「碇君、なにしてるの?」
「あ、綾波……」
ギシッと椅子の背もたれが鳴る。
「アルバム見てたんだ」
「アルバム?」
シンジの後ろからノートパソコンの画面を覗く。
「あ、これって……」
綾波も覚えのある風景と顔に懐かしんだ。
「小学校の時の?」
「うん」
まだ綾波の部屋は用意されておらず、今だ三人同室のままである。
「綾波も一緒の学校だったって聞いたから、もしかしてと思って」
「うん……」
頬が少し火照ってしまった。
碇君……、思い出しちゃったらどうしよう?
小さな頃の事とは言え、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
シンジはカヲルからとっくに聞いていたのだが、綾波はまだ知らないと思っているままである。
「でも碇君とはクラス違ってたし、それに三年生になる前には引っ越しちゃったから……」
「うん……、卒業アルバムじゃダメみたいだから、ケンスケにデータコピーしてもらったんだけど」
「相田君に?」
「うん、あ、これかな?」
「あ!」
一枚のクラス写真、その隅っこにうつむいた女の子が写っている。
「懐かしい……」
ポツリと口から言葉が漏れる。
今のような明るい表情ではなく、どちらかと言えば影を潜めて存在を消そうとしている。
それでも特徴のある髪の色は隠せていない。
瞳の色は……、細められてよくわからないが。
「あたし、この頃の写真って全然無くて……」
「え、どうして?」
「嫌いだったから」
「……そう」
「あ、ごめんね?」
「うん……、でもそれってさ」
「え?」
「色が嫌いなの?」
綾波の頬の髪をつまむシンジ。
「それとも、いじめられたから、嫌いになったの?」
ドキッとしてそのまま固まる。
「綾波……」
「え?、あ……」
シンジは綾波の手を引くと、そのまま胸に抱き寄せた。
女の子ではなく、妹を扱うように優しく頭を撫でつける。
「僕は……、似合ってると思う、綾波に」
「……変じゃない?」
「変かもしれない」
胸がずきっと傷んだ。
「奇麗かどうかも……、正直よくわからないんだ、だけど綾波だから似合うんだと思う」
「そう……」
「綾波に一番似合うと思うよ?、だから、好きだな」
「え!?」
胸のうずきが驚きに霧散した。
「僕は嫌いじゃないよ、綾波の髪って……」
「碇君……」
「お兄ちゃん」
「「え!?」」
部屋の入り口で、レイが「むぅ!」っと頬を膨らませていた。
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