「まぁったくもぉ、鈴原君もいい加減にすればいいのに」
そう言ってスポンジにソープを付けて、くしゅくしゅと握って泡を立てる。
「でもシンちゃんも似たようなもんだもんねぇ」
お風呂だ、裸だ、だがレイが洗おうとしているのは、椅子に座らせたもう一人のレイの背中であった。
「はい、我慢して」
「う〜〜〜……」
首から耳の裏、それに顎の下と洗ってから、肩、背中へと下りていく。
「はいはい、お兄ちゃんの方が好かったのは分かるけど怒らないの!」
レイは泡を口に含まないようにして答えた。
「……違うわ」
「なにが?」
「どうして……」
レイはスポンジを受け取りながら訊ねた。
「どうして、お兄ちゃんと一緒は嫌なの?」
「一緒って?」
「お風呂……」
「そりゃ」
「わたしは、見られても良い」
「レイちゃん……」
「でもお姉ちゃんは見られたくないみたい、どうして?」
肩越しに振り返ったまっすぐな眼差しに彼女は苦笑した。
「全然見て欲しくないってわけじゃないけど、恐いもん」
「恐い?、お兄ちゃんが?」
「うん」
「お兄ちゃんは、酷いことはしないわ」
ぷるぷると首を振る。
「そうじゃないの、ほら……」
背に胸を押し付けるようにしてくっつくと、彼女はレイの腕を取って揃えて伸ばした。
「ね?、レイちゃんの腕って、奇麗でしょう?」
「……お姉ちゃんの方が、白くて、細いわ」
レイは彼女の顔に浮かんだものに動揺し、困惑した。
「どうして……」
「ん?」
「どうして、泣いてるの?」
「泣いてないけど?」
「泣いてる……、分かるもの」
「レイちゃん?」
「わたしも、そんな風に我慢してたから」
思わずきゅっと抱き締める白いレイ。
「お姉ちゃん?」
「良く見て……、この肌」
「ん……」
「白くて……、ほら、温まって、血管が浮いてる」
レイは喘ぎながらも、きつく巻き付く腕を見下ろした。
自分の胸がある、それを潰すようにしている腕、アレルギー反応でも出ているかの様に、青い筋が沢山透けて見えていた。
「ほらね?、普段は大丈夫、でもね?、お風呂上がりとか、あんまり激しく運動したりすると、こうなっちゃうの」
「だから、見られたくないの?」
「うん……」
「お姉ちゃん」
身じろぎして抜け出そうとする。
こういう時、どうすればいいのか知っていた。
兄がいつもしてくれるから、でも。
「あ、ごめんね?」
パッと離れる。
「体冷めちゃうね?、泡、流しちゃおっか」
護魔化すようにいそいそと動く。
レイは……、シンジがしてくれるように姉の頭を撫でようとして……
結局それが出来ないままに、憂いた顔をしてしまっていた。
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