Rei's - faction:049
「大体、なんで僕が部屋移んなきゃなんないんだよ」
 そうぶちぶちと口にするシンジである。
「仕方ないでしょう?、どっちがシンジの隣になるかでもめるんだから」
 そう結論付ける母。
 碇家の二階には四つの部屋がある、ベッドのある部屋、その隣の部屋、それに向かい合う部屋、その隣の物置である。
 流石に三人一緒となると狭過ぎる、そこで部屋分けする事になったのだが……
「それで、レイと綾波は?」
「どっちが残って、どっちが隣に移るかでもめてるわ」
 はぁっと溜め息。
(結局もめるんじゃないか)
 影を背負う碇シンジ。
 溜め息が中学生一似合うと言う自覚が出て来た、今日この頃であった。


「大体レイちゃんはずるいの!、シンジ君のお古ほとんど持ってっちゃうし!」
 怒鳴り付けられてレイは、プッと頬を膨らませてそっぽを向いた。
「だって、みんなわたしのだもの」
「だったら部屋くらい良いじゃない!」
「だめ」
「どうして!」
 レイは答えない、ただ泣きそうな顔でだんまりを決め込む、そればかりだ。
「もう!」
「まあ、そう責めないで」
「お母さん」
 ユイはレイの頭を抱きしめ、綾波レイに頭を下げた。
「許してあげてね?、ここ、シンジの部屋でもあるけどレイの部屋でもあったの、だから」
「あ……」
 気が付いたのか、ちょっとだけバツが悪そうにする。
「分かりました」
 既成事実とばかりに持ち込んだ段ボール箱の私物を両手で持ち上げる。
「もう……、想い出があるならあるって、そう言えばいいのに」
「でも……」
「レイちゃんの想い出取り上げるような事なんてしないって!」
 まったく、と部屋を出て行く。
「良いお姉ちゃんね」
 そんなユイの呟きに、彼女は口を尖らせ、照れたようだった。


「で、引っ越しは終わったと、そう言う事だね」
「うん、……疲れたけどね」
 そう言って肩を揉む。
「二人とも部屋ぐらいでもめなくても良いのに」
「でもそれだけシンジ君のことが好きだってことだろう?」
「らしい、けどね」
 溜め息を吐くシンジだ。
「仲良くなったら仲良くなったで、今度はさ」
「取り合いはしなくなったのかい?」
「お互いの邪魔をしなくなったって言う方が正しいかな?」
「しょうがないじゃない、だってレイちゃん、すぐに泣くんだもん」
「泣かないわ」
「我慢してても分かるの!、そういうとこ、ほんと似てるし」
「似てるって誰にや」
「あたし」
「あん?」
「大事にしてる想い出とかって、言いたくないでしょ?」
 首を傾げたのはケンスケだった。
「女の子ってそう言うものなのか?」
「そう言うものなんじゃないの?」
「二人とも、女の子のことをもう少しは勉強した方がいいんじゃないのかい?」
「ふん!、どうせ俺はモテないから良いんだよ、な、シンジ」
「なんで僕に言うんだよ」
「この中で付き合った経験が無いのって、俺達だけじゃないか」
「ああ……、そうかもね」
「なんでや、わしかて」
「お前は仲間外れ」
「そうそう」
「そうだねぇ」
「うん」
「そうね」
「なんやねん!、お前らその目はぁ!」
 焦りまくる鈴原トウジ、その目の意味が分かったのは、気付かれない程度に寄り添い立とうとした洞木ヒカリ、彼女だけであったようだった。



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