Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:17
死ぬのは、嫌…
アスカは独りを感じていた。
孤独があらゆる飢餓感を与えて来る。
愛情から始まり、それはやがて孤独な死へと繋がった。
ママ…
穏やかな陽射しの中を、手を繋いで歩く二人。
ママ…
腐敗し、蛆のわいた母の顔。
はぁ、はぁ、はぁ…
生を渇望するアスカ。
人の定めか…、人は独り寂しさと孤独の中で生きていかなければいけないというのに…
バシュ!
それまで閉じられていた弐号機の瞳が開いた。
同時にフェイスガードも解放される。
その前に浮かんでいる渚カヲルの像が瞳に写し込まれた。
君は何を望むんだい?
カヲルは弐号機が見ているものを見た。
そこには白銀の何かが漂っていた。
人型の巨人。
吸い寄せられるように、引き寄せられて来る。
四号機、その中に眠る魂。
S
2
機関搭載実験中に暴走した機体。
パイロットは死んでいるのかい?
反応は無い。
でも生きている…
トクン…
その機体中央部にある赤い紅玉が明滅していた。
暴走状態にあったエネルギーの放出、その影響によりディラックの海に落ち込んだか…
しかしコアにはヒビが入っていた。
ガコン!
弐号機は自分の下顎に手をかけ壊した。
その拍子に口の端から涎が飛ぶ。
「さあ行こうかリリン?、君に必要なものはここにはないよ…」
弐号機の手が四号機の顎をつかんで持ち上げる。
グルルルル…
漏れ出る唸り、目に映るコア。
弐号機…、アスカは飢えと乾きを癒すために、四号機の体に食らいついた。
「レイ、逃げて!」
ミサトが叫ぶ、しかし初号機は動かない。
「碇…」
「心配するな、じきに終わる」
ゲンドウは冬月の小声にも動じない。
何かの確信を持っている。
「来るわ…」
「レイ!?」
ビクリとレリエルが一度だけ震えた。
その直後、ブルルルル…と小刻みな震動を始める。
「何が起こっているの!?」
「わ、わかりません!」
悲鳴を上げる発令所。
レイはくっと顎を引いた。
レリエルの本体である影が消え、球体の縞模様が歪み出す。
フルオオオオオオオオン!
「なんなの!?」
レリエルの中から獣の雄叫びが聞こえた。
「まさか!?」
エヴァなの!
レイはまだ手を出さない。
タイミングを間違えれば助け出せない…
うまくやれるよ。
レイは空耳を聞いた。
はっとして周囲を見渡すが、誰もいない。
ブシュウ!
レリエルのまだら模様が消えた。
初号機の時と同じように、レリエルの一部が裂け始めた。
「弐号機!?」
ウオオオオオオオン!
雄叫びを上げている。
両手で裂け目を押し広げて姿を現わす。
「弐号機…、顔が見えてる」
ミサトはぞっとした。
四つの緑色の眼球に、顎の限界まで裂けた口。
その歯には肉片が挟まっていた。
ブブ…
レリエルが再び震えた。
シュンっと、影が再び広がり始め、それに合わせて球体の方も閉じようとあがいた。
ダメだ!
ダメ…
レイは誰かの意識をなぞるように動いた。
プログナイフを抜き投げ付ける。
ブシュ!
球体に刺さったのは、半ば実体化していたからだろう。
一瞬動きがとまる。
ウオオオオオ!
弐号機はそのすきを逃さず、一気に引き裂いた。
ブシャア!
血の雨が降る、球体と弐号機が一緒に地面に落ちた。
はっとするミサト。
「レイ、アスカを回収して早く!」
「了解」
レイは冷たい声で了解する。
倒れ伏している弐号機、その腰には抱きつくようにして、白銀のエヴァが絡み付いていた。
腹部から下を失い、背骨と一番下の肋骨を覗かせた四号機が。
「とかくこの世は謎だらけ、か…」
ミサトはケイジから初号機を見上げていた。
弐号機を回収しながら戻って来た初号機。
そのプラグから出て来た人影は二つあった。
「レイ…、それにシンジ君!?」
レイはシンジを抱きかかえるようにしていた。
パン!
怒りに震え、アスカの頬を張るミサト。
その情けなさに、目に涙が浮かんでいる。
「こんなものを信用して…」
ミサトはアスカが再生させた記録に怒っていた。
エヴァに仕掛けられていたレコーダーが、アスカの見た記録を取り込んでいたのだ。
「加持は死んだわ、その現実から逃げたいだけならエヴァを降りなさい」
病院の個室、ベッドから半身を起こしたままでうなだれているアスカ。
「シンジ君はエヴァに取り込まれていたわ、幸いにもね」
ぴくっと、アスカの肩が反応する。
「でもね?、もしプラグに閉じこもっていたのなら、シンジ君は殺されてしまう所だったのよ?」
二の腕をつかみ、爪を立てるミサト。
「…シンジは?」
ようやく呟くアスカ。
「碇司令に連れていかれたわ、目を覚ます前にね」
全てを隠すつもりね…
その表情に苦渋が滲んでしまっている。
「ねえ…」
アスカは尋ねた。
「あの記録は、嘘なの?」
アスカにとっては、今それが一番大事な事であった。
ブシュ…
暗闇の中に光がもたらされた。
うつむいていた女が顔を上げる。
「出ろ」
諜報部の男が無粋に声をかけた。
「誰の命令?」
尋ね返す金髪に泣きボクロの女性。
「碇司令だ」
苦笑する。
役に立たなくなっても、使える事が見つかるまで置いておくなんて、案外貧乏性なのかしらね?
リツコは気だるげに立ち上がった。
「ごくろうさんやったなぁ?」
ネルフの宿泊施設の廊下で、トウジは特に意識せずにねぎった。
「シンジは?」
「帰ってこうへん、なんや?、会いとうなったんか?」
「なあ、ね…」
トウジは呆気に取られて言葉を失っていた。
その脇をすり抜けるように、自室へと向かう。
アスカは部屋に入るなり、うっくとこみあげる物を我慢できなくなった。
「うげぇ!」
ごみ箱に取り付き、吐き戻す。
「げぇ、げええええ!」
すえた匂いが広がっていく。
鼻に逆流しても止められない、涙も滲み出す。
「げ、え…」
胃液を最後まで出し切って、荒い息をついても嘔吐感は消えてくれない。
「気持ち悪い…、まだ残ってる」
食感が、味が、匂いが。
エヴァを食った。
「げぇ!」
思い出す度に吐きかける。
「はぁ、はぁ、はぁ…、くっ、酷い、顔ね?」
顔を上げた所に、小さな鏡があった。
整理棚の上に置かれている小さな鏡だった。
「エヴァ、エヴァって何?、使徒…、あたしは…、どうして?」
何の為に帰って来たの?
今頃はエヴァから下ろすかどうかの会議が開かれているはずだ。
「その前に、行かなくちゃ…」
ベッドを台代わりに手をついて立ちあがる。
「エヴァから降ろされたらここにいられなくなる、その前に確かめなきゃ…」
シンジは何処にいるの?
わからない。
アスカはぐいっと、腕で口元を拭った。
「…あいつなら、きっと」
ミサトで分からないのなら、他の誰にも分からないはず。
「でも、あいつなら…」
綾波レイ。
比較的ガードが薄く、そしておそらくは全ての真実にもっとも近い人間を、アスカは直感的に選び出していた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。