Rei's - faction:006
「お兄ちゃん……」
 レイは愕然とする。
「あ、先に食べちゃ……ったんだ、けど、ごめん!、お願いだから泣かないで!」
 レイの泣きそうな表情に慌てまくる。
「アホが……、だから待っとけ言うたやろが」
「今のうちなんて考えるから……」
 レイはぐじっと下唇を持ち上げる。
「ごめんってば!、ほら、レイのお箸で食べさせてもらったんだよ、レイは僕の箸使ってもいいから、ね?」
「迂闊なやっちゃのぉ……」
 びえぇ〜〜〜ん!
 感情の起伏は小さくとも泣く時は泣く。
 それを見て知っているのは、ここに居る四人ぐらいのものだった。


 吹奏楽部の活動というのはかなり自由だった。
 と言うのも同じ音楽室内では、音が混ざって良く分からなくなるからだ。
「今日はどこにしよっか?」
「野球部見に行こう?」
 女の子達が、それぞれお目当ての子を覗きに出て行く
 それでも応援ついでに練習しているのだから文句は言えない。
 シンジは音楽室の居残り組で、先生が特別に用意してくれたチェロを調律していた。
 よかった、チェロがやれて……
 シンジは青葉先生に感謝していた。
 吹奏楽部に弦楽器は無かった。
 シンジは「音楽部」だと信じて入り、ほんの少しだけ後悔した事を思い出した。
「じゃあレイ、頼むね?」
 コクリと頷くレイ。
 指揮棒を持ち、シンジと、後三人にタイミングを与える。
 紡ぎ出される音。
 シンジは中学二年生にしては、かなりうまい方だった。
 継続は力である、才能も手伝ったのだろうが、才能をどれだけ引き出すかもまた努力次第と言うことだ。
 曲は「KanonD−dur」と、中学生にしては難しい曲を選択している。
 事実シンジに触発されてバイオリンを始めたカヲルにとっては、着いていくのがやっとの状態だ。
 後の人間も何処かぎこちないのだが、それでもテンポやリズムが狂う事は無い。
 それは目の前で指揮棒を振ってくれている少女のおかげであった。
 レイは譜面も見ずに指揮を続ける。
 シンジの演奏をずっと聞いて育ったためだろうか?
 レイには音が絵のように見えていた。
 だからこそ不協和音を奏でる、不調和が許せない。
 レイは少しでも音に不満があれば、その人間に冷たい目を向ける。
 今の所かい?
 カヲルは苦笑を返す。
 その目が印象に残って、次には注意することができる。
 長いようで短い演奏が終わった。
「ふぅ……、カヲル君、間違えたんだね?」
「分かったかい?」
「全然……、でもレイが不満そうにしてたから」
 残りの少女達も苦笑した。
 霧島マナと山岸マユミ。
 両方とも掛け持ちで入ってくれている部員である。
 弦楽器を弾ける人間は貴重だった。
「ほんと、レイちゃんって良い音感してるのね?」
「わたしには分かりませんでしたが……」
 首を傾げている。
「……お兄ちゃんから、ずれた」
 カヲルは肩をすくめる。
「僕にはまだ、シンジ君との完璧な協調は無理みたいだからね?」
「嫌……」
「なにがだい?」
 レイの思考ルーチンを記すとこうなる。
 協調。
 ユニゾン。
 男同士。
ふけつよぉー!
 ドキッとするシンジとカヲル。
「待ってぇな委員長〜〜〜」
 情けない声を上げてバタバタと親友が走っていく。
 苦笑いを浮かべるシンジとカヲル。
「お兄ちゃんを、巻き込まないで……」
 そしてレイがとどめを刺した。



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