Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:19





 プツ…
 ミサトは盗聴機の電源を切った。
「どういうつもりなの?」
 真意がなにもわからない。
 聞かれる事ぐらい、わかってるでしょうに…
 諜報部の中には外部に通じているものも居る。
「それがわかっていて?、それとも皮肉のつもりなの?」
 子供を戦わせる事への。
「冗談じゃないわ!」
 車内ランプをつける、ミサトのルノーだ。
 そこまで計算付くでやれるもんですか!
 ミサトは憤慨しながらシートを倒した。
 ゴロンと寝っ転がり天井を見上げる。
 苛立つ自分、しかしその理由も分かっている。
 あたしも誉めてたものね…
 ユー・アー・ナンバーワン!
 これが自信に繋がってくれたらね…
 それで喜ぶシンジがいた。
「くっ!」
 言葉の一つ一つが、ミサトの胸にささくれ立った。


 アスカはアスカで、弐号機を見上げたそがれていた。
「あたし…、どうしてここにいるの?」
 母親に捨てられ、固執していた地位も奪われ。
 何一ついい事は残らなかった。
 ギリッと歯を噛み鳴らす。
 なによ、なによ、なによ!
 みんなあいつが悪いんじゃない!
 サードチルドレン、碇シンジ。
 自分自身を掛けてまで、自分に傾けさせようとした相手。
 けど…、ダメだった。
「あたしに無いものを持ってるくせに…」
 エースパイロットの称号。
「あたしにちっとも従わないくせに…」
 卑屈に顔色を窺いながらも意見する。
「なんでよ、なんで!」
 今度はバカにするのよ…
 ポタリと、爪先で滴が跳ねた。


 夜。
 ベッドにはシンジ。
 その隣では、レイが布団を敷いて目を閉じていた。
 人の心、知恵の産物か…
 シンジは目を開いていた。
 眠った振りをする必要が無いからだ。
 起きてるよな?
 レイが瞼を閉じているのは、開く必要を感じていないからだろう。
「物を考えるから心が生まれる…」
 シンジはそれを承知の上で声に出した。
 レイの瞼がゆっくりと開く。
「心は感情が詰まったもの…、なら想いはどこから生まれるの?」
 渚カヲルは、確かに自分の願いを持っていた。
 レイは瞳だけをベッドへ向ける。
「…わたしに聞いているの?」
 ガバッと反転、うつぶせになって頬杖をつく。
 シンジは楽しそうにレイの顔を見下ろした。
「だって綾波は人なんでしょ?」
 無言で見つめ返すレイ。
「人だよ、綾波は」
 震えるように唇が動いた。
「…なぜ?」
「そう思うのかって?、簡単だよ、人は人から生まれ落ちるものだからね?」
 人造で作り出されたもの。
「…なら、わたしは」
「逆なんだよ、綾波は」
「逆?」
 意味は分かる。
「ねえ?、使徒はどうして来るのかな?」
 シンジは唐突に投げかけた。
「どうしてアダムと接触すると人が滅びるんだろう?、なぜリリスが地下に居るのかな?」
 答えを知っていて問いかけている。
 それが分かるから、レイはただシンジの言葉を待っている。
「綾波は、さ?」
 どさっとベッドから転がり落ちる。
「人形のようにただ犯されるのを待つの?」
 シンジはレイの上に覆い被さった。
「んっ!」
 薄いシーツごしに胸をまさぐられ、過剰な反応を示してしまう。
「…綾波って、人形みたいだね?」
 頬を赤くしながらも、レイは無表情を崩さない。
「抵抗しないんだ?」
 感情も込めず、レイは視線を合わせる。
「それは僕だからか…」
 シンジは手を離すと立ち上がった。
「…何処へ?」
「着いて来ないでね?、僕はアスカに会いに戻ったんだ」
 部屋の扉が静かに開く。
 廊下の明りが眩しくて、シンジの寝間着の色がわからなかった。


「トウジ?」
 アスカの部屋の前には、何故だかトウジがもたれかかっていた。
「なにしてんの?」
「…お前を待っとったんや」
 トウジのその真剣な表情に、シンジはぷうっと吹き出した。
「なにを笑ろとんねん!」
「いや…、だってさ?、僕が来なかったらどうするつもりだったの?」
「乗り込むに決まっとるやろ!」
 シンジは腹が痛くなるのを堪えながら顔を上げた。
「それで…、何のつもりがあるってわけ?」
「んな!?」
 トウジは杖を持ってシンジの前に立った。
「なんやその!」
「言い草はって?、トウジこそ何してるのさ?」
「だからわしは!」
「違うよ…」
「なにがや!?」
「アスカを喜ばせて、何がしたいのかって聞いてるんだよ」
 ビクッとトウジは体を強ばらせた。
「なにを…」
「バカだよね?、アスカもトウジの言うことなんて真に受けちゃってさ…」
 トウジを真正面から嘲り笑う。
「アスカも単純なんだよ、誰でも良いんだ、ちょっと自分を持ち上げてくれればね?」
 加持でもシンジでもヒカリでも。
 偉いね?、凄いねと誉めてくれれば誰でも良かった。
「トウジはなんて言ってアスカを落としたのさ?」
「わしは!」
 怒りに真っ赤になっている。
「それとも誰かに教わったの?、アスカを立ち直らせてって頼んだ人に」
 ピタッと勢いが止まってしまった。
 同時に一気に青ざめる。
「やっぱりね?、ミサトさんかな?、余程シンクロ率が高くないと、トウジみたいに身体に欠損のある人間がパイロットとして認められるはずが無いんだよ…」
 近寄り、ポンとトウジの肩を叩く。
「エヴァはイメージで動かすものだからね?、無くなった足に命令したって無駄なんだ」
 動くべきものが無い、それは神経の伝達先が無いからだ。
「だからエヴァの足も動かない」
 同じように伝わらないから。
「ならトウジは一般人だ…、一般人がどうしてこんな所に居られるの?、どうしてアスカの側から離れようとしないのさ?」
 答えられない。
「ハルカちゃんがここの医療施設に入院しているから?」
 トウジの胸をトンと突く。
「それともお父さんとかもここに缶詰になっちゃってるから?」
 言葉が見つからない。
 シンジはそんなトウジに、確信を得たようににやりと笑う。
「違うよね?、アスカの相手をする事が仕事だからだよ…」
 シンジはトウジの耳元で囁いた。
「楽しかった?、そりゃ楽しいよね?」
「おどれは!」
「ホンのちょっと分かってる振りをしてあげればいいんだ、優しい振りをしてあげればいい、それだけでアスカみたいに、誰かに頼りたがってる女の子なんてコロッと行っちゃうんだ…」
 そんなつもりは、もちろんなかった。
「甘えを受け入れて接してあげればいい、それだけで「ああなんて優しいのかしら?」「このひとはあたしを傷つけない」ってなっちゃうんだよ?」
「わしは!」
「ほんとなら相手なんてしてくれない様な子が、「はいはい」言うこと聞いてくれちゃうんだ、面白くないの?、楽しくない?、嬉しいよね?」
 バカにしながらも、シンジはふとある事に気がついた。
「そっか、妹と同じだ、理想の妹なんだ?、その上他人だもんね?、手も出せる、違う?」
 シンジの顔が、どんどんと醜く歪んでいく。
「わかるよ、でもそれは良いことなんだよ?、だってアスカだって寂しいんだ、騙されてもいいんだよ、優しくしてもらえるんなら、裏切られなかったら嘘でも良いんだ、良いって思ってる」
 怒りにトウジの肩が震えている。
「優しくされたことがないから、甘えられそうだと転がっちゃうんだ、気持ち良かった?、頼られて、嬉しかったでしょ?、優越感に浸れて」
 人を守ることは出来る。
 こんな自分にも。
「不幸な人を見付けてお手軽に手を差し伸べればいいんだからさ?」
「シンジぃ!」
 拳を振り上げる、が、当然片足のトウジでは簡単にかわされてしまう。
「何を怒ってるのさ?、図星を差されたから?、でも僕は」
 その腕を取り、勢いで倒れかけたトウジを支える。
「嫌なんだよ…、人の顔色を窺うのはね?」
 ブンッとトウジは腕を振り払った。
「お前はそんなつもりで!」
「だから僕は助けなかった…、としたら?、僕とトウジのどっちが男らしいのかな?」
 もちろんそんなのは嘘だけどね?、と付け加える。
「僕は男の子で、アスカは女の子だ…」
「ちゃう!、惣流は…」
「か弱い女の子だよ…、守ってあげなきゃね?、ハルカちゃんや洞木さんの代わりにさ?」
「ちゃう言うとるやろ!」
 しかしシンジの笑いは消えない。
「アスカの体って、柔らかいよね?」
「なにを…」
 トウジは虚をつかれたような顔をした。
「何を言うとんのや?」
「アスカが泣きそうだったりして、抱きしめなかった?」
 トウジの顔が赤く染まる。
「はは…、覗いてたわけじゃないよ?、でもその様子だと…」
「バカにすんな!」
「してないよ…、でも思い出さなかった?」
 トウジが一瞬硬直する。
「柔らかくって、髪の香りとかさ?、もっと抱きしめたい、もっと抱き寄せたいって」
「こ、の…」
「もてあそびたかったんでしょ?、バカだよね、そのまま攻めてればよかったのに」
「アホが!、わしはそないに」
「卑怯じゃないって?、でもアスカが求めてるのはそう言う事だよ」
 勢いは失わないものの、トウジは壁にもたれ掛かった。
「あいつは」
 立つ事ができない。
「弱いよ、誰よりもね?、だから肌の触れ合いを求めるんだ、愛情を注いでもらえなかったから、抱きしめてもらいたがってる」
 くすくすと、そんなトウジに邪なものを吹き込み始める。
「知ってる?、アスカってさ…、赤ちゃんみたいに小さく横になって眠るんだよ?」
「それがどないしてん!」
 シンジを押し返す。
「それってさ、幼さの現われなんだって?、誰かに添い寝してもらいたいんだよね?、寂しいから丸くなるんだ」
 シンジはトウジに背を向けた。
「何処へ行くんや!」
「部屋に戻るんだよ…、トウジに邪魔されそうだからね?」
 ひょうひょうと去ろうとして、シンジは思い出したように振り返った。
「あ、なんなら甘えさせてあげれば?、きっとキスして抱きしめたって、拒絶しないと思うよ?、嫌われるのが恐いから」
 ガァン!
 放り投げられた松葉杖が、シンジに届かず廊下に跳ねる。
「頼られてんだから素直になったら?、きっとアスカもトウジのことを好きだって想い始めるよ、いや…」
 考え直す。
「もう…、思ってるかもね?」
 甘えるようにすがる涙目。
 抱きしめる自分、唇を奪う自分。
 そんな幻を想像していたのも、確かに本当の事だったから。
 トウジは怒りのはけ口が見つからなかった。





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。