お昼休み。
「ほなセンセぇ、行こかぁ?」
「あ、待ってよトウジ……」
その前にレイが立つ。
「お兄ちゃん……」
うっ!、お願いモード……
ダリダリと脂汗を垂れ流す。
「あ、あのさ!、今日はいい天気だから屋上で……」
「わたしも、行く」
「あ、で、でも、男ばっかりだし」
「……だめ?」
シンジはがっくりと肩を落とした。
「はい、お兄ちゃん……」
レイの箸がおかずを運ぶ。
母さん、恨むよ!
これを見越してシンジとレイに手渡された弁当箱は逆になっていた。
お母さん、好きな人、いらないのはオヤジ……
シンジの弁当はレイが握っている。
当然レイがそれを手放そうはずが無い。
「なんやごっつう……」
「いやぁんな感じぃ」
「シンジ君はいいねぇ、人に好かれると言うのはいいことだよ」
無責任な三人の視線。
「あのねぇ……、いくら好かれたって、妹じゃしょうがないだろう?」
カラン……っと箸が転がり落ちる。
「あ、あ、あ、ごめんレイ!、そうじゃなくて、あの」
「なに?」
冷たい目線。
「ちゃんとレイの事は好きだからね?」
「そう……、わかったわ」
ほんのりと頬を桜色に染めて箸を拾う。
「お箸、洗って来るから」
と言ってとてとてと走り去るレイ。
「はぁあああああああああ……」
「なんや?、魂から抜けてそうな溜め息吐いて」
「レイってさぁ、男の子に興味ないのかなぁ?」
「ん?、あるんじゃないのか?」
「でもあのブラコンは酷いよぉ……」
「今日はキス……、ねだられなかっただけマシなんじゃないのかい?」
「うらぎりもぉん!」
「スキンシップだろぉ?」
「どう見ても恋する乙女って感じだよな?」
「……僕はシスコンじゃないのに」
はぁっと、シンジは頭を抱えた。
その頃レイは一人水場で箸を洗っていた。
「あ、あの、碇さん!」
ジャー……
レイはその子をちらりとだけ見る。
「なに?」
抑揚のない返事。
「あ、あのさ!、これ、映画の券、碇さんこういうの好きだって聞いたから……」
もちろん教えたのはシンジだ。
これも脱ブラコンを願う兄心である。
「そ……」
「それでさ、碇さんが好きなら僕も見たいなぁと思って……」
「行けば?」
へ?っとキョトンとしている間に、レイはその脇をすり抜ける。
「あ、い、碇さぁん!」
レイは少し不機嫌になった。
またお兄ちゃん……
人と会話しないレイのために、シンジが必要以上に話をばらまいているのだ。
お兄ちゃんがいれば、それでいいのに……
レイのブラコンにも訳がある。
レイはその約束のことを想い返した。
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