「ごめん!」
謝ってすむ事ではないけれど、シンジは床に頭をつけて土下座していた。
「頭を上げてくれないかい?」
「でも!」
「僕にもこうなるように煽った責任があるからね?」
保健室。
カヲルは消毒液を染み込ませた脱脂綿に顔を歪めた。
ちなみに治療はヒカリがしている。
「お兄ちゃんも……」
「え、あ、うん……」
申しわけなさそうに顔を上げ、シンジはその手をレイに渡す。
肩はカヲルにはめてもらったが、その時はシンジも絶叫を上げ、苦悶に震えていた。
手当てをする間も、レイは肩をちらちらと見ている。
「あ、大丈夫だよ、まだ痛いけど……」
その言葉にびくっと脅える、触れると酷くなりそうで恐いのだ。
しかし反対に、傷ついた拳を愛しげに手で包んでいる。
「レイ?」
「お兄ちゃん……、これ」
「あ、うん……」
照れてポリポリと頬を掻く。
「いて!」
肩が痛んだ。
「まったく!、碇君も渚君もやりすぎよ!」
ヒカリは本気で怒っていた。
「ごめんごめん、あんまりレイちゃんが泣くもんだからね?」
「そんなに泣いてたの?」
「酔ったからかもしれないね?、普段口にしないで溜めているからかも知れない、酔いつぶれるのと泣き付かれたのは同時だったよ」
「そうなんだ……、レイ」
「なに?」
「ごめんね?」
レイは困ったような顔をした。
わたしのために、ケンカをしてくれたのに……
手の傷はシンジの心の表われだ。
お兄ちゃん……
涙目になってうつむく。
うっ、え……っと嗚咽を漏らす。
「レイ……」
シンジはその頭を、傷む手で抱き寄せた。
それでいいんだよ……
微笑を浮かべる。
カヲルはこれを分からせるために芝居をした。
シンジは別に言う必要は無いだろうと、レイに「一人で来てくれと頼まれた」とは言わなかった。
たったその程度のすれ違いだった。
「多分初めての生理で情緒が不安定になっていたのさ」
「僕は……、そんな事にも気付かないで」
「普通は気がつかないでしょ!」
ヒカリは怒りながら消毒液を片付ける。
「いい!?、葛城先生がうまく護魔化してくれたから、ちゃんとお礼を言っときなさいよ!」
「わかってるよぉ」
「そうだね?、心配をかけた時は謝るべきだよ」
カヲルはいつものようにシンジに微笑んだ。
シンジは照れたようにはにかんだ。
[BACK][TOP][NEXT]