうんだからさ…」
 アスカは止めていた機能を回復させた。
「真っ白…、シンジの話と同じね?、空間が広過ぎるんだ」
 再び全ての機能をオフにする。
「暇潰しも無くなっちゃったし、…こんなことならどうやって時間を潰したのか、ちゃんと聞いとけば良かったかなぁ…」
 蘇るシンジの顔は、先程見た映像の中の幼いシンジだ。
「あたしにもあんな頃があったのかな?」
 思い出せない。
 アスカはもう一度眠りに落ちた。


 ねえ…、あたしとキスしない?
 嫌だ。
 ねえ…、あたしのこと好き?
 嫌いだ。
 ねえ…、どうしたらあたしにかまってくれるの?
 知らない。
 ねえ…、どうしたらいいの?
 側に来ないでよ。
 ねえ…、どうしてあたしを見てくれないの?
 ねえ…、どうして触れてくれないの?
 ねえ…、どうしてあたしから逃げていくの?
 そんなの簡単だよ…、だって君が僕を嫌っているから。
 アスカはその言葉に顔を上げた。
 電車の中。
 がたんごとんと揺れている。
 夕焼けの座席、真正面には吊り革にぶら下がったシンジがいた。
「ねえ?、どうして僕にかまってくれなかったの?」
 抑揚のない言葉。
「…あんたはあの女の方がいいんでしょ?」
 逃げるように顔を反らせる。
 膝の上で揃えられていた両手に力がこもった。
 わずかにスカートに皺が寄る。
「だってアスカは優しくしてくれなかったから…」
 うつむく少年。
「当ったり前じゃない、なんであたしが…」
 アスカはぎゅっと唇を咬んだ。
「僕はアスカを傷つけた」
「そうよ、あんたさえ居なければ、あたしは幸せだったのに…」
 顔を上げる。
 シンジ?
 その顔は白くぼやけてしまっている。
「…じゃあ、今は幸せなんだね?」
 その中で、冷笑する口元だけが像を結んだ。
「どういう意味よ?」
 食って掛かる。
「だって僕は、もうあの世界にはいないじゃないか…」
 その口調はバカにしている。
「アスカの望み通りになったんだ、これでいいんでしょ?」
 違う!
 心の中で叫んでいた。
「確かにあんたなんか居ないほうがいいわよ!」
 でも違うと、心のどこかが痛みだした。
「あたしは憎かっただけよ!」
 存在意義を奪うシンジが。
 アスカのプライドをあざ笑うシンジが。
「憎かっただけよ…」
 ポタリと…、手の甲に滴が落ちた。
「勝手だね?」
 シンジの声の質が変わった。
「君とシンジ君が同じだと思ったのかい?」
 はっとするアスカ。
 そこには見知らぬ少年がいた。
 赤い瞳と、銀の髪。
「あんた、誰?」
 冷ややかな笑み。
「僕は影さ」
「影?」
「そう、弐号機のATフィールドに浮かぶ揺らぎのようなものさ…」
「あんた…」
「君の心を写しているただの鏡にすぎない…、それが僕の正体だよ」
 アスカは白雪姫の鏡を思い出していた。
 自分のもっとも醜い欲望を確認する。
 そのための大きな鏡が、彼だった。



続く





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。