Evangelion Genesis Real
Evangelion another dimension real:23





「初号機が動き出しました!」
「シンジ君か!?」
 カッ!っと目に光が宿る。
 目前のブリッジに横たわる死体が、初号機の業火に焼かれて炭と化した。
 ゴォオオオオオオン!
 ネルフ本部ジオフロント部のピラミッドが、内部からの炎に吹き飛ばされる。
 巻き込まれる戦自の兵士達。
 浄化されるは殉教者達。
 あるいは魂を食らっていくのか?
 その火は十字架の形をとって、やがては光の翼へ形を変えた。
「エヴァ初号機?」
「まさに悪魔か…」
 ジオフロント外で戦自の隊員達は息を飲んでしまっていた。
 天候すらも禍々しい色に染めて、初号機は邪悪な笑みを浮かべている。
 その瞳はアスカを見ていた。
 正確には、弐号機のその慣れの果てを凝視していた。
 うわああああああああああああああ!
 シンジの叫びと共に莫大な慟哭が吹き出していく。
 初号機の拘束具が吹き飛んだ。
 二枚の翼は黄金の十字架へと形を歪める。
「だめ」
 ゲンドウは右腕に痛みを感じた。
「まさか!?」
 ぶつん!
 ゲンドウの腕が食われた。
「レイ!?」
「…わたしはあなたのお人形じゃない」
 取れた部分は、アダムごとレイの中へと取り込まれていく。
 まさかと言う驚きにゲンドウは慌てた。
 レイの腕がエヴァの様に作り治る。
 それはレイにレイの心が宿った証拠。
 再びATフィールドが体の形を組み上げた。
 レイの心が形を作った。
「まて、待ってくれ、レイ!」
 そんなレイにすがりつく。
「…わたしはあなたじゃないもの」
「レイ!」
 既にレイの心はゲンドウには無い。
 レイはリリスと向かい合う。
「ただいま」
 おかえりなさい。
 心を幾つに引き裂かれても、本当の自分がそこにいた。


「大気圏より、高速移動中の物体あり!」
「いかん、ロンギヌスの槍か!」
 冬月の叫びも空しく、初号機の喉元に柄先が突きつけられた。
 お互い空中に浮かんだままで、少しずつ高みへと昇っていく。
『ついに我らの願いが始まる』
 何処かで誰かが宣言した。
 量産機達が、弐号機の骸を打ち捨てる。
『ロンギヌスの槍も、オリジナルがその手に返った』
『では、儀式を始めよう』
 量産機の持つ槍は、ニードルに姿を変えていた。
 その先が伸び、初号機の両手のひらを貫いた。
 残った者は羽を噛み、天空高く引き上げる。
「エヴァ初号機、拘引されていきます」
「ゼーレめ、初号機を寄り代にするつもりか」
 苦々しく吐き捨てる冬月。
 そしてまた誰かが口にする。
『初号機に聖魂が刻まれた』
『今こそ、中心の樹の復活を…』
 エヴァシリーズがS機関を解放する。
「次元測定値が反転、マイナスを示しています、数値化できません!」
「…アンチATフィールドか」
「全ての現象が十五年前と酷似してます」
「当たり前だな」
「じゃあやっぱりサードインパクトが起きるんですか!?」
 マヤの悲鳴と共に激震が再び襲った。
 しかし先程の比ではない。
「どうした!」
「S機関臨界!、分子間距離が維持できません、直撃です!」
 明りが全て非常灯に変わった。
 あまりの震動に立つ事も出来ない。
「地表推積層融解!、第二波が本部周辺を削岩中!」
「外郭部が露呈していきます!」
 椅子を支えにして、冬月はやっと立ち上がった。
「まだ物理的な衝撃だ、アブソーバーを最大にすれば耐えられる」
「戦自主力大隊全滅!」
「日本は滅ぶ、構うな!」
 第三新東京市を中心として発した光は、やがて成層圏を貫くほどの爆発に変わった。
『悠久の時を示す赤き土の禊をもって、先ずはジオフロントを真の姿に』
 地球にぽっかりと大穴が空き、その中に埋まっていた赤黒い球体が姿を現わしていた。


 リリスの胸が盛り上がり、レイの体を飲み込んだ。
 両腕を縫い止められていたのに、釘からあっさりと腕を引き抜く。
 ズドォン!
 黄色い血の海に降り立ち波を立てる。
 その体つきが細くなる。
「…レイ」
 雨の様に血が降り注ぐ。
 ゲンドウが呟くと同時に仮面が落ちた。


「ターミナルドグマより正体不明のこうエネルギー反応接近中!」
「パターン青!、使徒…、いえ、ヒト、人間です!」
 青葉、日向、冬月、伊吹の前に、何かがゆっくりと起き上がって来た。
 それは真っ白な肉のみで構成された人間だった。
「レイか…」
 髪の毛までも肉で作られていた。
 分子の繋がりをすり抜け、レイの手のひらがマヤの体を透過していく。
「ひ、ひいい、いやあああああああああ!」
 マヤはそのおぞましさに悲鳴を上げた。


 初号機は今だうなだれていた。
 その目に光は失われ、どこからかすすり泣く声が漏れていた。


 ちくしょう…、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう…
 あのままでいれば良かったんだ。
 あのままでいれば良かったんだ。
 あのままでいれば良かったんだ。
 やっぱりエヴァに乗ったって、何にも好い事なんて無いじゃないか!
 初号機の周りをエヴァ達が輪を作って回っている。
 その目前に何かが雲を貫いて現われた。
 それは巨大な少女だった。
 下半身は雲の下にある、彼女は暗闇の奥に赤い光を灯していたが、一度瞼を閉じ開くと、それは綾波レイの瞳となった。


 エヴァンゲリオン初号機パイロットの欠けた自我をもって補完を行う。
 三度、報いの時が今。
 エヴァシリーズの翼の裏側に、奇怪な目を描く模様が浮かび上がった。
「エヴァシリーズのATフィールドが共鳴!」
「増幅しています!」
「…レイと同化を始めたな?」
 もうただ事態を見守る事に決めた冬月だ。
 量産機の口から綾波レイの顔が這い出した。
 吐き戻される頭、だがそれは三つにも四つにも分裂して安定しない。
 頭の欠けたエヴァに至っては、そのままにレイの頭も頭骸が壊れ、脳と目玉が丸見えになってしまっている。
 他には気泡のように泡立つ全てが顔になっているものもいた。
 その目全てが一斉に初号機に微笑みかける。
 フルォオオオオオオオン!
 雄叫び…、というより初号機は悲鳴を上げた。
 胸板の真ん中にあった女性器の様な割れ目から赤いコアが姿を見せる。
 もうやだ、もう嫌だよ、母さん…
 EVANGELION・2014・01・TESTTYPEと書かれたユニット。
 その中にはシンジがうずくまっていた。
 誰にも見えないが、シンジがいた。
 綾波レイの体がのけぞった。
 代わりに渚カヲルが起き上がって来る、二人は一つの下半身から枝別れしていた。
 もう、いいのかい?
 カヲルは囁きかけながら、大事に包むように手を伸ばす。
 初号機のコアに、ロンギヌスの槍が柄を埋めた。
 コアがそのねじりに合わせてグネグネと動き出す。
 槍から発したものが、初号機の全身を包み込んだ。
 それはさらに枝と根のように末枝をどこまでも伸ばしていく。
 冬月は神妙な面持ちでその光景を眺めていた。
「使徒の持つ生命の実とヒトの持つ知恵の実、その両方を手に入れ今や命の胎芽たる生命の樹へと還元を果たしたエヴァ初号機…」
 そしてその中にはシンジがいる。
「この先にサードインパクトから人を救う方舟となるか、それとも人を滅ぼす悪魔となるのか?」
 碇、お前のシナリオは壊れたのだな?
 そして今やゼーレの思惑通りに補完への道は進んでいる。
「全ては碇の息子に委ねられたな…」
 ユイ君、これを望んだのかね?
 冬月は感傷の中に溶け込もうとしていた。


 ピチャーン…
 何かの滴が泉に落ちる。
 シンジは幸福の内に夢を見ていた。
 何を願うの?
 レイが居る、カヲルが居る、ユイが居る。
 そのみんなが、シンジのことを分かってくれていた。


「エヴァシリーズ及びジオフロント、E層を通過、なおも上昇中!」
 赤黒い球体が宇宙へ向かって浮かんでいく。
 現在、高度22万キロ。
 MAGIが硬質な音で報告した。
「リリスは?」
「アンチATフィールドを拡大しています」
「これは…、物質化するぞ!」
 大気がそのまま、巨大なレイを作り出す。
 彼女は大切な宝石をその両手で壊れないようにすくい上げた。
「アンチATフィールド、臨海点を突破!」
「だめです、このままでは固体生命の形を維持できません!」
 マヤはクッションを抱いて、すでに現実から逃げていた。
「ガフの部屋が開く、世界の始まりと終局の扉が、ついに開いてしまうか…」
 レイの背中から純白の翼が広がった。
 合計十二枚の真っ白な翼、それは太陽の輝きを受けて、大きく大きく広がった。


 そして補完が始まった。





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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

この作品は上記の作品を元に創作したお話です。