Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:16





 コウン、コウン、コウン…
 黒い球体が移動を始めた。
 山間をぬって移動する。
 その真正面に居ながら、初号機は動こうともしなかった。


「あたしはあいつとは違うわよ!」
 アスカは何かに向かって叫んでいた。
「君には加持リョウジが居た」
 冷ややかな態度を崩さない、少年の像。
「それがどうしたのよ!」
「シンジ君にとって、そうなってくれるはずだったのが葛城ミサト」
 加持とミサト、二人が並んで現われる。
「加持さん…」
 加持はにやけた笑いを張り付かせ、ミサトはどこか思い詰めた表情で口を引き結んでいる。
「君は大人を演じていた」
 加持と並ぶアスカ。
 これがあたし?
 酷く張り詰めていることがわかる。
「肩に力を入れ、人当たりの良い自分を演じる事で対して来た」
 惣流・アスカ・ラングレーです。
 笑顔の一方で、ラブレターを踏み付け、バカにする姿があった。
「それは加持リョウジに対しても同じだったね?」
 背伸びをしている自分が居た。
「気の抜ける相手が欲しかったんじゃないのかい?」
 そこにシンジが現われた。
 びくっと脅えるアスカ。
 無意識の内に、腕の中の子供を強く抱いてしまっている。
 不安をそこへ逃がすかの様に。
 シンジは脅えた目をしていた。
 真っ直ぐにアスカを見ないでいる、まるで本物。
「しかしシンジ君はそうはなり得なかった、なぜなら君と同じだったからさ」
 二人の姿が消え、シンジとアスカの像だけが残った。
「あたしのどこが、こいつと…」
 絞り出すような声。
「君も気付いていたんだろう?、シンジ君には人と対等につき合った経験が無い」
 それはエヴァのパイロットに選出されていたアスカにも言える事だった。
「言えない言葉ばかりが増え、彼は己を隠すために、君とは違う方法を選んだだけさ」
 ごめん…
 シンジが一言謝った。
 内罰的!っとアスカが罵った。
 そんなやり取りがアスカの前で展開される。
「君が強気で自分を隠していたように、シンジ君は己を殺す事で自分を隠した」
 シンジは脅えて丸くなった。
 シンジの後ろに、どんどん情けない顔をするシンジの像が現われていく。
 それに対して、次々と目を釣り上げていくアスカの像が並ぶ。
「人とのアプローチの仕方が違っただけさ」
 プライドを高くするアスカと、低くするシンジ。
「それでも真実の自分を偽っていた事には変わりは無い」
 アスカは黙り込んでいた。
 肩が小さく震えている。
「人を恐れていたのも同じ、人に傷つけられる事を恐れていたのも同じ」
 カヲルはアスカの前に片膝をついた。
 アスカは顔を上げた、くしゃくしゃに潰れて、涙が流れている。
「シンジ君も気の抜ける相手が欲しかった、お互いに求めていたものは同じだよ」
 離れて欲しくなかった、だからシンジは下手に出続けた。
 アスカも手放したくはなかった、だからキスした。
 お互い、可能性のある相手だった、何かの可能性のある。
「でも…」
 カヲルは首を振って言葉を遮った。
「思い出して、彼は本当に君の存在を脅かして来たのかい?」
 アスカとユニゾンするシンジ。
 隣に並んだ瞬間。
 第十二使徒に囚われ戻って来たシンジ。
 親友の乗るエヴァをくびり殺したシンジ。
 突然帰って来て、歯の立たなかった相手を倒してしまった。
「思い出すべきだよ、君は」
 死の恐怖から逃げ出して来たエヴァを。
 泣き叫びながら友達を殺しかけた姿を。
 切り落とされた弐号機の頭に、シンジが何を見たのかを。
「彼は君を傷つけるために、エヴァに乗っていたのかい?」
 自分を殺して、自分を傷つけて、泣くのをやめてまで。
 好きと言ってくれた人を殺してまで。
「でも…、もう遅いわよ」
 アスカは泣いていた。
 恥も外見もなく泣いていた。
 涙を流し、鼻をすすりながら泣いていた。
「あたし、シンジ、傷つけた…」
 ぐす、ずずっと、鼻をすす音がする。
「ただ優しくしてもらいたかった、彼は君と同じだね?」
 でもお互いに、優しくすると言う事を知らない。
 方法が分からなかった。
「本当は簡単な事なんじゃないのかい?」
 信じること。
 自分がされて嬉しいと思う事は、他人だって嬉しく感じてくれると信じること。
「でも」
「恐がることはないさ」
 彼はアスカの腕の中の赤子を撫でた。
「この子は命だよ」
「命?」
 不思議そうな顔をして問い返す。
「そう、人は命を育み、生み、育て、そしていずれは死ぬ」
「死ぬの?」
「そうだね?」
 カヲルはようやく微笑んだ。
「でも大切な事は、どれだけ充足できるか、満ち足りていけるかと言う事さ」
 あ…
 アスカは赤子ごと抱きすくめられた。
 あたたかい…
 そこにあるものは自分の心。
 先程までの嫌な感じがしない。
「そろそろ気付けたね?」
 彼はアスカの耳元で囁いた。
「君の求めていた人も、君を見てくれる人も、誉めてくれる人も、安らぎを与えてくれる人も、みんな同じ命なのさ」
 ぎゅっと、赤ん坊を抱く手に力をこめる。
「恐れることはないさ、君自身も、君を好きと言ってくれる人達も」
 等しく命として生まれて来た子供達であるのだから。
「それでも君は嫌うのかい?」
 人を。
「妬み、恨み、そして傷つけ、見下し、存在そのものを疎む」
 なら君は…
「誰に認めてもらうと言うんだい?」
 その存在を。
 自己の確立を。
 存在意義を。
「たまたまシンジ君は君と同じ価値観の得方を見付けてしまった」
「シンジも?」
 頷くカヲル。
「君より遅かった、その引け目が彼に自信を失わせていった…」
 アスカが傷つくから。
 自分の頑張りはアスカの努力を無にしていく。
 それがアスカに苛立たしさを募らせる。
 結局そのはけ口はシンジ自身に戻って来る。
「彼は君に譲ったのさ」
 その活躍の場を。
 家族を、家を捨てて。
「シンジが…」
「分かっていたんだろう?」
 でなければ、ここに居るカヲルが口にできるはずは無い。
 カヲルの姿が薄らいでいく。
「君からも新しい命は生まれる」
「あ…」
 アスカは腕の中の命の重みが増したような気がした。
「その子が君の望むシンジ君になるかもしれない、あるいはシンジ君を変えるかもしれない」
 君は、なにを望むんだい?
 カヲルの最後は、とても柔らかな微笑みであった。


 すっと目を開くアスカ。
 命…か。
 アスカは下腹を撫でた。
 どうなのかしらね?
 胸からみぞおちの辺りまで一度へこみ、そこから柔らかな膨らみを描いている。
 スーツの表皮を撫でた指先が、下腹部から股の間に達した所で止まった。
 シンジと繋がった時のことを思い出す。
 シンジとした時から生理は来ていない。
 しかし定期検診から、妊娠していないことは分かっていた。
 ただの生理不順である。
「そんなの、嫌…」
 アスカは否定したくなっていた。
「子供が生めないなんて、そんなの嫌…」
 涙が溢れそうになる。
「嫌よ、いや、いあああああ!」
 アスカは暴れながら頭を抱え込んだ。
 仲むつまじい家族が居る。
 トウジ、ヒカリ、ケンスケ、ミサト、リツコ、そしてシンジ。
 みんなそれぞれに相手が居る、その腕には赤子が居る。
 アスカだけがそこにはいない。
 嫌、嫌よ、嫌…
 アスカはポツリと小さく漏らした。
 涙がぽつぽつと膝で跳ねる。
「誰か助けて、助けてよ…」
 ドクン…
 何かの鼓動が聞こえた気がした。


 えーん、えーん、えーん。
 泣いている女の子が居る。
 助けてあげないの?
 びくりと体をすくませた。
 シンジだ。
 夕方の公園。
 汗ばむ手のひらを、握り込もうとした瞬間だった。
 振り返る。
「君は…」
 そこには小さなシンジが居た。
「お母さん、来ないのかもしれないね?」
 その子はシンジを無視した。
「僕にどうしろって言うのさ?」
「別に…」
 ふたりで女の子を眺めている。
「じゃあ、僕が行くよ?」
 その子の言葉に、シンジは顔をそらした。
「そう、じゃあね…」
 男の子が駆け寄っていく。
 どうしたの?
 みんながいじわるするの。
 大丈夫だよ、ぼくが優しくしてあげるから。
 ほんとう?
 うん。
 ほんとにほんとう?
 うん!
 ほんとね!?
 抱きつかれる幼いシンジ。
 僕もああできればよかった…
 シンジはまた情けない顔をしていた。
 幼いシンジはそんなシンジを、アスカの肩越しに嘲っていた。



続く





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。