Rei's - faction:014
 あ〜ん、あ〜ん、あ〜ん……
 女の子が泣いている。
 どうしたんだい?
 みんながいじめるの。
 年上のお兄さんが髪の長い女の子を慰めている。
 みんなみんな嫌い。
 大っ嫌い!
 でも一番嫌いなのはあたし。
 赤い髪も青い目も嫌い。
 でも俺は好きだけどなぁ。
 ほんと?
 ああ。
 じゃあお嫁さんにしてくれる?
 はは……、こりゃ参ったな。
 そのやり取りは懐かしい記憶の産物。
 それに気付いた途端、シンジは理解した。
 あ、これ夢だ……
 眠りが酷く浅い。
 シンジは目の前の光景がそうだとわかると、なるべく目が覚めないように続きを見ようとまどろんだ。


「信じらんない!」
 それが綾波レイの碇家に対する感想の全て。
「シャワー浴びてたら入って来るし、碇くんはレイちゃん引っ張り込むし」
 揚げ句の果てには父親はそれを覗く始末。
「だからそれはぁ!」
 かなり騒がしい登校風景。
「シンジぃ!」
「なんや、綾波も一緒かいな?」
 ちなみにシンジと綾波の間は、きっちりとレイが隔てるように割り込んでいる。
「昨日は渚と帰らんかったか?」
「うん、その後で碇君の家に行ったから……」
「「なにぃ!」」
「うわぁ!」
 同時にシンジを締め上げるトウジとケンスケ。
「シンジぃ!、お前だけは心の友と書いてシンユウだと思っていたのに!」
「そや!、シスコンのくせしてなに抜け駆けしとんねん!」
「そんなんじゃないってば!」
「……違うんだ」
「あ、綾波!、なにを!?」
「「シ〜ンジぃ……」」
 怪しく曇った眼鏡の奥から涙がちょちょ切れる。
 ちなみにトウジの方は充血した揚げ句に鼻息も荒い。
「そうかぁ……、自分の妹には手が出せん」
「そこへ登場したクリソツ美少女」
「美少女だって☆」
「……顔は認めるわ」
「…………」
「なに?」
「いや、ちょっと引っ掛かりが……」
 首を傾げる綾波レイ。
「だからぁ!、僕が何したって言うんだよぉ!」
「……昨日TEL番渡してたよな?」
「どうせ寂しい言われて、呼び出したんやろ?」
「揚げ句に公園にでも誘って……」
「なんちゅう奴っちゃ!」
「あのねぇ!」
「よっしゃ!、綾波レイはお前に任せた」
「健全な道を走ってくれよ!」
「と言う訳で碇ぃ」
「振られたもん同士で仲良く……、うわ」
 冷たい視線にたじろいでしまう。
「……な、なんや?」
「……わたしはお兄ちゃんのものだもの」
「そんなこと言うから誤解されるのにぃ」
 たははと綾波も汗をかく。
「それにあの人とお兄ちゃんは何でも無い、キスもしてない」
「れ、レイ!」
「ただ一緒に住む事になった、それだけよ……」
 瞬間、空気が凍りつく。
 脳の皺が一本一本まで異常収縮する中で、二つの点が分析と共に認識される。
 かかった時間はおよそ十秒。
「……キス」
 あの人はしていない。
 では誰としたのか?
「一緒に……」
 どこの屋根の下に住むと言うのか?
「違うよぉ!、綾波もなんとか言って……」
フケツよぉおおおおおおおおおおおおお!
「委員長、どっから!?」
「碇君、キス……、してるんだ」
 羨ましそうな綾波。
「違うーーーー!」
 叫んだ所で誰も聞かない、聞こうともしない。
「おや、どうしたんだい?」
 遅れてやって来た渚カヲル。
 彼の目に写ったのは、シンジにしがみ付き潤んだ瞳をしている碇レイの姿であった。



[BACK][TOP][NEXT]