「うっわー!」
今日も碇家……、と言うよりは、碇のご近所はシンジの悲鳴で朝を迎える。
「だからどうして裸なんだよ!」
夕べはちゃんと着て寝てたじゃないかぁ!
恐らく慣れてないのは、当事者であるシンジただ一人であろう。
スパァン!
今日も良い感じで、ユイのスリッパの音が鳴り響いた。
はっはっはっはっはっ……
その女の子は走っていた。
口に食パンを咥えている。
「初日から遅刻なんて、マジでヤバいって感じだよねぇ!」
もごもごと唇のみで食パンを食べ切ると、続いてポッケからアンパンを取り出す。
「あっ!」
どっしーん!
お約束的にぶつかる二人。
シンジは見た、白い秘境を。
パン!
「ごめん、マジで急いでるからそれで勘弁してあげるぅ!」
走り去る少女の背中。
青い髪と、見かけない制服。
シンジは呆然と座り込んでいた。
「なんだよもぉ……」
その後ろで、レイの視線は冷たかった。
「それで!、見たんか?」
「ん?、ちょっとだけね?」
シンジとトウジの会話を聞き咎める。
「やだ最低ぇ〜」
「鈴原の口ってやらしぃ〜」
「なんやとう!、シンジはどやねん!?」
「だって、ねぇ?」
みんなはちらちらとレイを見る。
ぽっとゆっくりうつむくレイ。
「きゃああああ!」
「やっぱりぃ!」
レイぃ……
恨みがましく頭を抱える。
「はぁいはいはい!、みんな席に着いてぇ!」
そこへミサトが登場する。
「ふふぅん、喜べ男子ぃ、転校生を紹介するぞぉ!」
「綾波レイです」
ぺこっと頭を下げる元気な子。
あれ?
綾波は戸惑った。
皆が呆然としているからだ。
あ、やっぱり、かな……
ちょっと表情が陰ってしまう。
色素の抜けた肌、青みがかった髪、赤い瞳。
驚く、毛嫌いは当たり前だったから。
でも負けないもん!
ぐっと奥歯を噛み締める、が……
「んふふ〜ん、やぁっぱりみんな驚いたわね?」
ミサトはシンジへ目を向けた。
「どう?、顔も髪型も名前まで一緒、凄いでしょ?」
え?
戸惑う綾波。
「すっげぇ〜」
「双子じゃねぇの?」
「空似ってあるんだぁ」
みんなの視線の先を追う。
「うわ!」
綾波も驚いた。
不機嫌な自分がそこに居る。
肌と髪と瞳の色はまるで違うが、確かに自分だ。
「くぅ〜〜〜!、こぉの時のために情報伏せてたのよ!、さあみんな質問は!」
はいっと元気に手を挙げる。
「ほい、相田君!」
「もしかして碇を張っ倒したのって綾波さんですか?」
「え?、碇……」
呆然としている少年を見つける。
「ああ〜〜〜!、今朝のパンツ覗き魔!」
がたんっとレイが立ち上がる。
「……あなたが汚いものを見せたのよ」
「き、汚くないもん!」
「見られて困るの?」
「恥ずかしいでしょ!」
「そう、恥ずかしいのね?」
クスッと笑って座り直す。
「なななっ!」
もうちょっとでドカーンと行ってしまうだろう。
「ん〜、ちょっちHRじゃ時間足んないわね?、続きは休み時間に適当にねん♪」
ミサトの視線に委員長のヒカリが立つ。
「きりーつ、れい」
まさに阿吽の呼吸だろう。
みんなはどどっと押し寄せた。
「綾波さんの席は一番後ろだから」
「こっちの机ね?」
「え?、あの……」
「ああ、隣は渚君って言ってね?」
♪
廊下にやたらと陽気な鼻歌が響く。
ガラッと戸が開き……
「渚君、遅刻よ!」
「ごめんよ洞木さん、今朝はつい懐かしい夢を見てね?、続きをどうしても見たかったのさ」
そう言って席に着こうとする。
「おや?、君は……」
綾波は驚きに目を見張っていた。
赤い瞳、銀の髪、白い肌。
アルビノの子が同じ学校に、それも同じクラスに居るなんて……
「あ、あの、綾波です!」
カヲルはにっこりと微笑んだ。
「そう、僕はカヲル、渚カヲルだよ」
親近感。
初めて彼女はそれを感じた。
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