Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:18





 シンジへの身体検査が始まった。
 メインはマヤで、リツコはそれを見ているだけ。
「自分で検査した方が、データに手を加えやすいんじゃないの?」
「…そのためのシフトでしょ?」
 ミサトの揶揄を受け流す。
 リツコは残り二人の立会人に目を向けた。
 通常の診察室だが、機材は倍ほどに増えている。
 そのほとんどはシンジに繋がれているのだが…
「どうなの?」
 細かいことは機械が計測している、マヤはシンジの瞳孔や舌を調べていた。
 より険しく顔をしかめるマヤ。
「どうなのよ!」
 アスカは焦れて大声を出してしまった。
 ちらりと目だけをレイは動かす。
「落ちつきなよ、アスカ…」
 相変わらずシンジはへらっとして笑っていた。
「なによ!?」
「検査結果はまとめないとね?、口にして良い事かどうかを決められないんだよ?」
 ギクッと傍目にも分かるほど動揺するマヤ。
「シンジ君、あなた…」
 シンジはしぃっと、口元に人差し指を当ててウィンクをした。
「リツコさんは知ってるよ、綾波は察してるかな?、アスカは知らない…、よね?、ミサトさんはどうなんだろ?、まあマヤさんが記録したデータはデータとして処理されるだけですよ」
 間の抜けた顔を晒してしまう。
「それって…」
「データはMAGIによって処理され、他のリンク、起動済みのMAGIタイプへコピーされる、もちろんその検査結果は知るべき人達が閲覧するでしょうね?、ね?、リツコさん?」
 リツコ!
 敵意のこもった視線を向けるミサト。
「あなたは何処まで知っているの?」
 しかしリツコはミサトを無視した。
「…第11使徒がいけませんでしたね?」
 シンジは苦笑しながら嘲ろうとする。
「11…、なに?」
「MAGIを乗っ取ろうとした使徒ですよ、ミサトさん」
 リツコが話そうとしないので、シンジが代わりに答えてあげた。
「共存、共棲、そして共栄…、人と使徒は共に生きることはできない…、使徒は人への可能性だからね?」
「ちょっと待って…」
 割り込みをアスカがかける。
「使徒があたし達の可能性だっての!?」
 シンジはバカにする様な笑みを浮かべた。
「なによ!」
「そう思うのならそれでも良い…、ミサトさんにはわかりますよね?」
 ミサトはにがにがしげな表情を浮かべた。
 アスカはアスカで、悔しげにしている。
 まだ隠してる事があるんだ!
 頭に来過ぎて、声にできない。
「使徒同士が仲良く生きていくことはできない…、なのに道を示してしまった」
「共に生きられると?」
「そうですね?、何かが歪み始めたんですよ…、ただそれも」
「ええ…、シナリオの通りよ」
「リツコ!?」
「あの人のね?」
 シンジはその冷たい視線を、やんわりと微笑みで受け流した。


 いいように使うためには、満足するだけのお駄賃をあげること、か…
 この場合は真実こそが駄賃に値するだろう。
 カチャカチャとスプーンやフォークの音が鳴る。
 食堂、今はシンジとアスカ、それにレイの三人の姿しか見えない。
 …気配で分かるわよ。
 監視の目があまりにも多過ぎるのだ。
 隠せないほど過多になっている。
「そっか」
「なに?」
 アスカの呟きを、シンジが興味心だけで拾い上げる。
「なんでもないわよ!」
「そう?」
 つまらなさそうにカレーをつつくシンジ。
 それを見ながらアスカは考えをまとめた。
 監視の目を多くすれば、その中に紛れ込んだ別のものを見付けられなくなる。
 レイを重要度のままに監視すれば、他の機関の盗聴機器を見逃しかねない。
 全てをゼロにすること、そして外部での接触、あるいは行動もなくすことで、全ての情報を守っていた。
 唯一レイ自身を連れさられた場合の心配だけが残るのだが、それこそ保安部の人間の仕事である。
 人気の無いマンションでは、自然な形の侵入は不可能だ。
 人影があるだけで不自然になるのだから。
 アスカが考えにふけっている間も、シンジはそわそわしてアスカの様子を盗み見ていた。
「あんた…」
「え?」
「変わったわね?」
 シンジはぽかんとした後、小馬鹿にしたような笑いを漏らした。
「なによ?」
「なにを期待してるの?」
 シンジのその言いように、アスカはカッと赤くなった。
「ば、バカなこと言わないでよ!」
「友達のように話しかけられること?、それとも弟のように甘えてもらうこと?」
「だ、誰があんたなんかと!?」
「そうだよね…」
 シンジはふっと暗くなった。
「アスカは僕を必要としていない…、なら僕が自分で生きられるようになっちゃいけないの?」
 シンジのすがるような目にドキリとする。
「自分で生きていくんだ、そのために笑うんだ、誰にも頼らずにね?」
「あんた…」
「まるでアスカみたいだろ?」
 シンジの口元が、ピクピクと何かを我慢するように引きつっている。
 な、な、な!
 その意味合いに気がついた。
「ばかにして!」
「くくっ…、アスカっておかしいよね?」
 シンジは笑いを堪えていたのだ。
「なにがよ!」
「思い通りにならない、思った通りにならない人間を嫌うんだ」
「そんなこと…」
 それは事実だ。
「あれ?、認めちゃうの?」
 シンジはスプーンの先をアスカに向けた。
「だって…」
「違うよ、アスカは嫌いになるんじゃない、苛付くんだ」
 え?
「思った通りにしてくれない人に…、それも違うね?、夢見てた通りに動いてくれない世界そのものに苛立ってるんだ」
 自分を中心に動いてくれないから。
「あたしは!」
 …そんなに傲慢じゃない。
 だが言いつつも思い当たる節はある。
「そんなにしょげることは無いよ…、みんなそうなんだからさ?」
 シンジは自分のコップと、アスカのにも水を足した。
「みんな?」
 なみなみと水が注がれ、氷が鳴る。
「アスカの願った通りにしてくれなかった人達って、みんなそうだったんじゃないの?」
 アスカの自信はシンクロ率の上昇に繋がる。
 勉強も、容姿も、運動神経も…、そのために全てが仕組まれて来た。
 アスカちゃんって可愛いわね?
 頭いいわぁ…
 誉める事が自尊心の向上へと繋がっていく。
 当ったり前じゃないの!
「あたしが…、自分でやりたかったから、頑張ってたんじゃ…」
 ない?
 気付いた事に愕然とする。
 自分から望んだ世界は、何一つ手に入れられなかった。
 本当に望んだものは…
 アスカの思い通りにならなかった人達は、単にアスカの心を誘導する必要性がなかっただけだった。
 その一人が、こいつ?
 碇シンジ。
 彼はその目の前にいるアスカを見ていた。
 勝手に生きてるアスカを見ていた。
 そうね?、こいつはあたしに求めてなかった…
 これ以上を。
 でもアスカが持っているものは望んでいた。
 ただ少しばかり相手をしてもらいたがっていただけだ。
 ほんの少しの何かを分けてもらいたがっていた。
「アスカはさ?、僕にかまってもらいたいの?」
「誰が!」
 見透かされた!?
 自分の考えが読み取られた。
 シンジの笑いからそれを察する。
 ガタン!
 立ち上がり、食堂から去っていく。
 シンジはその背中にふっと笑むと、レイの問いかけるような視線に口元を歪めた。
「…君には分かっているんだろう?」
 微動だにしないレイ。
「傷つけ合う心が力となる、ATフィールドは心の壁…」
「なに?」
「心をこじ開け、犯し、傷つける…、そういう戦いだったって事だよ…」
 それ以上はここでする話ではない。
 聞かれていい話しでも無い。
「憎み合う心が力になる…、他人が恐くて身を守る、ホントは甘えさせてもらいたいのにね?」
 その嘆きが力となる、子供と同じ、駄々をこね、引っ掻き合う…
「遊び場の取り合いか…」
 地球と言う名の砂場をみんなで取り合っている。
「その程度の話なんだよね?、程度がさ…」
 本質的には酷く低い。
 シンジは一転してレイを真剣に見つめた。
「ねえ?」
「なに?」
 世話をしていた時とは違い、やたらと態度を硬化させている。
「綾波は耐えられるの?」
「…なにを?」
 あるいは何もかもがすり抜けていくような感じがする。
「不幸をさ!」
 だからシンジは声を上げた。
「…幸せになっちゃいけないんだよ?、自分の不幸がみんなを守るための力になるんだ!」
 傷つけられたくないから、身を小さくする。
 傷つきたくないから、心を固くする。
 それがATフィールドの強さになった。
「アスカだって…、幸せになりたいはずなのに」
「傷つけるの?」
 シンジは表情を和らげた。
「僕たちはいがみあうために生きている…」
 嫌い、傷つけ、傷つけ合い、傷つけられていくために…
「チルドレンが揃えられた」
 お互いがぶつかり合うために。
 お互いが何かを奪い合うために。
「揃えられたんだ…」
 二人の会話は、しっかりとミサトの耳にも届いていた。




続く





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。