Rei's - faction:018
「はは……、それで遊びに寄ったのかい?」
 カヲルの言葉にコクンと頷く。
「ジュース、ただで飲めるから」
「ま、いいけどね」
 飲ませているのはレモンスカッシュ。
 レイの要求でカルピスチューハイも用意されている。
 甘いので好きらしい。
 カヲルの部屋は良く言えば奇麗、悪く言えば何も無かった。
 広々としたフローリングの部屋に、黒のマットレスとコンポが無造作に置かれている。
 マットレスはベッドの代わりだ。
「まあいいけどね?、明日は土曜日だし」
 つまりはお休み。
「帰るのが嫌なのかい?」
「お兄ちゃんがいるもの……」
「そうか、明日の準備をしているかもね」
 カヲルの何気ない言葉にも反応する。
 レイはカルピスチューハイのお代わりを要求した。


 お兄ちゃんは嫌い。
 だって誰にでも優しいもの。
 わたしだけのお兄ちゃん。
 恐い人達でいっぱい。
 嫌いな人達でいっぱい。
 でも違う。
 お兄ちゃんだけは違う。
 だから好きなの。
「目が覚めたのかい?」
 レイはむぅっと目を細めた。
 ぼやけた視界に顔が映る。
 いつもと同じ感じ、でも少し違う感じ。
 レイは安心したまま二度寝しようとした。
 いつものように、胸に身を寄せて。
「寝ぼけているのかい?、でもそろそろ起きた方が良いと思うよ?」
 レイはその声が誰のものかにハッとした。


 レイは昨日以上にふらふらと道を歩いていた。
 汚れたのね、わたし……
 その服はカヲルのものだ。
 理由があって、借りるしか無かった。
 もうすぐ家だ。
 嫌……
 シンジが恐い。
 会いたく、ない……
 何を言われるか分からない。
 聞かれるのは、嫌……
 嘘をついてしまうかもしれないから。
 でも逃げられない、レイは家に辿り着いてしまった。
「ただいま……」
「レイ!、心配したんだよ?、昨日はカヲル君から電話貰ったけど」
「お兄ちゃん……」
 小さな声だったのに、シンジはちゃんと出て来てくれた。
 お兄ちゃん!
 胸が痛くなり、目頭が熱くなり、思わずシンジに抱きつきかける。
「じゃああの、僕、洞木さんと出かけて来るからね?」
 嫌、いかないで……
 レイはその一言が言えずに、ほんの少し目を潤まるだけに終わってしまった。



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