Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:22





 キラ…
 膝をついたエヴァ四号機。
 芦の湖上空から落とされた光の滴が、熱波と共にその機体を飲み込んだ。
 ゴォオオオオオン!
 熱で歪んだ天井都市が溶け落ちた。
 全ての装甲が剥がされ、ジオフロントは肉眼で空が拝めるようになってしまった。
 ヒュルルルル…
 無数の雨が降り落ちた。
 雨はnミサイルと言う名前だった。
 ドゴゴゴゴゴォン!
 本部を直撃するミサイル群。
「ねえ、何がそんなに欲しいのよ!」
 頭を庇いつつマヤが叫ぶ。
 ボン!
 震動が止むのと同時に、発令所左翼が破られた。
 扉が吹き飛び銃声が鳴り響く。
「下部フロアに侵入者確認!」
「きゃあああああああ!」
 青葉も日向も屈んで銃器を取り出した。
 あっという間にスタッフが殺されていく。
「タラップを登らせるな!」
「このフロアーを死守するんだ!」
 ドガァン!
 突然発令所の壁が破られた。
 投影スクリーンが一瞬歪む。
「レイ!?」
 零号機がなだれ込んできた。
 驚くミサトの前で、戦自の兵ごと左翼下部フロアを押し潰す。
「地上は!」
「ジオフロント内にて弐号機がnミサイルを受け止めました、本部施設への影響は軽微!」
「しかしエレベーターシャフトが丸見えになっています!」
「封鎖急いで」
「はい!」
 零号機を見上げる。
 …ケーブルが無いもの、すぐに動かなくなるわね?
 零号機はそのまま壁をぶち破って移動していく。
 何処へ行くつもりなの?
 考えが勘に直結する。
「葛城さん!」
「後よろしく!」
 加持君…、あたしバカかしらね?
 タラップを降りて、零号機の後を追う。
 そう言えば、とミサトは急に思い出した。
「リツコ、何処へ消えたのかしら?」
 姿は何処にも見えなかった。


「ケーブルを狙え!」
 着弾が集中する。
「ちぃ!」
 アスカは吐き捨ててソケットをパージした。
 ドンドンドンドンドン!
 次々と砲弾が着弾するのだが、アスカはATフィールドを使用していない。
「そんなちゃちな攻撃で…」
 ブンと腕を振ると、金色の衝撃が戦車隊をなぎ払った。
「一万二千枚の特殊装甲が破られるもんですか!」
 バックステップしての踵落とし、狙いは中途半端に漂うヘリの一機だ。
「ううわあああああ!」
 ヘリを捕まえ振り回す。
 ゴン!
 別のヘリとぶつかり壊れた。
 爆炎の中を進む弐号機は、悪魔のように恐怖を巻き散らしていた。


 戦自の兵士が靴先で死体を小突いている。
 生きているかどうかの確認だ。
 タタタタタタ!
 足音に驚き銃を構えた。
 パンパンパン!
 その頭が撃ち抜かれた。
 悪く思わないでね…、こっちも思わないから。
 ミサトだった、そのまま一気に駆け抜ける。
 ミサトは零号機の進行方向を予測しながら通路を走っていた。
 ターミナルドグマが分断されたら、あたしも入り込めなくなるわ…
「アスカ、お願い…」
 走りながら呟く。
「エヴァシリーズを全て消して」
 パン!
 何処からか乾いた音がミサトを撃った。


 ゴォオオオオ…
 空を九機のステルス輸送機が飛んでいた。
『やはり最後まで妨げとなるはエヴァか』
 誰かが嘆息を一つ漏らした。
『毒には毒を持って…』
『より強い毒が生き残ろう』
『エヴァシリーズを投入する』
 輸送機の下部に埋め込まれていたエヴァが、赤いダミープラグをエントリーした。
 それはあの四号機に使われていたのと同じプラグであった。


 n爆弾によって丸く開いた天井。
 それをなぞるように、ゆっくりと翼ある者たちが舞い降りて来た。
「エヴァシリーズ、完成していたの?」
 驚きをもって見上げるアスカ。
「S機関搭載型を九機投入とは大袈裟過ぎるな…」
 まさかこのまま起こすつもりか?
 冬月は気色ばむ。
 ドズゥン!
 まさに着地と言った感じで地に降り立つと、量産機達は翼を畳んだ。
 かわりにその手にしていた巨大な両刃の剣を構える。
「…残り三分半」
 アスカは舌なめずりをして、活動時間を確かめた。
「あんた達を倒せば、あたしは…」
 本当に自由になれる。
 誰にも脅かされない、絶対の自分を手に入れられる。
 そう、あたしはあたしのために生きるの。
 あんたなんかどうでもいいわ。
 アスカにはエヴァがシンジに見えた。
「負けてらんないのよ、あんたなんかに!」
 アスカは切羽詰まった雄叫びを上げた。


「こんな時にまでシンジ君に頼るのね…」
 ミサトは血に濡れた手のひらを眺めてしまった。
 真横にはベークライトの海に沈んだ初号機の顔がある。
 ここはアンビリカルブリッジだ。
 くっ!
 脇腹に鈍痛が走る。
 こんなことなら…、アスカの言う通りカーペット代えときゃ良かった…
 ねぇ、ペンペン…
 そして意識が遠くなった。


「ここは?」
「よぉ、葛城ぃ」
「加持ぃ!?」
 驚く、どうして電車に乗ってなどいるのだろうと。
「シンジ君!?」
 正面の席でうなだれていた。
 加持はその肩を馴れ馴れしく抱いている。
「こんなとこでなにやってんの!?、アスカが!」
「おいおい、またそれか?」
「またって…、大事な事でしょうが!」
 いきり立って腰を上げる。
「さあ、立って!」
 ミサトはシンジの腕を引っ張った。
「おいおい…」
 苦笑しながらもシンジを解放する。
 が、シンジは足腰に力を入れずに、そのまま前に崩れ落ちた。
「何やってんのよ…」
 だがシンジは答えない。
「あんたこのまま死ぬつもりなの?」
「…そりゃあシンジ君は死にたいだろうさ」
 加持の物言いをキッと睨む。
 しかし加持はにやけてかわした。
「お前はいつもそうだよな?、自分が認めること以外は全部否定して」
「それの何処がいけないのよ!」
「…んばってたんだ」
「え?」
 シンジが何事かを呟いている。
「頑張ってたんだ、頑張ってたんだよ…」
 瞳は未だにうつろなままだ。
「シンジ君はお前の言うことを良く聞いたよな?」
「自分のためでしょ!」
「お前のためだろ?」
 加持は冷たい。
「シンジ君だってどうにかしたいと思っていたさ…、だから何度逃げ出しても戻って来た」
「それは…」
 言いよどむ。
「だがお前はどうした?、そんなシンジ君に何も教えず、ただ意気地が無いと責めたてた」
 具体的にどうすればいいと教えたことは何も無い。
「そしてシンジ君は見付けたんだ」
 自分を守る方法を。
「彼に何が出来た?」
 自分の殻に閉じこもり、もういいじゃないかと自分を失う事しかできなかった。
「自分を無くせばいい、従順であればいい、ただ言われた事をすればいい…」
 そうすれば人は満足してくれるから。
 ミサトは納得してくれるから。
「笑っていれば、明るくなったと喜ばれたから」
 そうやって、本当の自分を消していけばそれでいい。
 人の作り上げた碇シンジになればいい。
「だから彼は消えたんだ、何処かの世界に」
「あたしが悪いっての!?」
「余裕が無いくせに面倒見るからだろ?」
 自業自得と加持は罵る。
「他人のくせして家族なんて言葉を使うからさ」
「それの何処がいけないのよ!」
「護魔化しだからだよ」
「あたしはそのつもりだったわ!」
「でもシンジ君に姉らしくしてあげたのか?」
 ミサトはギュッと唇を噛んだ。
「…シンジ君?」
 反応は無い、それを知っていて先を続ける。
「フィフスの言葉を覚えてる?」
 ピクッと、シンジは少し震えた。
「彼は…、あなたのどこ好きになったの?」
 そんなの…
 わからないと心で呟く。
「ぼくは…」
 シンジはようやく口を開いた。
「僕は、アスカを…、カヲル君を、傷つけたんだ」
 自分がいたから、アスカは居場所を失った。
 自分がいたから、カヲルは生きる事を放棄した。
「僕がいるだけで人を傷つけるんだ!、だったら何もしない方がいい…」
「同情なんかしないわよ?」
 ミサトは言う。
「自分がいるから誰かが困るってぇの?、冗談じゃないわよっ、あんたがいないとみんなが死ぬのよ!」
 シンジの顔を両手で挟んで無理矢理上げる。
「あたしが悪いからあんたは死ぬわけ!?」
「ち、ちが…」
「違わないでしょ!、あんた自分のせいだってふりして、全部人のせいにしてるんじゃない!」
 ミサトは本気で怒っていた。
「エヴァに乗りなさい、エヴァに乗るのよ?、でないとあんたを許さない!」
 シンジの目から、涙がつうっと流れ落ちた。
「恐いんでしょ?、失敗するのが…、あたしだってそうよ!、何度も間違って後悔して…」
 そのくり返しが人生だったとミサトは言う。
「ぬか喜びと自己嫌悪の積み重ねだったわ?、ほんのちょっとした事が嬉しかったり、きっと今は幸せって浸ってみたり…」
 でもそれを嘘で塗り固めて。
「今のあたしを作ったのよ」
 いつも明るい、楽しい自分を。
 ちらりと加持を見るが、加持の姿は消えていた。
「いい?、シンジ君…」
 優しい口調で語りかける。
「あの日…、何のためにこの街に来たの?」
 シンジは自分で顔を上げた。
「エヴァに乗ったことはいいのよ…、でもあなたに関った人達はみんなエヴァに取り憑かれていたわ?」
 母にしてもそうだった。
「シンジ君、エヴァに乗らされるために呼び出されたと思うのなら、もう乗らなくてもいいように全てを終わらせて」
 そんなの…
 またうつむきかける。
「あなたが生まれた時には、もう全てが始まっていたのよ…」
 だから、と続ける。
「気に入らないのなら壊しなさい、好きにすればいいわ?、だから自分で決めなさい、自分で決められるようにするのよ、この先は…」
 ミサトはシンジの唇を奪った。
 驚きに目を開くシンジ。
 その時急に電車が停また。
「あ…」
 シンジはミサトに突き飛ばされた。
「ミサトさん?」
 ホームに転がり呆然とする。
 ミサトににっこりと微笑まれた。
「…ようやく、こっちを見てくれたわね?」
「ミサトさん…」
 ドアが閉まった、シンジは顔が見えるように膝立ちになり、立ち上がる。
「…続きは、帰ってからね?」
 電車がゆっくりと走り出した、だがミサトはお腹を抱えて呻いていた。
「ミサトさん!」
 シンジをホームに置き去りにする。
 崩れ落ちるようにミサトは体を横たえた。
 その体を中心に、ゆっくりと血溜まりが広がり始める。
「加持ぃ、これでよかったぁ?」
 靴先に血が達した。
 霞んだ視界に映ったものは、自分を見下ろす男の優しげな微笑みだった。





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。