自宅。
「うわあああああああ!、れ、レイ、入って来ないでよ!」
「なぜ?」
「何故って……、ここはお風呂じゃないかぁ!」
タオルで股間を隠し、どたどたと廊下を走っていく。
「シンジぃ、あとで廊下拭いておくのよ?」
よほど慌てていたのだろう、廊下は思いっきり濡れている。
「ほらほら、レイちゃんも寂しそうにしてないで、風邪を引くわよ?」
「風邪……、看病、優しいお兄ちゃん」
「こぉら!、心配させちゃダメでしょ?」
「でも……」
「はいはい、今日はシンジが悪かったのよね?」
コクリと頷く。
シンジはレイを待たずにお昼を終えてしまったから。
「でもちゃんとお膝の上で食べさせてもらったんでしょ?」
ポッと頬を染めてうつむくレイ。
「そ・れ・に、今朝約束したでしょ?」
一緒に寝ると。
レイはしっかりと覚えていた。
「なら早くお風呂に入らないと、お兄ちゃん寝ちゃうわよ?」
「はい」
カチャッと脱衣所のドアが閉まる。
「……あなた、何やってるんですか?」
新聞に穴を空けて、こっそりとレイを覗き見ている。
「ああ、わかったよ、ユイ……」
「何が分かってるんですか?」
「いや、わたしが悪かったと……」
「だから何がです?」
「その……」
「なに?」
「だからな?」
「はっきりと!」
「いやしかし」
「逃がしません!」
「すまん、許してくれ、ユイー!」
この後絶叫がリビングを満たしたのだが。幸いにも完全防音だったために、誰にもその悲鳴が聞こえることは無かったと言う。
お風呂を上がると、リビングからユイが歩いて来た。
「すっきりしたわ」
なにがだろう?
やたらと頬がつやつやしている。
「レイ、早く行け、でなければお菓子を食べろ」
げっそりとやせ細りながらも何処か満足げな父。
「いらない、太るもの」
とててっとレイはシンジの元へと去っていく。
レイ、わたしを捨てるつもりか、レイ!
ちょっぴり寂しい父だった。
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