Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:20





 非常事態宣言も非常警報も意味を成さず、発令所はいきなりの事態に混乱していた。
「状況は!」
「せ、成層圏外に突如使徒が…」
 なに、これ…
 衛星からの映像に我が目を疑う。
 第三新東京市まで一直線に槍が伸びている。
 白銀の閃光を発する槍だ。
「こんなでたらめ…」
「使徒は防御層を貫いてジオフロント内に侵入…、あ!」
「どうしたの!?」
 使徒の間近にシンジとアスカの姿が見えた。
「どうしてあんな所に!」
 逃げるには間に合わない。
「レイは!」
「ただいま移動中!、エヴァの準備には120秒」
「間に合わないわ!」
「かまわん」
「司令!?」
 振り仰ぐ、いつものように落ちついているゲンドウがいる。
「使徒はエヴァを侵食するタイプだ…、それに零号機の修復は完全ではない…」
 片足は予備パーツが接合されたが、神経系の中和はまだ追い付いていない。
「しかし!?」
 ガァン!
 その時、発令所になにかのぶつかる音が響いた。
「な、なに!?」
 驚く様にマヤが振り返る。
「ATフィールドの発生を確認!」
「パターン青、使徒です!」
 日向も報告する。
「そんな!?」
 地面に対し、60度程の角度でATフィールドが赤い光を放っている。
「シンジ君!?」
 まるで第十七使徒のように、悠然とシンジは微笑んでいた。


「使徒…」
 ドガァン!
 ビルが落下し、土煙をたてる。
 その中央を、身をくねらせるように土中へと掘り進んでいく使徒。
 吹き上がる土砂、天から落ちる瓦礫。
 もうもうと襲いかかって来る巨大な土煙を見ても、アスカの目はまだ焦点を合わせようとしない。
 助けて、シンジ、助けて…
 青ざめた唇が、震えながらも紡ぎ出す。
 すがっているのではなく、脅えているのだ。
 恐い、いや、こっちに来ないで!
 逃がしてください、お願いします。
 だがシンジがそれを許してくれない。
 あたしの心を覗かないで!
 あたしの想いを読まないで!
 いつかの叫びをくり返す。
 乗り越えたはずのトラウマが、現実となってそこに『居る』
「ずいぶん勝手だよね?」
 ひぃ!
 真正面に座り込まれて、アスカは脅えるように後ずさった。
 心に何かが入り込んで来る。
 心を何かが犯していく。
 以前とは違う感じ。
 覗かれる、探られるのとは違う。
 でも同じ感じ。
 それは確認だった。
 君は頼ること、慰められる事よりも殻に閉じこもる事を選んだよね?
 頭の後ろから声がする。
 それはどうして?、嫌いだから?
 アスカは必死に首を振った。
 違う違う違う!、あんたなんかいらない!
 誰もいらない、ミサトもいらない、加持もいらない。
 みんながあたしを傷つけるから!
「違うよね?」
 しかしシンジが否定する。
「わからなかったからさ、みんな優しくしてくれない、その理由が分からない、どうしてサードチルドレンばかりを大切にするの?、アスカは見てもらえないの?、だから考えるのをやめたんだ」
 アスカは良い子だから。
 アスカは強い子だから。
 だからシンちゃんを…
「嫌!」
 幻に叫ぶ。
「あたしは誰かの為に頑張ったんじゃない!、あたしのために頑張ったのよ!」
 シンジ君が嫌いか?
「嫌いよ!、だからあたしを見て!」
 アスカ…
「もっとあたしを誉めて、もっとあたしを大事にしてよ!」
 シンジを助けるために頑張ったんじゃない!
 優しくしてもらえるから頑張ったのに!
「好きって事、愛されるって事を、アスカも教えてもらえてればね…」
「もっとあたしを甘えさせてよ!」
「しっかりした子は、甘えちゃいけないんだ」
「そんなのあたし知らない!」
「僕はいらない?」
「あんたなんかいらない、みんないらない、ファーストもヒカリも、みんなみんな…」
「だから捨てたの?」
「そうよ!」
 フラッシュバックする。
 壊れた家。
 抜けるような青空。
 無音の夏。
 錆びた水に横たわる。
 ゴォン!
 突然何かが使徒に組み付いた。
 白銀のエヴァンゲリオン、四号機だ。
 一端アスカから顔をそらし、暴れ回る蛇とその頭を押さえつけようとしているエヴァを眩しく見上げる。
「傷ついた事のある人だけが、本当に優しい…、ねえ?、どうしてそう言われるのかな?」
 唐突にシンジは問いかけた。
 本当はそんな事は無いのに。
 優しい子だから…
 そんなつもりは無いのに。
 優しくしてるわけじゃないのに。
「優しいって、どうして言ってもらえるのかな?」
 使徒の体がゴムの様に縮み、300メートル程度の白い蛇に変化した。
「それは自分が嫌だからだよ…、嫌な気持ちを知ってるから、されたくないから、したくないんだ」
 轟音が轟く。
 かき消されるはずのシンジの声が、アスカにだけははっきりと聞こえる。
「して欲しい事があるんだ、あったんだ、嬉しく思ったんだ…、だからしてあげたかったんだ…」
 遠い遠いシンジの過去。
 モノクロームの風景。
 その真ん中に立っているアスカ。
 …シンジ?
 小学生のシンジが居る。
 チェロを渡され、お礼を言っている。
 ありがとう…
 大切に抱いて。
 嬉しそうにして。
 頑張ってね?
 笑顔で頭を撫でてもらい、シンジはとてもはにかんでいる。
 そして一生懸命練習をして、シンジは知った。
 ま、あんなものだろ?、才能なんてあるわけでもなし…
 何か習い事でもさせておきませんとね?
 ちゃんと育てなかったのか!
 そうケチを付けられたらたまりませんわ?
「嬉しかったんだ…」
 チェロを壊したくて、でも壊せないシンジが居る。
「初めてなにかしてもらったんだ…」
 そんなシンジを見ているアスカ。
「でも嘘だったんだ…」
「なんでよ!」
 振り返る、冷たい目で、情けなくうつむいているシンジが居る。
「なんであたしにこんなの見せるの!」
 たくさん誉めてくれたのに…
 上手ね?
 ホントだな?
 笑顔の下の本当の顔。
 ラジオでも聞いた方がマシだわ?
 うるさいんだよ、外にまで音が漏れてるじゃないか…
「やめろって言われなかったから…」
 どうでもよかったんだ。
「でも怒られると思ったから…」
「そんなのあたしに関係無い!」
 叫ぶ、現実に戻る。
「優しくされたことがないんだ…、だから優しくできなかった」
 ギュキイイイイイイイン!
 ナイフが火花を散らしている。
「だって嘘しか知らないから…、それとも嘘をつけば良かったの?」
 嘘でもつき通せれば。
 嬉しそうにしてもらえるから。
「でも嫌だった…」
 でも他に何も知らなかった。
「わからなかったんだ…」
 相手が何を考えて、何にどう反応するのか?
「優しくする事ができなかった…、だからごめんなさいと」
 言葉を濁した。
「そうなんだ!、逃げていたんじゃない、濁してただけなんだよ!」
 アスカの両肩をがっちりとつかむ。
「変わりたかったんだ、変わりたかったんだよ!」
 痛い!
 がくがくと振られて、アスカは顔をしかめた。
「変わりたかったんだよ!」
 でも誰もそうは思わなかった。
「内罰的だって…、誰も気がついてくれなかった」
 ただ責められた、怒られた、その度に想いは募っていた…
「違うのに」
 本当は違うのに!
「僕にだって出来る事はあったんだ…」
 料理でも、なんでも。
「でもなぜエヴァなの?」
 それに関らないと、他の事は何も誉めては貰えなかった。
「だから頑張ったんだ…」
 嫌だけど。
「義務って何?」
 望んだわけでもないのに…
「お願いしたわけでも無いのに」
 無理矢理乗せられて。
「義務づけられて…」
 そこから逃げると。
「他の全部を否定されて…」
 碇シンジは不必要と捨てられて。
「叫べば良かったの!?」
 エヴァから離れるだけで…
 ほんのちょっとした温かさまで奪われた。
 あの日。
 第三新東京市から追い出されかけたあの時。
 ミサトが追いかけて来てくれた時。
「嬉しかったんだ…」
 だからエヴァから離れないように必死だった。
 エヴァが全てになったから。
「他の何も、期待してもらわなくてもよかったんだ…」
 エヴァがあるから。
 エヴァに乗っていれば、それだけで優しくしてもらえたから。
「なのに!」
 醜いアスカの歪んだ顔。
 あんたなんか!
 殴られるシンジ。
 あんたが居るから!
「居ちゃいけなかったの?」
 返してよ、返して!
「初めからアスカのものじゃなかったのに…」
 なんであんたがそこに居るのよ!
「奪ったのはアスカじゃないか!」
 アスカはガタガタと震えていた。
 見開かれた目の端からは、痛みに涙が溢れていた。





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。