Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:16
「お腹が空いたわね…」
混濁していくアスカの意識。
目に写るL.C.L.は濁り出している。
しかし目がぼやけていて、浮かんでいる汚れは良く見えない。
酸素欠乏症?、どの道もう長くはないわね…
アスカは夢と現実との境目を失いかけていた。
コウン…
何かの鼓動のような機械音が響く。
「様子はどうかね?」
前に立つゲンドウの代わりに冬月が尋ねる。
「コアの起動を確認、拘束具及び装甲板の装着作業を終了すれば、後はパイロットとのシンクロテストを行うだけです」
マヤはまとめていたレポート用紙から、ちらりとゲンドウの背後へと目をやった。
あの子は知ってるんだ…
レイが無表情を保っていた。
目の前の巨大なプール、その底には胎児のように体を丸めている巨人がいた、零号機の素体である。
「どうするかね?、碇…」
「ああ…」
ゲンドウは生返事を返した。
ふうっとため息をつく冬月。
「全ての作業が終了するのは?」
「あ、はい!」
マヤは慌ててレイから視線を外した。
「約12時間後に全ての行程が完了します…」
「シンクロテストを省いても間に合わんな…」
「ああ…」
ゲンドウがようやく動いた。
背後のレイに振り返る。
「レイ…」
「はい」
「初号機を使え」
「碇!」
マヤのことを忘れて取り乱す。
「初号機にはまだ!」
なんなの?
目を丸くするマヤ。
シンジが出て来ないことは知っている。
でも、ただそれだけのはずなのに…
L.C.L.の循環によって、常に必要な栄養価は補給されているはずなのだ。
L.C.L.そのものも、常に交換されている。
「プラグの強制排出は可能だな?」
ゲンドウは冬月を無視した。
「…はい、MAGIのハッキングプログラムによって、初号機へのコンタクトは再開可能な所にまでたどり着きました」
答えながらも冬月の態度が気にかかり、自然と語尾は濁ってしまった。
「ならばいい、エントリープラグを排出、破棄する」
「碇!」
「司令!?」
マヤは信じられないとばかりに声を出した。
「でも、それじゃあシンジくんが!」
冷たい目がマヤを見据える。
「命令だ」
「はい…」
唇を噛むマヤ。
レイもゲンドウを探るように見ている。
「どうした?」
「いえ」
目をそらさずに答えるレイ。
レイはそのまま反転し、プラグスーツへ着替えるために、ロッカールームへと歩み去った。
「シンジ君…」
アンビリカルブリッジの上にミサトはいた。
「聞こえているわね?」
声には悲しみが混ざっている。
見上げているのは初号機だ。
「正直、あなた以外に頼れる相手がいないのよ…」
シンジへ弱さを見せている。
ミサトは自分の胸元を押さえた。
「また押し付けるしか無いのね…」
シャツが伸びるのもかまわずに力をこめる。
「何のためにいるのかしらね、あたし…」
そこには初号機がある。
絶対の力を持つ巨人。
「結局あたしは、シンジ君のお姉さんにも、お母さんにも…、友達にも恋人にもなれなかったわね?」
巨人の目に輝きはない。
「当たり前ね、あたしにはあなた達と同じ年の頃の想い出なんて何も無いもの…」
記憶にさえ残っていない、ただうずくまっていただけの日々。
シンジ達と共感しあえるものが何もない。
「だからこだわっていたのかもしれない、あなた達が子供らしくしてくれることに」
自分に欠けている姿を見せている事を。
「身勝手ね…、その反面、こんな戦いを強要して来たんだから」
日常へは戻れない戦いへ狩り出してきた。
罪悪感が胸をえぐる。
しかしミサトは、エヴァから、その向こうにいるシンジから目をそらしはしなかった。
「あなた達があたしの代わりにならないなんて、当たり前なのに…」
足りない記憶を、望んでいた想い出の代役を、シンジ達にさせようとしていた。
「バカよね、ほんとに…、ただ長く生きてるだけで、あなた達より大人だと思い込んでいたなんて…」
人の何十倍にも圧縮して突きつけられた体験と経験が、シンジ達に子供のまま成熟した大人の精神を要求し、そして許容量を越えてしまった。
押し潰されないためには、心を閉ざすしか無いものね…
気持ちいいでしょ?
壊れたアスカ。
やめてよ…
何も見なくなったシンジ。
ミサトにない14歳の記憶。
その時に何を思い、何を考えていたのか?
支えるために、その方法を探るために必要なはずの経験が、ミサトには足りていない。
「それでもシンジ君?、あたしはあなたに問うわ」
何を望むの?
「本当に、それで良いのね?」
シ…ン……
耳に痛いほどの張り詰めた空気。
ミサトはそれを残したままで、ケイジから離れていった。
「こんなものが!」
アスカは手の内にあった赤子を振り上げた。
しかし体が硬直し、動かなくなってしまう。
その様子をじっと見ている、渚カヲルの姿をした者。
「…叩き付けないのかい?」
ビクリとアスカの体が震えた。
「…んでよ、なんで」
アスカの頬を涙がつたった。
「子供なんていらない、赤ん坊なんて産まない、嫌い、育てない、そう決めてたのに!」
頭の上から落ちて来る血の滴が、アスカの髪を染めていく。
「なぜ決める必要があるんだい?」
アスカは膝を折った。
「嫌だからよ」
そのまま、血で汚れたままの赤子を抱きしめる。
「生む事が?」
「女になるって事がよ!」
赤ん坊の後頭部に手をやる、そのままだと重みで折れてしまいそうだったから。
「加持さんなら、いいのかい?」
アスカは左右に大きく振った。
「加持さんなら大人にしてくれた」
「することが、大人になる事にはならないだろう?」
「大人だからするのよ!」
「12歳で母親になる子もいる、端的に考えている事こそ子供の証拠さ」
アスカは嫌な奴!っとカヲルを見据えた。
「嫌いなのかい?」
アスカは答える代わりに顔をそらした。
「君自身の想いなのに?」
カヲルを睨み付けるアスカ。
「言ったろう?、僕は君の心を写しているだけの鏡だとね?」
だからこそ余計に腹立たしい。
あたしの心を覗かないで!
せっかく見ない振りをしてきたのに!
しかし覗かされているのはアスカ自身だ。
他人に覗かれているわけではない。
「それが大人になる事だから、シンジ君とキスしたのかい?」
目を剥くアスカ。
「そんなのあたしの勝手じゃない!」
しかしカヲルは冷笑する。
「君は自分を傷つけたかったのさ」
悲劇に酔いたかった。
可哀想な自分でありたかった。
「加持さんに振り向いてもらうために、幸せになってはいけなかった」
「違う、違う、違う!」
泣き叫ぶ。
「そんなつもりでしたんじゃない!、あたしを見ようともしなかったあいつに腹が立っただけよ!」
キスすれば、少しは自分を見るかもしれないと思った。
唇をかわした。
一秒、十秒、三十秒。
それが分になっても、シンジから動こうとはしなかった。
なんでよ!
唇を押し付けて来ない。
舌を差し込んでも来ない。
抱きすくめようともしない。
「あいつはあたしが離れた瞬間にほっとしてた!」
「君を求めないことは、そんなにも罪なのかい?」
アスカは激しくかぶりを振る。
「彼はいつも君を求めていた」
アスカはその事実を否定する。
「君に食事を作り、君のお風呂の用意をし、君と会話を持とうとした」
「そんなの嘘よ!」
認めようとしないアスカ。
「君はいつも怒っていたね?」
「あいつが謝るからじゃない!」
卑屈な目が思い出される。
「彼は君と同じだった」
「あたしはあいつとは違うわよ!」
カヲルの笑みがすっと消える。
「同じだよ」
「違うわ!」
「同じだね」
「どこがよ!」
アスカに聞く態度が生まれた。
カヲルを睨むように見上げる。
まるで敵に相対しているかの様に。
「初号機、配置につきました」
これが司令のやり方なのね。
歯ぎしりするミサト。
シンジのプラグは保存処置も行われないままに、格納庫隅に転がされた。
代わりに予備のプラグがインストールされた、座席にはレイが座っている。
「碇君の匂いがする…」
レイは目を閉じると、それを味わうかの様に深くL.C.L.を吸い込んだ。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。