Rei's - faction:009
うっわー!
 今日も碇家……、と言うよりは、碇のご近所はシンジの悲鳴で朝を迎える。
「だからどうして裸なんだよ!」
 夕べはちゃんと着て寝てたじゃないかぁ!
 恐らく慣れてないのは、当事者であるシンジただ一人であろう。
 スパァン!
 今日も良い感じで、ユイのスリッパの音が鳴り響いた。


 はっはっはっはっはっ……
 その女の子は走っていた。
 口に食パンを咥えている。
「初日から遅刻なんて、マジでヤバいって感じだよねぇ!」
 もごもごと唇のみで食パンを食べ切ると、続いてポッケからアンパンを取り出す。
「あっ!」
 どっしーん!
 お約束的にぶつかる二人。
 シンジは見た、白い秘境を。
 パン!
「ごめん、マジで急いでるからそれで勘弁してあげるぅ!」
 走り去る少女の背中。
 青い髪と、見かけない制服。
 シンジは呆然と座り込んでいた。
「なんだよもぉ……」
 その後ろで、レイの視線は冷たかった。


「それで!、見たんか?」
「ん?、ちょっとだけね?」
 シンジとトウジの会話を聞き咎める。
「やだ最低ぇ〜」
「鈴原の口ってやらしぃ〜」
「なんやとう!、シンジはどやねん!?」
「だって、ねぇ?」
 みんなはちらちらとレイを見る。
 ぽっとゆっくりうつむくレイ。
「きゃああああ!」
「やっぱりぃ!」
 レイぃ……
 恨みがましく頭を抱える。
「はぁいはいはい!、みんな席に着いてぇ!」
 そこへミサトが登場する。
「ふふぅん、喜べ男子ぃ、転校生を紹介するぞぉ!」
「綾波レイです」
 ぺこっと頭を下げる元気な子。
 あれ?
 綾波は戸惑った。
 皆が呆然としているからだ。
 あ、やっぱり、かな……
 ちょっと表情が陰ってしまう。
 色素の抜けた肌、青みがかった髪、赤い瞳。
 驚く、毛嫌いは当たり前だったから。
 でも負けないもん!
 ぐっと奥歯を噛み締める、が……
「んふふ〜ん、やぁっぱりみんな驚いたわね?」
 ミサトはシンジへ目を向けた。
「どう?、顔も髪型も名前まで一緒、凄いでしょ?」
 え?
 戸惑う綾波。
「すっげぇ〜」
「双子じゃねぇの?」
「空似ってあるんだぁ」
 みんなの視線の先を追う。
「うわ!」
 綾波も驚いた。
 不機嫌な自分がそこに居る。
 肌と髪と瞳の色はまるで違うが、確かに自分だ。
「くぅ〜〜〜!、こぉの時のために情報伏せてたのよ!、さあみんな質問は!」
 はいっと元気に手を挙げる。
「ほい、相田君!」
「もしかして碇を張っ倒したのって綾波さんですか?」
「え?、碇……」
 呆然としている少年を見つける。
「ああ〜〜〜!、今朝のパンツ覗き魔!」
 がたんっとレイが立ち上がる。
「……あなたが汚いものを見せたのよ」
「き、汚くないもん!」
「見られて困るの?」
「恥ずかしいでしょ!」
「そう、恥ずかしいのね?」
 クスッと笑って座り直す。
「なななっ!」
 もうちょっとでドカーンと行ってしまうだろう。
「ん〜、ちょっちHRじゃ時間足んないわね?、続きは休み時間に適当にねん♪」
 ミサトの視線に委員長のヒカリが立つ。
「きりーつ、れい」
 まさに阿吽の呼吸だろう。
 みんなはどどっと押し寄せた。
「綾波さんの席は一番後ろだから」
「こっちの机ね?」
「え?、あの……」
「ああ、隣は渚君って言ってね?」
 ♪
 廊下にやたらと陽気な鼻歌が響く。
 ガラッと戸が開き……
「渚君、遅刻よ!」
「ごめんよ洞木さん、今朝はつい懐かしい夢を見てね?、続きをどうしても見たかったのさ」
 そう言って席に着こうとする。
「おや?、君は……」
 綾波は驚きに目を見張っていた。
 赤い瞳、銀の髪、白い肌。
 アルビノの子が同じ学校に、それも同じクラスに居るなんて……
「あ、あの、綾波です!」
 カヲルはにっこりと微笑んだ。
「そう、僕はカヲル、渚カヲルだよ」
 親近感。
 初めて彼女はそれを感じた。



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