はぁはぁはぁはぁはぁ……
「到着っと!」
シンジは校門の門柱にタッチした。
犬のように舌を出しながら振り返ると、先ずはレイの姿が見えた。
黙ってると可愛いんだけどな……
どこか微笑ましい、美少女特有の悠然とした感じを受ける。
息は小さく切らしており、張り付く髪が疲労の度合を見せていた。
両脇はきっちりと親友二人が固めている。
「妹置いてくなんて酷い奴だよなぁ」
「そや!、ワシらがおらんかったらどうなると思とんねん!」
言ってはいるのだが、二人ともその目は笑っている。
シンジは苦笑しながら二人と並んで校門をくぐろうとした。
すっとトウジとシンジの間にレイが割り込む。
「お?、なんや」
「レイぃ……、トウジにまでそんなことしなくてもいいだろう?」
ぷるぷると首を振って反抗する。
「だめ……」
「はぁ……」
「渚君の例もあるから」
ガッ!
シンジはありもしない石に蹴つまずいた。
「それで今日は怪我して来たのかい?」
「ワシまで巻き添えにされて、もうたまらんわ!」
クスクスと笑うのは、くだんの少年、渚カヲルだ。
アルビノと言うハンデを神秘性で武器に変えている特異な少年。
「ははは、仕方ないね?、シンジ君はレイちゃんだけのものだから」
「二人とも……、ふざけてないで何とか言ってやってよ」
ふーふーと、擦り剥いた肘を吹いている。
「僕は嫌われたくないからね?」
「そや!、ほんまよう似とるで、お前のおとんに」
父さんか……
それは碇家をもっとも良く知る者の言葉だろう。
確かに容姿は似ていない。
しかしその性格は、最も色濃く受け継がれている。
逆にシンジは何処か顔形をもらっていた。
性格は誰にも似ていない、ゲンドウ、ユイ、レイと異常な性格に囲まれたためか?、シンジはちょっと強気と言うものを失っていた。
「そやけどほんま、シンジのおとんは恐いし……」
「そうだね?、あの人がレイちゃんのお父さんだとはとても思えないよ」
「……二人ともレイの本当の姿を知らないから」
本当の姿と言う部分に、今朝の刺激的なシーンを思い出して首を振る。
「ああ〜ユイさぁん、なんであないな男がユイさんみたいな美人を捕まえられたんや?」
「さあ?」
「何も聞いていないのかい?」
「え?」
「馴れ初めだよ……」
「脅されたって、言ってた」
碇ゲンドウ。
誰がどう見ても悪徳政治家かヤクザの親分。
この男がどうやって彼女を!?
それに対する憶測は尽きない。
「結婚……、ですか?」
「ああ……」
「嫌だと言ったら?」
ふっ……
「死んでやる」
なかなかに可愛い男であると、後にユイはのろけまくった。
「やっぱりそやったんかぁ……」
「普通じゃないと思っていたよ、シンジ君のお父さんは」
納得顔で頷く二人。
ま、確かに普通じゃないよな……
逆のことを想像しているとは気付かない三人。
「ユイさん、可哀想になぁ?」
「悲哀に値するよ」
「僕には二人が何を言っているのか分からないよ……」
多少は疑問を感じるらしい。
「はぁいはいはい、みんな席に着いてぇ!」
担任の葛城ミサトがファイルを叩きながら入ってきた。
「ちゃっちゃと行くわよぉ?、洞木さん、明日転校生が来るから机を一つ準備しといて」
「せんせぇー!、それって女の子ですかぁ?」
「それは明日になってからのお楽しみ☆」
どんな子かなぁ?、可愛いといいなぁ……
ほんのちょっと、誰も気がつかないほどシンジの目尻が垂れ下がった。
「お兄ちゃん……」
もちろん、レイだけがその事に気がついていた。
嫉妬にニヤリと口元を歪めて。
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