学校帰り。
皆で喫茶店に寄っていた。
「いいのかなぁ……」
「なに?」
ヒカリが綾波の言葉を拾う。
「だって……、帰りに」
「うちは大丈夫だよ」
小さな喫茶店だ、シンジ達だけで一杯になってしまっている。
「ちゃんと葛城が公認してるからな?」
「ミサト先生のことだよ」
無精髭に尻尾髪のマスターが、苦笑しながらコーヒー、紅茶にケーキを運んで来てくれた。
「そやけどまあ、正直カヲルん時は気色悪い思たわ」
その台詞に綾波の顔色に影がさす。
「でもすぐに慣れたもんなぁ?」
「カヲルがレイとシンジの取り合いしとったからやろ?」
「みんな驚いてたもんねぇ?、レイってそれまで静かだったのに……」
「カヲルが近付くと、むくれるわふくれるわ、凄かったよな?」
ファインダーごしにレイを見る。
レイはほんの少しだけ小さくなっていた。
「君は意識し過ぎだね?」
「ご、ごめんなさい……」
びくっと反応する綾波レイ。
「まあ仕方が無いけどね?」
「すまんのぉ?、シンジに慣らされてしもとるから……」
みんなでカウンターの方を見る。
「加持さん、カフェオレ出来ましたよ」
「後はレモンティーだけだよ」
「ほんとに高校行ったらバイトで雇ってくれるんでしょうねぇ?」
「もちろん、今までの手伝い賃を上乗せするよ」
話を戻す。
「僕は両親共に亡くしていてね?」
「え!?」
突然のカヲルの告白に驚いてしまう。
「でもシンジ君には、ふうん……って、その程度で流されちゃったよ」
嬉しそうに笑うのが不思議になる。
「シンジ君はそう言う事に興味が無いのさ、しょせんは人事だからね?、でも気にしているようなら気にしなくていいように教えてくれる、そう言う人なんだよ」
気にしてもいない事を気にさせていたのが、シンジと出会う前のカヲルの周りに居た人達だった。
「そうなんだ……」
綾波はミルクティーの入ったコップを弄んだ。
「あの……、碇君って」
ピクッとレイが反応する。
「小学校、何処か知ってる?」
「なんやそりゃ?」
「箱根小学校じゃなかったっけ?」
ピタッと綾波の手が止まる。
「……知ってるのかい?」
「う……ん、えっと」
ぐっと拳を突き出すトウジ。
「お前まだわかっとらんのやな?」
「え?」
拳に脅える。
「ワシらは友達や、友達は隠しごとすんな!」
トウジは本気の声で綾波を叱った。
「とも……、だち」
「そうよ?」
ヒカリも微笑みかける。
「恥ずかしい奴でさ、男は殴り合って友情が生まれるんだとか、そう言う人間なんだよ」
「お前に男の心は分からん!」
「トウジと殴り合えるのはカヲルとシンジの二人だけだよ」
さらっと危ない発言をする。
「話してもらえるかい?」
綾波はコクリと頷いた。
それは小さな頃のこと。
綾波はやっぱりいじめられていた。
「何泣いてるの?」
「やぁ!」
恐がり、綾波は小石を投げた。
「いてっ!」
その子の額から血が流れる。
「あ、や……」
その血に驚く。
「あ、大丈夫だよ、ちょっと痛いけど……」
そう言ってごしごしと袖で拭う。
「いじめられたの?」
綾波は泣きじゃくった。
「わたしには……、誰もいないもの」
お父さんもお母さんも気持ち悪がっていた。
「そんな悲しいこと言わないでよ……」
シンジは泣きそうになった。
自分が嫌われそうだと心で感じたから。
「嫌だけど……、でもきっといいこともあるよ、あるから……」
だから。
「「大きくなったら、結婚しよう」」
レイと綾波のセリフがぴったり被った。
驚く綾波と、表情を消すレイ。
「どうして……」
「なぜ、あなたが知っているの?」
「え?」
「それはわたしとお兄ちゃんの事よ……」
「ち、違う!、これはあたしの約束よ、だから!」
だから今まで我慢して来た。
明るく振る舞ってここまで来れた。
「う〜ん、謎だねぇ」
カヲルは面白そうに顎を撫でた。
「でもシンジ君なら、二人に同じことをしていてもおかしくは無いね?」
「なに?、何の話し?」
自分のコーラを持って席に着くシンジ。
「???」
緊迫したムードにも、シンジは全く気付かなかった。
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