Rei's - faction:050
「まぁったくもぉ、鈴原君もいい加減にすればいいのに」
 そう言ってスポンジにソープを付けて、くしゅくしゅと握って泡を立てる。
「でもシンちゃんも似たようなもんだもんねぇ」
 お風呂だ、裸だ、だがレイが洗おうとしているのは、椅子に座らせたもう一人のレイの背中であった。
「はい、我慢して」
「う〜〜〜……」
 首から耳の裏、それに顎の下と洗ってから、肩、背中へと下りていく。
「はいはい、お兄ちゃんの方が好かったのは分かるけど怒らないの!」
 レイは泡を口に含まないようにして答えた。
「……違うわ」
「なにが?」
「どうして……」
 レイはスポンジを受け取りながら訊ねた。
「どうして、お兄ちゃんと一緒は嫌なの?」
「一緒って?」
「お風呂……」
「そりゃ」
「わたしは、見られても良い」
「レイちゃん……」
「でもお姉ちゃんは見られたくないみたい、どうして?」
 肩越しに振り返ったまっすぐな眼差しに彼女は苦笑した。
「全然見て欲しくないってわけじゃないけど、恐いもん」
「恐い?、お兄ちゃんが?」
「うん」
「お兄ちゃんは、酷いことはしないわ」
 ぷるぷると首を振る。
「そうじゃないの、ほら……」
 背に胸を押し付けるようにしてくっつくと、彼女はレイの腕を取って揃えて伸ばした。
「ね?、レイちゃんの腕って、奇麗でしょう?」
「……お姉ちゃんの方が、白くて、細いわ」
 レイは彼女の顔に浮かんだものに動揺し、困惑した。
「どうして……」
「ん?」
「どうして、泣いてるの?」
「泣いてないけど?」
「泣いてる……、分かるもの」
「レイちゃん?」
「わたしも、そんな風に我慢してたから」
 思わずきゅっと抱き締める白いレイ。
「お姉ちゃん?」
「良く見て……、この肌」
「ん……」
「白くて……、ほら、温まって、血管が浮いてる」
 レイは喘ぎながらも、きつく巻き付く腕を見下ろした。
 自分の胸がある、それを潰すようにしている腕、アレルギー反応でも出ているかの様に、青い筋が沢山透けて見えていた。
「ほらね?、普段は大丈夫、でもね?、お風呂上がりとか、あんまり激しく運動したりすると、こうなっちゃうの」
「だから、見られたくないの?」
「うん……」
「お姉ちゃん」
 身じろぎして抜け出そうとする。
 こういう時、どうすればいいのか知っていた。
 兄がいつもしてくれるから、でも。
「あ、ごめんね?」
 パッと離れる。
「体冷めちゃうね?、泡、流しちゃおっか」
 護魔化すようにいそいそと動く。
 レイは……、シンジがしてくれるように姉の頭を撫でようとして……
 結局それが出来ないままに、憂いた顔をしてしまっていた。



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