「まいったねぇ、今日は……、検査が長引いて困ったよ」
「検査?」
「病院だよ、この体で武道なんてやっているものだからね?、定期検診を受けることにしているのさ」
午後になってカヲルがようやく登校して来た。
「それで、この騒ぎはどうしたんだい?」
くぅっと男泣きに泣いている男子生徒が大多数。
それをうっとうしげに見たり、吐き捨てるように見下げる女生徒が数多く。
一部慰めている内に愛が芽生えている者達が居たりするのだがご愛敬だ。
「綾波が……」
シンジは困り顔で説明を始めた。
「ケンスケを好きになっちゃったみたいでさ?、それで……」
「そうなのかい?」
「意外、かな?」
カヲルの語尾の上ずりを感じ取る。
「……正直彼女が君を諦めるとは思えないんだけどねぇ?」
ふむ、と顎先を撫でる。
『寂しいと感じるから誰かを求める……、僕は君と似ているからね?、君が求めたのは自分と同じ人で、僕じゃあない』
それは初日の下校時に、カヲルが綾波に言い放った言葉である。
(彼女はそれをシンジ君に求めた……、手に入れられなかったというのかい?)
そうは思えないし、その見立てが間違っているとも思えない。
(シンジ君なら……)
横目に見やる。
「綾波もさ……、分かったんじゃないかな?」
「なにをだい?」
シンジは少し寂しそうに微笑んだ。
「僕達が……、やっぱり血の繋がっている兄妹なんだってことがさ」
(それもどうかと思うけどねぇ)
そんなことを気にするような子でもないだろうとカヲルは綾波をそう見ている。
(それに……)
確かにごく普通の恋愛をした方が幸せになれるだろう、何の不満も無く、不都合も無ければなのだが。
(相田君が悪いとは言わないけどね)
それで綾波レイが『満足』するだろうか?
(どんなに困難で辛くとも、満たされるものさえあれば人は幸せを見付け出す、充足することができるんだ、それはとてもとても幸せな事なんだよ)
逆に物足りなさは飽きを生む。
(本当の所は、どうなんだろうねぇ?)
カヲルは頭から疑わしげに思っていた。
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