「それで眠れないの?」
ユイの言葉にレイはコクリと頷いた。
夜中の台所は寒かった、静まり返っているだけが理由ではなく、冷えるのだ。
ユイに温めてもらったミルクが舌先に熱い、コップを両手で持ってちびちびと舐める。
ユイとレイは似たようなパジャマを着ていた、どちらも袖と裾をまくったようなデザインで、実際長く、先が少し出るだけだ。
肩に色違いのカーディガンを掛けているからか、二人の雰囲気はとても良く似て見える、ユイはこそばゆい笑みを浮かべると、レイと同じポーズでコップに口付けた。
鏡に映した様に同じに見えた、歳は離れていても、やはり親子だと感じさせられる。
「なに?」
レイは居心地の悪さを感じたのか、訊ねた。
「ううん、ただね、喧嘩ばかりしてたから心配してたの、それだけ」
ユイの言葉にキョトンとする。
「嫌いじゃないもの」
レイはそう言う。
「あら?、じゃあお兄ちゃんを取られちゃってもいいの?」
「あの人は、取ったりしないから」
「渚君と同じ?」
またコクリと頷く。
「そう……、可哀想ね」
「可哀想?」
今度はユイが頷く番だった。
「ええ、……痛みを知ってるから、悲しいとか、寂しいって事を知っているから、人から奪う事が出来ないのね」
「取られるのは、嫌……」
「そうね、シンジは一人だけだものね?」
「……」
「ね?、レイちゃんはシンジ君もレイも好きだから、レイから取り上げたりしないように注意してるの」
「わたしも?」
「そうよ?、レイちゃんが泣いたりしないように……、レイが泣いてるところなんて見たくないのね、心が痛くなるから」
「寂しいのに?」
「レイと同じね」
「うん……」
「寂しいから、お兄ちゃんに居て欲しいけど、レイが居てくれるなら、自分一人のお兄ちゃんでなくても良いって思ってる」
「お部屋……、譲ってくれたのも?」
「だってレイだけのお兄ちゃんだったのに、半分取っちゃってるんだもの、これ以上我が侭は言えないじゃない」
「そんなの、嫌」
「レイ?」
「……」
黙り込んで目をさ迷わせる、そんな姿に母親の目で微笑んだ。
「嫌なのね?、……お姉ちゃんが遠慮してるのが」
頷く。
「そうね、お姉ちゃんはレイとシンジの間に割り込んだりしないわね、横には並んでも……、それはシンジとくっつかないって事、でもそれじゃあレイちゃんがここに来た意味が無いのにね」
「意味?」
「一人は嫌だから……、ここに来たんでしょう?」
「……」
「一人は嫌だから、家族だって思ってもらいたいのよ、混ぜて欲しいのね、でもレイが認めてくれないなら、本当のお姉ちゃんになんてなれないじゃない」
「どうすれば、いいの?」
くすりと笑う。
「もっとお兄ちゃんに甘えなさい」
「いいの?」
「そうすればレイちゃんも、レイと同じくらいシンジに甘えられるから、遠慮して、レイ以上には甘えられなくても、必要十分なくらい、甘えることが出来るじゃない、そうでしょう?」
「うん……」
「大丈夫よ、レイちゃんはレイの事が好きなんだから、だからレイも好きになってあげてね?」
「どうやって?」
「甘えさせてもらいなさい?、シンジに甘えるみたいに、レイちゃんにもね?」
「それでいいの?」
「ええ、レイちゃんが、レイの事を本当の妹だって思える日がいつか来るから、ね?」
レイはコップを置いて立ち上がった。
「分かった」
そう言ったレイの顔に、三児の母は実に満足げな顔をして頷いていた。
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