Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:17





 現実って、なに?
 ネルフ宿泊施設。
 綾波レイは布団の上に転がっていた。
 これは、記憶?
 まだ、生きてる…
 零号機自爆。
 それを起こし、そして呟いたのは確かに自分。
 今は、わからない…
 指先まで神経を行き届かせる。
 だが感覚はますます曖昧になっていく。
 わたしは、誰?
 借り物の肉体のように、とても重い。
 意識を取り戻した時、医師はこう言った。
 君は、誰かね?


 瞼を無理に開かれ、ペンライトを当てられる。
「君は、綾波、レイだ」
「綾波、レイ…」
 呟きが漏れる。
 反応を見て取った医師は、看護婦に頷き、ベッドを変形させた。
 ギッ…
 背の側が起こされる。
 !?
 半ば無理矢理だったために痛みが生じた。
「見なさい」
 正面の壁にスライドが投射される。
「碇、ゲンドウ」
「……」
 名前と、役職が映し出されていく。
「次は…、葛城、ミサト」
 そんな事がレイの呻きとは関係無く、延々数時間に及んでくり返された。
「…覚えたかね?」
 苦しみながらも、頷くレイ。
「なら結構だ、後は休みなさい」
 ベッドが元の形に戻された。
 楽になったが、ほっと息はつかなかった。
 ただそのまま眠ろうとしただけだった。


 わたしは、何も知らない…
 人の関係に付いても、探りを入れるように接している。
 碇シンジ…
 その中でも、全ての関係のほぼ中心に居る人物だ。
 あなたは、誰?
 レイはゆっくりと瞼を開いた。


 何故ここに居るんだい?
 誰かの声が聞こえる。
 とても暗い世界にシンジはいる。
 だって…
 なんだい?
 誰も僕に優しくしてくれないから…
 逃げて来たのかい?
 違う!
 僕を殺してまで生きる道を望んだのに?
 違う!
 人を殺してまで生きて来たのに?
 違う!
 人に誉められたかったんだろう?
「違う違う違う!」
 顔を上げる、目の前に居るのはエヴァ初号機だ。
「人間じゃない!、使徒だったんだ、使徒なんだ!、だから殺したんだ!」
「でも君は人間だと認めていた…」
「違う!」
「認めてくれたじゃないか…」
 初号機の顎が開いている。
 その舌の上に乗っているのは、渚カヲルの生首だ。
「僕のことを好きと言ってくれるんだね?」
「カヲル君!」
「だから苦しいのかい?」
 歯を食いしばる。
「辛かったんだ…」
「隠す事が?」
 顔を上げるシンジ。
「我慢したんだ…、なのにみんな僕に押し付けるんだ!、戦うこと、守ること、支えること!、そんなのできるわけないよ!」
 叫びがこだまする。
「…だからここに閉じこもるのかい?」
「僕は…」
「それでも君は、君のままで逃げるのかい?」
「それ、どういう、意味?」
 カヲルは落ち窪んだ眼を向ける。
 微笑みを浮かべて、真っ黒な目を。
「考えてみるといいよ…、そのための時間はあるからね?」
 意識は再び遠くなった。


 考えれば考えるほど、綾波レイにはおかしな点が浮き上がる。
「ファースト、あいつのマンション…」
 碇司令のお気に入りなのに…
 あのセキュリティの低さはどういうことだろう?
「解体寸前のマンション、住人のいない建物、何もない部屋、監視する人間すらいない?」
 自分でさえネルフのトップに近い人間の保護観察を受けている。
「どういうこと?」
 アスカはレイの部屋へと向かった。


 現在はシンジの住んでいる部屋の隣にレイは住み込んでいる。
 その戸を遠慮なしに開ける。
「…いないの?」
「なに?」
「ひっ!?」
 アスカは驚いて振り返った。
「あ、あんたどっから!?」
「…隣」
「隣?」
「碇君の、部屋に…」
 ダン!
 胸倉をつかんで壁に押し付ける。
 レイは一瞬、苦痛に顔を歪めた。
「…あたしの質問に答えて!」
 アスカは色々な言葉を全部飲み込んで、集約した。
「エヴァって何!」
 ゆっくりと無表情に戻るレイ。
「またそうやって隠すの!?」
 無言で返すレイ。
「それも命令なの?」
「違うわ…」
「じゃあなんでよ!」
 アスカの声が大き過ぎて、その後の無音が耳に痛い。
「…死ぬわ、あなた」
「!?」
「それでも、いいの?」
 ぎゅっと唇を噛み、アスカはレイを強く睨んだ。
「…そう」
 アスカの手に手をかけ、離させる。
「…来て」
「どこへ!?」
 出て行こうとする、レイの背を睨み付ける。
 立ち止まるレイ。
「…真実の、ある所に」


 どこなのよ、ここは…
 アスカには通行が許されない最深部。
 ターミナルドグマを下りていく二人。
「ここは?」
「わたしの生まれた場所…」
「ここが!?」
 暗い通路をただ進む。
 明るい…
 その先に淡い光が存在している。
「あそこに、あなたの求める人がいるわ…」
「!?」
 アスカはレイを追い抜いて駆け出した。
 あたしの求める奴?
 誰?
 誰よ!?
 無意識に浮かぶのは卑屈な少年の顔だ。
 なんであんな奴の!
 駆け込んだアスカは、そこにいた人物に息を飲んだ。
「…リツコ!?」
「珍しいお客様ね?」
 ごくりと唾を飲み込む。
「…生きてたの?」
「まだ処分されていないわ」
 やけに冷めた笑みを浮かべる。
 感情がどこか欠け落ちていた。
「…ここへは、そう、レイが連れて来たのね?」
 遅れて入って来た少女にため息をつく。
「あなた達、それがどういう事か分かっているの?」
 思い詰めた表情のアスカと、無言のレイ。
「そう…、わかったわ」
 リツコは道を譲った。
 その向こうにあるシリンダー状の透明の筒。
 黄色い液体で満たされたその中に、少年が一人浮かんでいた。
「シンジ!?」
 慌てて駆け寄り、バンッと強化ガラスを叩く。
「シンジ、シンジ!」
 気が狂ったように叫び続ける。
「…無駄よ」
 リツコの言葉に、キッと振り向く。
「なんでよ!?」
「…そこにあるのは抜け殻だから」
「抜け殻!?」
「そこにあるのはエントリープラグから回収されたシンジ君の肉体」
「シンジなんでしょ?、ねえ!」
 リツコの白衣にすがり付く。
「魂はなかったのよ…、何処に消えたのかしらね?」
「冗談言わないで!」
 パン!
 リツコがふらついた。
 叩いたアスカは涙を流している。
「ふざけないで!、シンジはここに居るじゃない、なんでよ!」
「逃げたのはシンジ君なのよ!?、誰から逃げたかなんて、言う必要もないでしょう!?」
 その答えにアスカは怯んだ。
「あ、あたしは…」
 ビーーー!
「非常警戒!?」
 アスカは即座に反応した。
 しかし迷ったようにリツコに視線を戻す。
「…逃げはしないわ?」
「ほんとに?」
「見張られているもの、わたしもね…」
 リツコの笑みは歪んでいた。




続く





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。