何気ない日常が続くある日、トウジが今更な事を呟いた。
「そやけどほんま、綾波と碇ってそっくりやのぉ」
教室のざわつきの中での何気ない言葉である。
カヲルとケンスケ、それに一人座っていたシンジが、教室の隅でヒカリ達とたわいないおしゃべりに興じている二人に目を向けた。
「……そうかぁ?」
最初に首を捻ったのはケンスケだった。
何がおかしいのか綾波レイは目の端に浮かんだ涙を拭っている。
対して碇レイは、いつもと大差の無い表情をしていた。
「最初は似てると思ったけどさぁ」
「ちゃうちゃう」
中身の話しと違う、とトウジは手を振った。
「黙って立っとったらっちゅう話や」
「まあ、それなら……」
「容姿と言う点では認めざるをえないね」
篭絡したケンスケに同調して肩をすくめる。
「ま、中身は別もんやけどな」
「別物って……」
ケケケッとトウジは笑った。
「貧素なとこまでそっくりやで」
「……中身ってそっちのことなのかい?」
呆れるカヲル。
「その内女の子らしくなるんじゃないのかい?」
これにはいじけた。
「余裕の発言しやがって……」
「おっとなはちゃうのぉ」
どうもカヲルが経験済みなのが気に入らないらしい。
「やれやれだねぇ、僻みとは男らしくないんじゃないかい?」
「シ〜ンちゃん!」
「うわっ!」
さらに何かを言い募ろうとしたトウジを遮ったのは綾波であった。
「何話してたの?」
「な、なにって……」
「ん?」
背中に張り付いた感触にドギマギするシンジ。
(そんなにないってわけでも……、な、何考えてるんだよ、僕は!)
話題が話題だっただけに、ちょっと反応が過剰である。
「ちょっと離れてよ!」
「あ、シンちゃん照れてる?、かわいー!」
「や、やめてって」
「もうシンちゃんってば、ホントは嬉しいくせに!」
立ち上がって振り回しても剥がれない。
「いい加減にして」
ガスッとその背をシンジごと蹴り跳ばしたのはレイだった。
「あいたー……」
涙目で腰をさする。
「もう!、腰痛めたらどうするの!」
「子供が生めなくなって万々歳ね」
何とも言えない顔になるシンジ達。
むむむむむぅっとした雰囲気に陥るのだが、真っ先にまぁまぁと間に割り込んだのはトウジだった。
「おう、碇ぃ、ちょっとこっち来いや」
「なに?」
「委員長も、ちょっとここ立って見い」
「なによもう……」
「何の話か聞きたかったんやろうが」
まだ綾波から目を離さないレイと、怪訝そうな顔をするヒカリを、トウジは強引に並べて立たせた。
背後から腕を回して、両手に持った下敷きで二人の顔を同時に隠す。
「シンジのお好みはどっちやねん?」
ガスッと二人の肘打ちが鳩尾に入った。
「くおっ!」
さらに真っ正面から股間にやくざキックが入った、綾波だった。
「何考えてるのよ!」
「死、あるのみ……」
「骸はプールに沈めてあげるわ!」
のぉおおおおおおおと言う悲鳴が三人の足元を這ったが気のせいだろう。
例え三人が忙しなく足を蹴り出していても気のせいだ。
それぐらい今の彼女達には関わってはならない、そっとシンジ、ケンスケ、カヲルの三人は、反対方向を向いて「今日どうするぅ?」等と白々しい会話を始めるのだった。
[BACK]
[TOP]
[NEXT]