「はぁ……」
シンジはベッドの端に座って一息着いた。
コンコンコン……
「あの、碇君……」
「綾波?、いいよ、どうぞ」
控え目に入って来る。
お風呂上がりの、ピンクのパジャマ。
「綾波は上のベッドを使ってよ」
「……いいの?」
「女の子を下には寝かせられないよ」
一組布団が増えている。
「やっぱり、あたしが床に寝る」
「だめだよ、そんなことしたら何言われるか分かんないよ」
優しく諭す。
「あの……、ほんとに、ごめんね?」
「なにがさ?」
「だって……」
言葉を失う。
「立ってないで、ここに座りなよ」
隣、でも少し間を離して腰掛ける。
「どうしたの?、なんだかおかしいよ……」
「おかしい?」
「だってさ?、いきなり「見物料」って引っぱたいた時とは随分違うよ?」
カーッと綾波は赤くなる。
「だだだ、だって、あの時は!」
「やっぱり綾波も同じなんだね?」
「え?」
「僕達は兄妹なんだって……、でも恥ずかしいでしょ?、やっぱり……」
「うん」
消え入りそうな、か細い声。
「それって、僕を家族じゃなくて男の子だって見てるんじゃないの?」
「……うん」
「慣れるまでが大変かもね……」
「そうかもしれない……」
二人で仰向けに倒れ込む。
「ねえ……」
「なにさ?」
「レイちゃんって、ブラコンなんだよね?」
「……はぁ」
「あたしもそうかも」
「勘弁してよぉ……」
屈託の無い笑いがようやく漏れた。
翌朝。
「うわああああああああああああ!」
やはりこうなると言う感じである。
「れ、レイ、何やってんだよ!?」
「んん〜、お兄ちあゃん……」
今日はいつもより積極的に、シンジのTシャツの中へと手を差し込んでいる。
「い、碇君……」
「違うよ、違うんだよ、誤解なんだぁああああああああ!」
スパァン!っと今日も良い音が鳴り響く。
「はいはい、レイはこっちで面倒見るから、レイちゃんは先に顔を洗って、シンジはその間に自我境界線を再構築しなさい、いいですね!」
「はい、おばさま」
綾波の何気ない一言にユイの表情がわずかに陰る。
「あ、え?」
「レイちゃん……、お願い、もう家族なの、だから」
「あっ!、えっと……」
恥じらい、上目づかいにユイを見る。
「お母……さん」
笑顔の華が咲いた。
「パンはもう焼けてますからね♪」
「はいっ、お母さん!」
「あなたは邪魔よ」
「……わたしはダメなのか?、ユイ」
次にお父さんと呼んでもらおうとしていたゲンドウは、妻の冷たい一言に寂しく背中を丸めるのだった。
続く
[BACK][TOP][NEXT]