Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:22
「くっ!」
歯噛みする、アスカは空を見上げて横へ避けた。
ドゴォン!
長大な剣が大地をめくり上げる。
「甘い!」
サイドステップからの蹴り、一撃でエヴァの首がへし折れた。
「このぉ!」
そのまま敵の剣を拾って横へ凪ぐ。
ズガシャ!
不用意に踏み込んで来た一体の胴を折った。
胃らしきピンク色の臓物がこぼれ飛んだ。
「でぇええええええい!」
発令所にアスカの声がこだまする。
「もうしつこいわねぇ!」
誰にも当てに出来ないのにぃ!
そんな響きが混ざっている。
「どうだ?」
冬月は以外と落ちついていた。
「活動限界まで一分を切りました」
「このままじゃアスカは…」
絶望的な雰囲気が漂い始めている。
しかし実質的な戦力は無く、後はただ見守る事しかできなかった。
ゴォン…
膝を屈する零号機。
シュコン…
エントリープラグが排出され、そこからレイがゆっくりと降りた。
裸で、なにも身に付けていない。
「来たか、レイ…」
レイは男の前に進み出ると、無表情なままで顔を見上げた。
「…行こう、レイ、お前はこの時のためにいたのだからな?」
ゲンドウは返答を待たずに踵を返した。
またレイもそのまま後を追う。
二人の先には、巨大なヘブンズドアが開かれていた。
ここは?
シンジの意識が浮上し始めていた。
エヴァの中だよ。
君は?
碇シンジさ。
違う、シンジは僕だ。
僕もシンジさ。
そう…、でもいいよ。
だめさ、僕はもう消えるから。
「え?」
二人の形が浮かび上がった。
一人はうすら笑いを浮かべたシンジ。
もう一人はうつむく事しか出来ないシンジだ。
「僕は知りたかったんだ…、アスカの気持ちを」
「気持ち?」
「だってアスカは話さないから…」
「少しは話してくれてもいいのに」
「でもアスカは僕を嫌っていたから」
「それは違うんじゃないのかい?」
「そうだね?」
「嫌ってるのは僕だよ、僕がいちゃいけなかったんだ…」
「相手を必要としたのは僕であって、アスカじゃなかった」
「だからプライドを傷つけちゃった」
「傷つけない距離なんて探せないだろ?」
「そうだけど…、僕は…、好きだって、言ってもらいたかったのかなぁ?」
シンジはおどおどと自分に尋ねた。
「言ってくれた人もいたじゃないか」
それでもシンジは変われなかった。
「どうしてなんだろ?」
「殺したから?、でも僕はわかっていなかったよね?」
二人のシンジは同時に頷く。
「好きって言ってもらえたからじゃない…、苦しみをわかってもらえたから」
「そう…、そうなんだ!」
父に誉められた時もそうだった。
頑張った事をわかってもらえたから嬉しかったのだ。
好きになってもらえた事よりも、分かってもらえた事が嬉しかった。
「だから僕は」
一人のシンジが消えて、外界の景色がシンジを包んだ。
アスカ?
「こんちくしょうー!」
空中を漂うシンジ。
上下が逆さの世界で、アスカが飛んで来た剣をATフィールドで受け止めていた。
剣が!?
ねじれて形が変わりだす。
「ロンギヌスの槍!?」
ATフィールドが貫かれた。
「アスカ!」
ザシュ!
左の目に突き刺さる。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!」
そのまま背後に倒れ落ちる。
「あああああああああああああああああああああああああああ!」
しかし穂先が突っかかって、宙に折れた。
倒れる事も出来ないエヴァ。
「…内部電源終了、エヴァ弐号機活動限界です」
ラインに自分のノートパソコンを直結しているマヤ。
「ちょっと待て、これは…」
それを覗き込み、シゲルとマコトが呻きを上げた。
ゲンドウとレイが並んでリリスを見上げている。
その正面にリツコがいた。
銃を構えて。
「…お待ちしておりましたわ?」
お互いに冷たい視線を交わし合った。
「ごめんなさい…、黙ってMAGIのプログラムを変えさせて頂きました」
リモコンを握る。
「母さん、ごめんね?」
ポケットの中でボタンを押す、だが反応はなにも無かった。
「…どうして?」
リモコンに表示されているMAGIの決議、その中でカスパーが否決している。
「…そ、娘より男を選ぶのね?、母さん」
今度はゲンドウが銃口を向ける番だった。
「赤木くん、君は本当に…」
見下げる様な笑みを浮かべるリツコ。
「嘘つき」
ダン!
胸に衝撃、後ろに倒れ込んだリツコは、そのままリリスの流すL.C.L.と言う名の血の海に体を浮かべた。
「倒したはずの、エヴァシリーズが…」
起き上がる、ゴキゴキと骨を直し、脳しょうを巻き散らしていてもお構いなく、にやりと弐号機に笑みを浮かべる。
「とどめを刺すつもりか?」
バサバサと翼を広げて飛び上がった。
「いやあああああ!、アスカ、逃げて、アスカ!」
だが声は通じない。
弐号機にむさぼり食らいつく量産機達。
装甲を剥がし、腹を食い破り、腸を引きずり出し、心臓を食らい、肝に噛みつく。
「あああああああ…」
アスカは腹を抱えて丸くなっていた。
生きたまま食われていく感じ。
プラグスーツの下で、腹がボコボコと異様に膨らみを作っている。
量産機が腸に噛みついたまま羽ばたいた。
ぶちぶちと弐号機の重みに引きちぎれていく。
「くっ、ああ、う…」
とっくに活動は停止しているのに、一向にシンクロが解かれる様子はない。
「…ろしてやる、殺してやる、殺してやる!」
左の目を押さえたままアスカは顔を上げて空を睨んだ。
量産機達が舞っている。
手のひらの間から血が流れ落ちていた。
弐号機の仮面も剥がされていた。
鼻先は食いちぎられている、剥き出しになった歯ぐきと折れた歯。
口がゆっくりと呻くように開き始めた。
「殺してやる、殺してやる、殺してやる…」
ウォオオ…
空に舞うエヴァ達に腕を伸ばす。
「暴走か?」
誰ともつかない呟き、弐号機は内腑をこぼしながらも腕を伸ばした。
スパン!
アスカの腕が縦に裂けた。
ロンギヌスの槍によって裂かれた弐号機の腕と同じように、縦に裂けた。
それだけではなく、弐号機はありったけの槍に貫かれた。
さらにエヴァ達は弐号機に群がる。
腕を、足を引きちぎり、口に咥え、手に持って空に舞い上がった。
顎を持たれた弐号機の脳はこぼれ落ち、目玉は飛び出して揺れていた。
一体は足を咥えて骨をがりがりとかじっていた。
シンジはその一連のありさまを全部見ていた。
見ていてまた動けなかった。
上半身と下半身が引き裂かれた。
ずるりと背骨が肉から抜け出す。
背中からエントリープラグが覗いていた。
原形も無く潰れていた。
シンジの思考は許さなかった。
理解する事を許さなかった。
アスカが死んだ事を許さなかった。
でも分かった事が一つだけあった。
それはアスカが許してくれなかったと言う事であった。
「始めるぞ、レイ…」
レイを厳しい目で見下ろすゲンドウ。
「ATフィールドを、心の壁を解き放て…、欠けた心の補完、不要な体を捨て、全ての魂を今一つに…」
ゆっくりと瞳を閉じるレイ。
「そしてユイの元へ行こう…」
ゲンドウの手が乳房をつかんだ。
その手のひらにあるのはアダム。
ゲンドウのATフィールドが、いとも容易くレイを侵食する。
なぜ、できるの?
それはその手にある火傷の痕が、レイとの絆であったから。
ゲンドウは他を絶対的に拒絶し、己を形作って来た。
このために、わたしは碇ゲンドウであり続けた…
子を捨て、感傷を振り切り、個を確立し続けた。
それは絶対的な心の形、壁。
だからこそ、侵食もされずにアダムをアダムのままに取り込んでいる。
そして絆があるから、レイはゲンドウに壁を持たずに受け入れる。
「ん…」
胸をまさぐられ、レイは一瞬何かを思い出した。
シンジに胸をつかまれたこと。
あれは偶然だった、偶然折り重なるように倒れていた。
…この記憶は、なに?
自分のものではない記憶にレイは焦った。
そして自分の記憶も蘇る。
綾波って、人形みたいだ…
あの時も胸を触られていた。
違和感が込み上げる。
心の壁を解き放つ?
それは何のことだろう?
アダムを宿して、自分は何に変われと言うの?
レイの左腕が自重に絶えかねたように抜け落ちた。
「時間が無い、ATフィールドがお前の形を保てなくなる」
レイはますます混乱する。
形?
形って、なに?
落ちた腕が組織崩壊を起こしていく。
「アダムはわたしと共にある、ユイに会うためにはこれしかない」
どうでもいい、それがレイの感想だった。
「アダムとリリス、禁じられた融合、さあレイ、わたしをユイの元へと導いてくれ」
手のひらがレイの中へと潜り込んだ。
「うっ…」
そのまま下へ降り、アダムをレイの子宮へと到達させる。
アダム。
全ての魂の源。
アダム。
全ての心の原初の形。
アダムより生まれしものはエヴァ。
彼女は今二人を見ている、一つ目で。
全ての魂を闇に返し、己はエヴァと共に生きるアダムとなる。
ユイと共に、遥かな時の中を生き抜く存在となる。
己の存在を希薄にしか感じていないレイ。
証拠は自分を保てないこと。
それは心が無いから、形が無い。
なればこそそれは可能でもあったろう。
誰かに会いたい、誰かと共にありたいのだ。
それがゲンドウの願い、そのものでもある。
だから二人目は側にいた。
側に居続けようとした。
彼女は彼の願いから生まれたから。
ゲンドウとレイは一つになれる。
しかし三人目は違っていた。
碇君…
目を開く。
碇君が呼んでる。
シンジの叫びが、聞こえていた。
続く
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元に創作したお話です。