「使徒って……、こうしてみると大きいですよね?」
「そんでぇ、何か分かったのぉ?」
はっきり言って僕達は浮いてる、物見遊山って言葉がピッタリと当てはまるぐらいに。
意外と僕達って、呑気な所で合ってるのかもしれない。
二体目の使徒のサンプル。
比較対象があるのは、とてもありがたい事なんだそうだ。
第伍話「レイ、心の向こう」
「なにこれ?」
601の数字。
「解析不能を示すコードナンバー」
「ふうん……」
「でも色々と分かったのよ?、これを見て」
「これって!」
「……そう、構成素材の違いはあっても、その信号と座標の配置は人間の遺伝子と酷似してるの」
「99.89%……」
あっと……
ついぽろっと漏らしちゃった。
「……シンジ君、他に何を知っているの?」
「えっと……、確か光と波、両方の性質を持ってるなんとかでできてるとか……」
「粒子と波、両方の性質を持った光のようなもの、よ?、でもどうしてその事を知っているのかしら?」
「え?、どうしてって……」
「シンジ君」
まずいなぁ、二人とも今までのも晴らそうとしてる。
「あなた、なにを隠しているの?」
「なにって……、そんなに大したこと隠してませんよ」
「じゃあ何か隠してるのね?」
「そりゃ、まあ……」
ぽりぽりと頭を掻いていると、後ろを父さんが歩いていった。
コアを見てる?、あんなのどうするつもりなんだろ……
「シンちゃあん?」
あ、恐いよミサトさん……
「ぼ、僕はほとんど知りませんよ、なんにも……」
「なんにもって、なによ?」
僕はちらっと、ミサトさんを無視してリツコさんに目を向けた。
何か無いかな?、ミサトさんにバレても大丈夫で、リツコさんを驚かせるものって……、あ。
「いいわよ?、わたしも聞きたいもの」
余裕を見せてマグカップを持ったけど……
「ロンギヌスの、槍とか……」
やっぱり、口に持っていったまま固まっちゃったよ、リツコさん……
暇だ……
最初は遊び惚けてたんだけど、学校行かないとこんなに暇になるもんなんだな……
はやくチェック終わんないかな……
エントリープラグの中、そんな事を考えながら零号機でなにかやってる綾波を見る。
……あんなことやって、なにか分かるんだろうか?
自慢じゃないけど、機械のことなんて何も分からない。
そう言えば学校行かないって事は、綾波の水着姿が見れないって事なのか……
たった半年分余分に生きてるだけ……、現実かどうかわからないけど、あれを本当にあったことだとしたら……
その半年分の記憶が、僕を随分と大人にさせてる。
ついでにというか、なんというか……
そっちのことも気になってたりして。
「父さんと綾波、か……」
なんでかな?、笑ってる二人を見ても何とも思わないや……
ううん、どっちかって言うか、感動してる。
依存とか心の支え合いって、あんな風な関係なんだろうな。
父さんも、母さんのことなんて忘れて、綾波にすがればいいのに。
そんなことを考えてる自分が、やけに薄情な気がして僕は何度かかぶりを振った。
「え?、綾波に、ですか?」
「ええ……、学校に行ってないのなら暇があるでしょう?、あの子明日は学校休んで、昼過ぎからテストだから」
「はあ……、まあいいですけど」
このカードが無いとネルフ本部には入れない。
持っていかないと、再起動実験どうするんだろう?、電話でもするのかな?、携帯あるんだし。
「なあに?、じっとレイの写真なんか見ちゃって、あ、もしかしてシンちゃん!」
「シンジ君もマメね?」
「そんな、違いますよ……」
リツコさんまでからかうんだから……
「なぁにが違うってのよん?」
「僕は、ただ」
「たぁだ?」
「……父さんって、綾波に捨てられたら、どうするのかなって」
「あん?」
ミサトさんには分からなかったみたいだけど……
リツコさんはビールを空ける振りをしながら、はっきりと分かるほど反応してくれた。
「で、ここに来てるってわけだ……」
あいかわらずのドアを見る、……と言っても、頭の中にある風景だけど。
「綾波、入るよ!」
ずかずかと上がり、やっぱりといった感じでシャワーの音を確認する。
「綾波」
「誰?」
シャワーが止まった。
「碇だけど、リツコさんから届け物」
「そう……」
ガチャ……、って、え?
「なに?」
「あ、うん……、これ」
カードを渡す。
「これからネルフだよね?、一緒に行ってもいいかな?」
ちょっとした間があった。
「好きにすれば」
そっけないまま、タオルを手に僕の横をすり抜けようとする。
コツッ!
「あっと……」
つんのめった綾波につい手が出る。
片手で張り出しをつかんで、反対の手は綾波の体に……、って言うか胸に。
むにゅっとした感覚、前は置いちゃっただけだけど……
今度ははっきりとつかんじゃったよ。
「……離してくれる」
「あ、ごめん……」
変だな?、どうしたんだろ……
でも、それでも何も感じないんだ。
綾波は裸で、その、胸とか、えっと、下とか、はっきり見ちゃったし、また触っちゃたのに……
変だな?
手を何度も握り締める、綾波のシャワーと僕の汗でぬめってる。
なにも、感じない?
ここに来るまで、またなのかな?、とちょっと期待して何度も想い返してたんだけど……
その時には結構興奮もしてたのに、でも実物には何も感じないなんて。
「行きましょ」
「あ、うん……」
わずかに髪から消毒液の匂いが……、え?、消毒?
「綾波……」
「なに?」
振り向いてもくれないから、横に並ぶ。
「さっき、シャワー浴びてたよね?」
「ええ……」
やっぱり変だ。
「シャンプー使ってる?」
「……消毒剤で、洗浄してるわ」
綾波の髪って……、脱色してるだけなんじゃないのか?
僕はちょっと恐い想像に取り付かれてしまった。
一緒にエスカレーターに乗る。
……なにかここでイベントがあったような気がする、って、最近なんだかゲームっぽくなってきたな、思考パターンが。
「これから再起動実験だよね?」
……うう、この沈黙が。
「上手くいくといいね?」
だめか……、やっぱりあの話題しか無いのか。
「綾波は、恐くないの?、またあの零号機に乗るのが」
「……どうして?」
「前にそれで大怪我したんでしょ?」
「あなた、碇司令の息子でしょ?」
「そうだけど……」
「信じられないの?、お父さんの仕事が」
「でも実際に失敗したんでしょ?」
パン!
ああこれこれ……、って、これじゃ変態だよなぁとか想いつつ……
「そんなに信じてるんなら……、父さんに聞いてみてよ」
怒らせちゃったかな?
「息子のこと信じないのかって」
どう答えるのかに、ちょっと期待。
後はまあほぼ滞り無く。
「父さん、やっぱり来ましたね?」
「何が言いたいのかしら?」
「……気にならないなら、いいですけどね」
零号機再起動実験。
副司令に仕事を押し付けてまで覗きに来るんだから、気になってしょうがないんだろうな。
僕は父さんに嫉妬してるのか?、リツコさんを煽ったりして、……そんなことないか。
単なる暇潰しなのかもしれない、僕のやってることって。
でもはっきりしない感情もあるんだ、それを否定するつもりは無い、ただもっと……、なんて言うのかな?、ただ綾波も人間だし女の子だしって、そういう目で見てるつもりだった。
でもおかしい……
僕はその女の子に、なにも……、なにも感じなかった。
これって、綾波が父さんの側の人間だから?
僕は、拒絶してるのか……
「実験は中止だ、使徒が現れた」
「ミサトさん、頼みます」
「わかってる、同じミスはくり返さないわ」
余計な一言だったかな?
でもミスられるよりはいい。
なにしろかかってるのは、僕自身の命なんだから。
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