「はは……、それで遊びに寄ったのかい?」
カヲルの言葉にコクンと頷く。
「ジュース、ただで飲めるから」
「ま、いいけどね」
飲ませているのはレモンスカッシュ。
レイの要求でカルピスチューハイも用意されている。
甘いので好きらしい。
カヲルの部屋は良く言えば奇麗、悪く言えば何も無かった。
広々としたフローリングの部屋に、黒のマットレスとコンポが無造作に置かれている。
マットレスはベッドの代わりだ。
「まあいいけどね?、明日は土曜日だし」
つまりはお休み。
「帰るのが嫌なのかい?」
「お兄ちゃんがいるもの……」
「そうか、明日の準備をしているかもね」
カヲルの何気ない言葉にも反応する。
レイはカルピスチューハイのお代わりを要求した。
お兄ちゃんは嫌い。
だって誰にでも優しいもの。
わたしだけのお兄ちゃん。
恐い人達でいっぱい。
嫌いな人達でいっぱい。
でも違う。
お兄ちゃんだけは違う。
だから好きなの。
「目が覚めたのかい?」
レイはむぅっと目を細めた。
ぼやけた視界に顔が映る。
いつもと同じ感じ、でも少し違う感じ。
レイは安心したまま二度寝しようとした。
いつものように、胸に身を寄せて。
「寝ぼけているのかい?、でもそろそろ起きた方が良いと思うよ?」
レイはその声が誰のものかにハッとした。
レイは昨日以上にふらふらと道を歩いていた。
汚れたのね、わたし……
その服はカヲルのものだ。
理由があって、借りるしか無かった。
もうすぐ家だ。
嫌……
シンジが恐い。
会いたく、ない……
何を言われるか分からない。
聞かれるのは、嫌……
嘘をついてしまうかもしれないから。
でも逃げられない、レイは家に辿り着いてしまった。
「ただいま……」
「レイ!、心配したんだよ?、昨日はカヲル君から電話貰ったけど」
「お兄ちゃん……」
小さな声だったのに、シンジはちゃんと出て来てくれた。
お兄ちゃん!
胸が痛くなり、目頭が熱くなり、思わずシンジに抱きつきかける。
「じゃああの、僕、洞木さんと出かけて来るからね?」
嫌、いかないで……
レイはその一言が言えずに、ほんの少し目を潤まるだけに終わってしまった。
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