授業中も、ぼうっと綾波はカヲルを見ていた。
「……何かついているのかい?」
「あ、いえ!」
慌てて端末に目を落とす。
この街、第三新東京市でもこの学校だけがターミナルによる授業を行っていた。
ある意味実験校なのだ。
「僕の事が気になるのかい?」
ドキッとする。
「でもだめだよ……、僕には大切な人が居るからね?」
視線の先を追う。
あ……
レイが居た。
「そう……」
暗くうつむく。
そうよね……
同じ顔、同じ容姿なら普通の子の方が……
シンジ君……
しかしカヲルが見ていたのは、その向こうに居るシンジであった。
昼休みには綾波の話はある程度まで広がった。
なによりもその姿。
レイに似ていて、カヲルと同じ。
特にアルビノの点がいけなかった。
この学校ではカヲルは一方で恐怖の対象であったから。
「きゃあ!」
購買でパンを買った帰り、綾波は目の吊り上がった少年に突き飛ばされた。
「気持ちわりぃ……」
「移るからこっちくんなよ」
ふざけながら遠ざかっていく。
「綾波さん、大丈夫?」
購買まで案内したヒカリが手を差し伸べようとした。
「あ、大丈夫、大丈夫だから……」
綾波はその手から逃げようとした。
伏せた目の前に、もう一つ大きな手が差し伸べられる。
「え?」
見上げると、シンジが笑いかけていた。
「だめ……」
綾波は首を振る。
「どうしてさ?」
「だって……」
さっきの少年達を見る。
「あたしは、大丈夫だから……」
「そんな悲しいこと言うなよ」
何故か綾波の表情が驚きで酷く強ばった。
「今は良い事が無くても、きっといいこともあるよ」
そう言って無理矢理綾波の手を握る。
「ほら、立って?」
「あんた達、良い度胸してるじゃない?」
廊下の端で、ミサトにつかまっている連中が見えた。
綾波を引き起こしながらシンジが教える。
「ミサト先生は普通の先生とは違う、ちゃんと守ってくれるよ」
それにも驚く。
どうして?
いじめられる人間のことがわかるの?
そう問いたげに。
「これから屋上でお昼にするんだけど、一緒に行かない?」
「え?」
「洞木さんもさ」
「そうね、その方がいいわ」
じゃあお弁当取って来るっと、ヒカリは慌てて駆け戻った。
ぶすぅっとレイがふくれている。
「だ、だからぁ」
ひたすら卑屈なシンジ。
なに?
なんなの?、この差って?
その情けない落差についていけない。
「ほっとけほっとけ」
「そうそう、あいつらいつもああなんだよ」
良いのかしら?
綾波はちょっと小首を傾げる。
「あいつの妹もレイって言うんだけど、ブラコンなんだよ」
「ふぅん……」
はむっとやきそばパンを小さくかじる。
購買の王者、鈴原トウジに「転校生にプレゼントや!」っと貰ったのだ。
綾波はちらりとケンスケを見た。
「大丈夫だよ」
カヲルが囁く。
「相田君は許しを貰ってないと撮らないからね?」
「撮る時もあるよ、いい笑顔とかさ?、もったいないだろ?」
そう言って手入れしていたカメラを綾波へ向ける。
「撮られるのって嫌?」
綾波は慌てて取り繕おうとした。
「焦らなくてもいいわよ」
ヒカリがはにかむ。
「嘘は心を固くする……、それでは皆を遠ざけるだけだからね?」
綾波はキョトンとした。
「辛いかい?、髪の色が」
「……普通が、いい」
「自分の髪なのに?」
「だって……」
「いじめられたんやろ?」
ビクッと堅くなる。
「ええか?、そやからって隠さんでもええ」
顔を上げる綾波。
「どう……、して?」
「シンジの影響かな?」
笑いを漏らすケンスケ。
「僕の時がそうだったよ……、僕もね?、この目のことを聞いたよ、どう答えてくれたと思う?」
「???」
カヲルは苦笑した。
「え?、そう言う人もいるんでしょ、そう言ってくれたよ」
嬉しいのだろう、カヲルは笑みを浮かべる。
「人の中のはみ出し物、そう思っていたけどね?」
「あ〜、シンジにとっちゃあ、そんなん外人と同じやで」
ケンスケに振る。
「そうそう、髪が金色の人間も居るんだからってさ」
綾波はシンジを目で追った。
「正直、その時に僕は僕と言う存在を認めて貰えた気がしてね?」
「あかんあかん」
トウジは手を振る。
「そりゃ勘違いやで」
「そうそう、シンジはそんなに深いこと考えてないって」
「その上情けないものね?」
ヒカリのセリフに皆で頷く。
ようやく機嫌を直してもらえたのか?、シンジがレイを伴って戻って来た。
シンジと腕を組み、レイは綾波を睨んでいる。
ぷぅっと膨れた頬が可愛らしい。
あ、あたしって、こんな顔も出来るんだ……
ちょっとずれた感想を抱いたりする。
「どうやら君は僕と同じように見られたみたいだね?」
「え?」
「彼女にとっては、兄を奪う者は敵って事さ」
あ〜……、やっぱり手を引いて連れて来てもらったのがいけなかったのかも。
ちょっとだけすまないような気がしてしまう綾波だった。
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