Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:21





「最後通達ぅ?」
 怪訝そうなミサトに報告する。
「はい、本日00:00をもって特務機関ネルフは解体、エヴァシリーズはチルドレンと共に各国の軍部に委譲せよとの…」
「そんなの飲めるわけないでしょう!」
 怒鳴ってみても仕方がない。
 司令席では、冬月とゲンドウが二人だけで話を詰めていた。
「さっきの今でもうこれか…」
「ああ、どうあっても初号機で行うつもりだ…」
「ロンギヌスの槍は既に無い、唯一リリスの分身たるエヴァ初号機、ゼーレはシナリオからかけ離れた状態で全てを行うつもりか?」
「意に沿わぬものを消すつもりだよ」
「エヴァを生み出す事がユイ君の願いだったからな?」
「方舟だ、ユイにとっての」
「人類ではなく、か?」
 当然のごとく、ネルフ本部は国連からの通達を拒否、受け入れなかった。


 ふっとレイは目を覚ました。
 まだ深夜だというのに憑かれたようにベッドを降りる。
 寝るまで聞いていたシンジのウォークマン。
 ヘッドフォンが外れる拍子に、少し耳が引っ張られた。
 ドアが開き、淡い光が部屋に差し込む。
 枕許には握り潰された眼鏡が転がっていた。


 翌日。
 全てが静まり返った朝の涼しげな空気の中に、その静けさを打ち破るものたちが蠢いていた。
 戦車が国道を埋め、森や廃墟と化した市内を特殊工作兵が徘徊している。
 芦の湖周辺は僕大な霧の中に沈み、ほとんどの視界を奪われていた。


「どうだ?」
「ああ、悪い」
 青葉からコーヒーカップを受け取るマコト。
「いま赤木博士がMAGIにプロテクトをかけてる、これで即時陥落なんてことにはならないけどさ?」
「こうなると、対人要撃システムの貧弱さが恨めしいよな…」
「そのための予算削減だったんだろ?、今更嘆いたって」
 ピッと、何かが反応した。
「どうした?」
「変だな…、第六ネットの音信が途絶えた」
「おい、それって!」
 ビーーーーー!
 それと同時に全てが起こった。
「どうしたの!」
 ミサトが怒鳴り込んで来る。
「ハッキングです!」
「防壁の展開は!?」
「プロテクト作業があと120秒で終了します」
 冬月もおっとりがたなで駆けつけた。
「状況は?」
「外部との情報回線が一方的に遮断されてます!」
「狙いはMAGIか…」
「全ての外部端末から侵入を確認!」
「MAGIへのハッキングを目指しています、確認できるだけでMAGIタイプ5!」
 ゼーレは総力を挙げているな…
 バルタザールとメルキオールが落ちた。
「まずいわ!、MAGIの占拠は本部のそれと同義なのよ!?」
「日本国政府からです!」
 悲鳴の様にミサトへ叫ぶ。
「A−801、法的保護の破棄と指揮権の委譲命令です!」
 MAGIの一体の中で、リツコは外の騒ぎを他人事のように聞いていた。
 あたし…、バカな事をしてるのかしらね?
 いつからだろう、ただ命じられるままに従って来たのは。
 それでもよかったのよ…、汚れていくのも楽しかったし。
 どこか自分に酔っていた。
「ロジックじゃないものね、男と女は…」
 自分の中にこもって自分を守る。
 自虐的になる事で可哀想な自分を演じる。
 他人の声を聞き入れずに、自分の世界に閉じこもる。
 いまMAGIに施しているプロテクトは、どこかリツコの心境に似たものがあった。
「そうでしょう?、母さん…」
 リツコは愛しげにカスパーの溶接された蓋を撫でた。


「MAGI、自閉症モードに移行」
「防壁を展開、以後62時間は外部進行不可能です」
「…間に合ったのね、でもMAGIへの侵入だけなんて」
「前哨戦にすぎんな、MAGIの接収など奴等にとっては…」
 ズゥンン…
 何処かで何かの振動が響いた。
「なに?」
「強羅絶対防衛線にて戦闘行動です!」
「え、n弾頭の使用を確認!」
「なんですって!?」
 外を映す映像の幾つかが、ノイズを映すだけになってしまった。
「レーダーサイトが次々と沈黙していきます!」
「特化大隊の進行を確認!」
「レーダーサイト、8から19まで回線が途絶しました!」
「第一種戦闘配置だ」
 第一種!?
 やたらと落ちついた声に、司令の存在を思い出す。
 全員がその命令に驚いた。
「急げ」
「は、はい!」
 ビルのような建物からミサイルが発射され、また使徒迎撃用のシステムがそのまま人間相手に使用された。
「…相手は人間なのに」
「相手はそう思っちゃくれないさ」
 マヤの呟きを日向が拾った。


 地上の防衛兵装が戦闘ヘリによって沈黙していく中、ジオフロントのハブステーションでは、激震に脅えるスタッフが銃を持って見張りに立っていた。
 何が起こっているのか不安なのだろう、やたらそわそわと忙しない。
 その背後に、すっと工作兵が現われた。
 気付かないスタッフ。
 工兵はスタッフの口を塞ぐと、そのままナイフを突き立てた。


「ジオフロント内に侵入されました!」
「まずい!、やつらはパイロットを狙ってるわ、アスカは!?」
「すでに移送済みです、現在弐号機に搭乗中」
「アスカ!」
 回線を繋げる。
「…なに?」
 映像に映ったアスカは、弛緩した体をシートに横たえていた。
 あまりにも気だるげなうつろいだ目に、ミサトは冷たい視線をぶつける。
「…別に人殺しを頼むつもりは無いわ?」
 何を今更…
 アスカは歪んだ笑みを口元に浮かべた。
「あんた達なんて、知らない…」
 誰もがアスカの態度に息を飲んだ。
「…でも、あたしは死にたくない」
「そうね?」
 それで十分とミサトは頷く。
「生きるだけ生きてから死になさい」
 弐号機、出して!
 ミサトは回線を切ってから叫びを上げた。


 セントラルドグマ第弐層まで全隔壁を閉鎖します、非戦闘員は…
 アナウンスと同時に隔壁が閉じ、特殊ベークライトが流し込まれる。
 シンジを封じようとしたように、人間が生きたまま沈んでいく。
「嫌、ねえ、立ってよぉ…」
 とっくに死んでいる男を、スタッフの少女が引っ張り起こそうとしていた。
 だがずるずると引きずる以上は動けない。
 向こうの通路を走っていた戦自の兵が、それに気付いて銃口を向けた。
 パン!
 そういった様子が、全て発令所でモニターされていた。


「あいつら…、非戦闘員まで」
「占拠は時間の問題ですよ」
 マコトとミサトは、比較的冷静に画面を見ている。
 これはなに?、なんなの!?
 マヤは耳を塞いで、目も閉じていた。
 しばらくはゲンドウも眺めていたが、やがて何かを決めたように立ち上がった。
「…行くのかね?」
 やや冬月の声には深みが増している。
「後を頼みます、冬月先生」
「ああ、ユイ君によろしくな?」
 冬月は施設内を映すモニターを眺めた。
 サードインパクトは起こる…、だがそれを見ずしては死ぬわけにはいかんからな…
 本部内では、一方的な虐殺が続いていた。


 銃で撃たれるのならばまだいいだろう。
 一発で死ねずに崩れ落ちただけの人間を、何十人もの兵が踏み付けて行く。
 メインシャフトも侵攻対象にされていた。
 ヘリが降り、時折横穴に潜む人間に砲撃をくわえている。
 人間には大き過ぎるバルカンの弾が、ずたずたに引き割いて肉塊に変えた。
 おびただしいほどの屍、はいずり逃げようとしたのか?、床には引きずったような血の後がついている。
 壁に広がる血の華。
 血溜まりの中に転がり、呻いている少女がいた。
 まだ二十歳になったばかりだろう、その頭が踏み付けられる。
 あ、う…
 見上げると、頭を撃たれた。
 一方的な虐殺だった。


「…フォースチルドレンを発見、排除します」
 あいつの言う通りやで…
 トウジは体が冷えていくのを感じていた。
 ハルカに覆い被さるようにしているが、もう下半身には感覚がない。
 ジャージが血に濡れて重かった。
 なんちゅうことしたんやろうなぁ?、ハルカ…
 妹のためと人のせいにして。
 謝らんといかんなぁ、惣流に…
 ダンダンダン!
 銃弾が跳ねる、トウジの背と、肩と、ハルカの顔に。
 穿たれる顔面、だがそこから吹き出したのは血ではなく、ただのエアー。
 なんや、そうやったんかいな…
 仮面の下には鉄で出来た簡単なフレーム。
 それがトウジの見た、ハルカのえぐられた死に顔だった。


「フォースチルドレン、死亡…」
 マヤが堪え切れない想いで伝える。
 騙したこと、悪く思わないでね?
 ミサトは冷徹に、だが一応の謝りを心で入れた。
 映していた画面が黒く消えた。
 全てを焼き払うための火炎によって、レンズも焼けてしまったのだ。


 地上。
「以外と手間取るな?」
 芦の湖の周りに爆発が見える。
 ここは戦自の仮指揮所だ。
「エヴァが出て来ないのは…」
「情報の通りか?、いや」
「エヴァンゲリオン四号機を確認!」
 山肌が崩れる様に開き、そこから四号機が現われた。
「予定通りか…、あれの準備は?」
「完了しています」
「使用する、待避命令を出せ」
 第三新東京市、外部から入るモノレールのラインを、一台の車両が走り込んで停車した。
「自らの武器で倒れるのもいいだろうさ」
 陽電子砲、ポジトロンキャノンを積んでいる。
「ATフィールドは絶対のものではない、それを打ち破る方法を見つけてくれたこと、ありがたく思うよ」
 それはエヴァでなくとも使徒は倒せるという、証明そのものであったから。
「充填完了!」
「発射!」
 エヴァ四号機は異変を感じたのか首を巡らした。
 ズガン!
 その頭部が吹き飛ばされた。
 ATフィールドが破れて消えた、あまりに無慈悲な一撃であった。




続く





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。