Rei's - faction:010
 授業中も、ぼうっと綾波はカヲルを見ていた。
「……何かついているのかい?」
「あ、いえ!」
 慌てて端末に目を落とす。
 この街、第三新東京市でもこの学校だけがターミナルによる授業を行っていた。
 ある意味実験校なのだ。
「僕の事が気になるのかい?」
 ドキッとする。
「でもだめだよ……、僕には大切な人が居るからね?」
 視線の先を追う。
 あ……
 レイが居た。
「そう……」
 暗くうつむく。
 そうよね……
 同じ顔、同じ容姿なら普通の子の方が……
 シンジ君……
 しかしカヲルが見ていたのは、その向こうに居るシンジであった。


 昼休みには綾波の話はある程度まで広がった。
 なによりもその姿。
 レイに似ていて、カヲルと同じ。
 特にアルビノの点がいけなかった。
 この学校ではカヲルは一方で恐怖の対象であったから。
「きゃあ!」
 購買でパンを買った帰り、綾波は目の吊り上がった少年に突き飛ばされた。
「気持ちわりぃ……」
「移るからこっちくんなよ」
 ふざけながら遠ざかっていく。
「綾波さん、大丈夫?」
 購買まで案内したヒカリが手を差し伸べようとした。
「あ、大丈夫、大丈夫だから……」
 綾波はその手から逃げようとした。
 伏せた目の前に、もう一つ大きな手が差し伸べられる。
「え?」
 見上げると、シンジが笑いかけていた。
「だめ……」
 綾波は首を振る。
「どうしてさ?」
「だって……」
 さっきの少年達を見る。
「あたしは、大丈夫だから……」
「そんな悲しいこと言うなよ」
 何故か綾波の表情が驚きで酷く強ばった。
「今は良い事が無くても、きっといいこともあるよ」
 そう言って無理矢理綾波の手を握る。
「ほら、立って?」
「あんた達、良い度胸してるじゃない?」
 廊下の端で、ミサトにつかまっている連中が見えた。
 綾波を引き起こしながらシンジが教える。
「ミサト先生は普通の先生とは違う、ちゃんと守ってくれるよ」
 それにも驚く。
 どうして?
 いじめられる人間のことがわかるの?
 そう問いたげに。
「これから屋上でお昼にするんだけど、一緒に行かない?」
「え?」
「洞木さんもさ」
「そうね、その方がいいわ」
 じゃあお弁当取って来るっと、ヒカリは慌てて駆け戻った。


 ぶすぅっとレイがふくれている。
「だ、だからぁ」
 ひたすら卑屈なシンジ。
 なに?
 なんなの?、この差って?
 その情けない落差についていけない。
「ほっとけほっとけ」
「そうそう、あいつらいつもああなんだよ」
 良いのかしら?
 綾波はちょっと小首を傾げる。
「あいつの妹もレイって言うんだけど、ブラコンなんだよ」
「ふぅん……」
 はむっとやきそばパンを小さくかじる。
 購買の王者、鈴原トウジに「転校生にプレゼントや!」っと貰ったのだ。
 綾波はちらりとケンスケを見た。
「大丈夫だよ」
 カヲルが囁く。
「相田君は許しを貰ってないと撮らないからね?」
「撮る時もあるよ、いい笑顔とかさ?、もったいないだろ?」
 そう言って手入れしていたカメラを綾波へ向ける。
「撮られるのって嫌?」
 綾波は慌てて取り繕おうとした。
「焦らなくてもいいわよ」
 ヒカリがはにかむ。
「嘘は心を固くする……、それでは皆を遠ざけるだけだからね?」
 綾波はキョトンとした。
「辛いかい?、髪の色が」
「……普通が、いい」
「自分の髪なのに?」
「だって……」
「いじめられたんやろ?」
 ビクッと堅くなる。
「ええか?、そやからって隠さんでもええ」
 顔を上げる綾波。
「どう……、して?」
「シンジの影響かな?」
 笑いを漏らすケンスケ。
「僕の時がそうだったよ……、僕もね?、この目のことを聞いたよ、どう答えてくれたと思う?」
「???」
 カヲルは苦笑した。
「え?、そう言う人もいるんでしょ、そう言ってくれたよ」
 嬉しいのだろう、カヲルは笑みを浮かべる。
「人の中のはみ出し物、そう思っていたけどね?」
「あ〜、シンジにとっちゃあ、そんなん外人と同じやで」
 ケンスケに振る。
「そうそう、髪が金色の人間も居るんだからってさ」
 綾波はシンジを目で追った。
「正直、その時に僕は僕と言う存在を認めて貰えた気がしてね?」
「あかんあかん」
 トウジは手を振る。
「そりゃ勘違いやで」
「そうそう、シンジはそんなに深いこと考えてないって」
「その上情けないものね?」
 ヒカリのセリフに皆で頷く。
 ようやく機嫌を直してもらえたのか?、シンジがレイを伴って戻って来た。
 シンジと腕を組み、レイは綾波を睨んでいる。
 ぷぅっと膨れた頬が可愛らしい。
 あ、あたしって、こんな顔も出来るんだ……
 ちょっとずれた感想を抱いたりする。
「どうやら君は僕と同じように見られたみたいだね?」
「え?」
「彼女にとっては、兄を奪う者は敵って事さ」
 あ〜……、やっぱり手を引いて連れて来てもらったのがいけなかったのかも。
 ちょっとだけすまないような気がしてしまう綾波だった。



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