Both of You,Dance Like You Want to Win.
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「あ〜あ……、猫も、杓子も……、アスカ、アスカか……」
「みな平和なもんや」
「まいどありぃ!」
「写真にあの性格はあらへんからなぁ……、ってなんや?」
「あ、うん……」
写真って結構売れるんだな……
校舎裏の早朝店舗、それより後は良く人が通るからダメなんだってさ。
「トウジ、珍しく制服だなと思って」
「これしかあらへんからなぁ、クリーニング出したらそれっきりやろ?」
「洗濯しないの?」
「ああダメダメ!、そういうのは男らしくないんだよ、なぁ、トウジぃ」
「そや!、そんなん男のする事やあらへん!」
「ふぅん……、あれ?、なんだろ」
「どないしたんや?」
「あ、うん……、なんか騒がしいなぁって」
心当たりはありつつも、僕も行ってみることにした。
第九話「瞬間、心、重ねて」
「エヴァ弐号機のパイロット、仲良くしましょ?」
「どうして?」
「その方が都合がいいからよ、色々とね?」
「命令があればそうするわ」
「変わった子ね?」
「お前もやろが」
ああもうトウジ……、余計な事を。
「なんですってぇ!?」
「や、やぁ……」
あれ?、なんかアスカ一瞬詰まったような?
「ぐ、グゥテンモルゲン!、あんたねぇ、友達の教育ぐらいちゃんとやんなさいよ!」
「まあ、機会があったら……」
「おはよう、碇君……」
「え?、あ、うん、おはよう……」
あれ?、綾波ムッとしてるの?
「行きましょう」
「ちょ、ちょっとこらぁ!」
まるで無視するように綾波は動いた。
「もう、時間だから」
「あ、ちょっと待ってよ」
その時、ちょうど予鈴が鳴った。
むぅっと背後で膨れ上がる怒気が恐かったけど……
「なによぉ!、バカシンジのくせにぃ!」
それは関係無いと思うよ。
なんかトホホって感じがした。
『先の戦闘によって第三新東京市の迎撃システムは大きなダメージを受け、現在までの復旧率は二十六パーセント、実戦における稼働率はゼロと言っていいわ』
F装備で空輸、上陸直前の使徒を殲滅……、ってやっぱりどこかアバウトなんだよな。
剣よりも銃が主体の戦闘方針とか、やっぱりどこか軍人っぽい思考をしてると思うんだ。
盾と剣、ううん盾と銃でも良い、ATフィールドはお互い無視できる、ならその代わりの装甲が欲しい。
今度リツコさんに相談してみるか。
『初号機ならびに弐号機は、目標に対し波状攻撃、近接戦闘で行くわよ?』
了解……、でも無駄なんだよな。
『あ〜あ、日本でのデビュー戦だってのに、どうしてわたし一人に任せてくれないの?』
実戦評価って奴じゃないの?
……そっか、兵器関連のディスクとか、今度リツコさんに借りようかな……、ケンスケでもいいや、その手の戦争もの持ってそうだし。
エヴァ投下、着地っと。
『二人がかりなんてやだな、趣味じゃない』
『わたし達は選ぶ余裕なんて無いのよ、生き残るための手段をね』
『サードもなに黙ってるのよ!』
「え?、いや別に……」
『別にじゃないわよ!、まったく、なんであんたみたいなのが選ばれたのよ……』
基本的に僕は無口だ。
前みたいに、何を話せばいいんだろうって考えてる間に、もう次の話題に行っちゃってて口が挟めないとか、そんなことは今はない、でも喋らない。
余計な事は言って怒らせない、関心を引かない。
その一番の方法は黙ってる事だって分かったからそうしてるんだ。
「来たよ」
沖の方で水柱が上がった。
『攻撃開始!』
『じゃ、あたしから行くわ、援護してね!』
「じゃあ射線を塞がないでよ!」
言えば動いてくれる、ミサトさんみたいに反論してこないだけありがたい。
でないと余計な時間を食っちゃうから。
パレットガンの弾はやっぱりATフィールドに弾かれて使徒本体には届かない。
弐号機が跳んだ。
『てえええええい!』
使徒真っ二つ。
「アスカ下がって!」
『なぁによぉ、戦いは常に無駄無く美しく、なにか文句があるってぇの?』
「まだ終わってないから言ってるんだよ!」
『はん!、なにを言って……、きゃああああああ!』
バカ!
「アスカ!」
『なぁんてインチキ!』
フィルムが終わった。
『本日午前十時五十八分二十秒、二体に分離した目標『乙』の攻撃を受け、弐号機は活動停止、初号機により回収、この状況に対するE計画責任者のコメント』
『無様ね』
「もう!、あんたが余計な声かけるから、せっかくのデビュー戦がメチャメチャになっちゃたじゃない!」
「なに言ってんだよ!、惣流が間抜けな事しただけじゃないか!」
「間抜けぇ!?、どうしてグズのあんたがそんなこと言えるのよ!、図々しいわねぇ」
「何だよあれぇ、山ん中で逆さになっちゃってさ、ダサぁ」
「くっ、ば、ばかシンジのくせにぃ!」
『国連第二方面軍に指揮権を譲渡』
「まったく恥をかかせおって」
あ、副司令マジで怒ってる……
『同零五分、N2爆雷により目標を攻撃』
「また地図を書き直さねばならんな」
『構成物質の二十八パーセントを焼却に成功』
「やったの?」
「足止めにすぎん、再度進行は時間の問題だ」
「ま、立て直しの時間が稼げただけでも儲けものっすよ」
加持さんってなんでここにいるんだろう?
「いいか君達、君達の仕事は何だか分かるか」
「エヴァの操縦」
「使徒を倒すこと」
「使徒に勝つことだ、こんな醜態を晒すために、我々ネルフは存在しているわけではない、そのためにはセカンドチルドレンにもっと自覚を持って」
「なんであたしだけ!」
「もういい……」
あ、呆れて出ていっちゃったよ、副司令。
「もう!、なんであたしだけ怒られるのぉ!?」
「ま、確かに倒した所で気を抜いたのはまずかったな」
「そんなのこいつが臆病なだけじゃない!」
「……死にたくないから臆病なんだよ」
見下げ果てるように見られた。
「一度負けたらそこで終わるかもしれないんだ、僕はまだ、死にたくないからね」
何度も右手を握り込む。
その手は酷く汗ばんでいた。
さってと。
暑い中を歩いて帰る。
予定だと家にはアスカがいるはずだから……
ミサトさんと暮らすのもここまでか、と思うとちょっと変な気分になるな。
やっぱり僕、楽しくなって来てたのかもしれない。
ここで終わるのが残念だった。
「ただいまぁって言うと、だ」
これか。
「ちょっと、人の荷物になにしてんのよ」
「え?」
「あんた、まだここに居たの?」
苦笑い。
「あんた、今日からお払い箱よ」
「そ……」
「ミサトはあたしと暮らすの、まぁどっちが優秀かを考えれば当然の選択よねぇ?」
「はいはい」
僕はその足で玄関に足を向けた。
「ホントは加持さんと一緒の方がいいんだけど……」
まだなんかトリップしてるよ。
その間にさっさと逃げる。
ユニゾン特訓、それはそれとしてやるけどね?、今ここで出ていっとかないと、たぶん済し崩し的に同居が確定しちゃうと思う。
それはまずい、一緒に暮らすのはマズイ、僕達には距離が必要だ、絶対に。
僕が居なければ洞木さんの家に逃げ込む必要は無い、僕の入ったお風呂や、僕の作ったご飯に文句を言う必要も無いはずだ。
その分、確実にゆとりが生まれる、ここにはいない方が、アスカにとってのメリットは大きい。
僕には……、よくわからないけど。
でも一人暮らしにも憧れぐらいあるからね?
とりあえずは……、ネルフに行ってみることにした。
できれば父さんを見付けて話を付けたいんだけど、無茶はできない。
だって下手に勘繰られると殺されかねないもの。
一瞬、トウジを殺そうとしたあの時の光景が蘇った。
初号機は勝手に動いていた。
あれは僕なしでもエヴァを動かすためのものじゃないのか?
あれはどうしようもない、だから問題はもう一つの方だ。
綾波、レイ。
綾波は初号機とシンクロできる、あの機械が完成するまでの繋ぎぐらいは出来るはずなんだ。
こっちだけでもどうにかするべきなのか……
誰か来る。
自販機の椅子で寝っ転がっていた僕は、首だけを上げて確認した。
父さん、と、綾波か……
なんだかイメージ通りの二人に落胆してしまった。
「……何をしている」
僕はちらっと視線を合わせてから、綾波の方に目線を変えた。
「用が無いのなら帰れ、ここはうろつくためにある場所ではない」
なに不機嫌になってるんだろ?
「アスカが住むからって追い出されたんだ……、だから、ここで寝てる」
「……葛城一尉はどうした」
「警戒待機は解かれてないんでしょ?、まだ本部の何処かに居るんじゃないの?」
「そうか……」
面倒だな、父さんとの会話って。
前はもっと話したかったような気がする、でも今はしない。
どうしてだろ?、よくわからないけど……
僕が無視するように横向きになると、父さんも歩き始めた、けど?
「どうした、レイ……」
綾波?
「風邪を引くわ……」
まあ……、確かにここは寒い。
地下って言う事もあるんだけど、施設が機械の塊だから、あまり暖房はかけられないんだよね。
「大丈夫だよ、なんなら更衣室だってあるし」
あそこは結構温かい。
「食事……」
「食堂で食べるよ、お風呂だってタダだし」
この中じゃIDカードで全部の施設が利用できる。
そのIDナンバーからお金は口座引落されるし、外でこういう真似をするよりもよっぽど手間がかからなくていい、それに安全だし。
「そ……、じゃあ」
やっと行ってくれたか。
さっきから携帯がぶるってたんだよね?、たぶんミサトさんからの呼び出しなんだろうけどさ……
「ごみん!、説明しなかったのは悪かったわ?、でもだからって、そんなにあっさり出て行くことは無いんじゃない?」
怒ってるんだかなんなんだか……
「ここは、あなたの家だって言ったでしょ?」
「でも惣流さんも住むんでしょ?、なら僕は出て行きます」
「どうしてぇ?」
「はん!、勝手にさせればいいじゃない」
「なに怒ってんだよ……」
プイって……、そっぽ向かれちゃったよ、助けてよミサトさん……、ってこっちもダメか。
「ま、その問題は後で解決しましょ?、どうせ暫くは一緒に暮らしてもらわなきゃならないから」
「……なにかあるんですか?」
「ユニゾンの特訓!、はっ、なぁんであたしがあんたなんかと……」
ま、細かい所は前と同じだからいいとして……、って、アスカ、反対しなかったのかな?
まあどのみち服だけは持ち出しに戻って来なきゃいけなかったんだし良いけどさ。
「シンジ、誰か来たわよ?」
「はぁい!」
って、あっ、忘れてた……
「う、裏切りもぉん……」
「い、今時ペア〜ルック!」
「「いやぁんな感じぃ!」」
「こ、これは、日本人は形から入るもんだって、無理矢理ミサトがぁ……」
「ふ、不潔よ、二人とも!」
「ご、誤解よ!、ってシンジもなんか言いなさいよ!」
「いや、当たってる……」
「はぁ?」
「背中に……」
乗ってるんだよね、柔らかいのが。
「背中?、背中……、!?」
ぱぁんっと一発。
「誤解とちゃうやんけ……」
「違うの、違うのよぉ!」
お願い、首締めて振り回さないで、苦しいってば……
「なんやそやったんですかぁ……」
「それで、ユニゾンは上手くいってるんですか?」
「それが見ての通りなのよ」
ビーッとね。
「当たり前じゃない!、こんなゲームに付き合ってらんないわよ!」
まあだいたいのタイミングは揃ってる、って言うか僕は知ってる。
でもそれは知ってるだけで、神経は鈍いままだから……
慣れの問題なんだと思う、頭では分かってても、体が着いて来てくれないんだ。
もっと運動しておけば良かったな……
「じゃあ、やめとく?」
「他に人、いないんでしょ?」
それと後一つ、僕が知ってるタイミングはアスカも合わせてくれたタイミングで、今の状態がそれ以前のものだって言うのも関係している。
「レイ……」
「はい」
「やってみて」
「はい」
綾波か……
なんでだろう?、綾波とだと上手くいく。
合わせてくれるから?、そうじゃない、それも違う。
アスカみたいに、自分の流れを作らないから?
だから合わせやすいのか、急ぎも、慌てもしないから。
あ、ちらっとこっち見た、え?、あ、あれ?
なんだか急にぎこちなくなった。
ビー!
「ほぉら見なさいよ!、ファーストだってそんなもんじゃない」
え?、でも急に乱れたみたいな……
「レイ〜?、いっくらシンちゃんに見られてるからって、恥ずかしがることは無いんじゃない?」
「「「えー!?」」」
ええ!?
あ、綾波、赤くなってる……
「「ま、またしてもいやぁんな感じぃ」」
「もう!、やってらんないわ!」
え?、え?、え?
「い〜か〜り〜くぅん!」
「え?」
あ、怒ってる……
「追いかけて!」
「え……」
「女の子泣かせたのよ!、責任取りなさいよ!」
せ、責任と言われてもなぁ……、とか思いつつ、やっぱり足は動いてた、けど。
これじゃあまるで僕が嫉妬されてるみたいじゃないか。
……嫉妬?
嫉妬ねぇ……
まさかね。
まあ居る場所は分かってるから良いんだけどさ……
「黙ってて」
まだ何も言ってないって。
「わかってるわ、わたしはエヴァに乗るしかないのよ」
だからまだ何も考えてないって。
「こうなったら、なんとしてもレイやミサトを見返してやるわ!」
「見返すだなんて……、そんな」
「なぁに言ってるのよ!、あんたやっぱあいつらの味方ってわけ!?」
「ごめん、プライドなんて無いからさ……」
「男のくせに!、なに甘いこと言ってんのよ、傷つけられたプライドは、十倍にして返してやるのよ!」
ま、いいけどさ……
まだ死にたくないから、やるだけだよ。
光陰矢のごとし、だっけ?
あっという間に時間は流れた。
アスカが合わせてくれるならそう難しくはない。
途中からはほんと、遊び気分で楽しんでたしね?
「ミサトはぁ?」
「仕事ぉ、今夜は徹夜だって、さっき電話が……」
「じゃあ、今夜は二人っきりってわけね?」
「え?」
ああ、そう言う事ね。
布団持ってっちゃったよ。
「これは決して崩れる事の無いジェリコの壁!、これをちょっとでも越えたら死刑よ?、子供は早く寝なさい!」
「自分だって子供の癖に……」
「何か言った!?」
「早く寝ればぁ?」
「バッカじゃないの!?、あんたが寝るまで、安心して眠れるわけないでしょうが!」
「はいはい……」
ま、明日には出ていってあげるから。
僕はさっさと眠ることにした。
『音楽スタートと同時にATフィールドを展開、後は作戦通りに……、二人とも、いいわね?』
『了解』
了解っと。
『いいわね?、最初からフル稼働、最大戦速でいくわよ?』
「わかってる、六十二秒でケリをつけるよ」
『発進!』
射出口ってブレーキかけないとホントに空まで飛ばせるんだよね。
カタパルトそのものじゃないか……
まずは使徒を分離、パレットガンとポジトロンライフルで牽制、一旦距離を取って向こうが同じ動きをするように誘導、再合体を待って、この一撃で!
シンクロ率の違う二体が、まったく同じ高さに跳んで、まったく同じ蹴りを放つ。
ユニゾンの真価はここにある、意識的に互いをフォローできる範囲に自分を殺すんだ。
って、ああ、ちょっと!
なんで絡んでくるんだよぉ!?
爆発。
『エヴァ両機、確認』
「まったく!」
外に出る、通信電話がかかって来た、この!
『ちょっとぉ!、あたしの弐号機になんてことすんのよぉ!』
「そっちがつっかかって来たんじゃないかぁ!」
『最後にタイミング外したの、そっちでしょ!、普段からボケボケッとしてるからよ!、昨日の夜だって人を自分の布団に運び込んで、一体何するつもりだったの!?』
「そっちが勝手に、人の布団に潜り込んで来ただけじゃないかぁ!」
夕べははっきり言って爆睡した。
おかげで起きたらあの状態だった。
「うわ!、なにやってんだよ!?」
「ん〜……」
「ん〜じゃないよぉ!、離れてよぉ!?」
抱きつく、違う、しがみついちゃって、シャツ握り締めて……、まったく。
しょうがない、張り手一発で諦めようって、僕はもう一度寝直して……
「抱きついて寝てたの、アスカだろう!?」
頭に血が上っちゃったのか?、僕達は凄い言い合いをしちゃってた。
ま、おかげで僕達の別居はわりとあっさりと承諾された。
それで良かったのかどうかは分からないんだけど、あ〜あ……
妙な誤解が広がっちゃったな。
僕は結局、またしてもアスカに嫌われた。
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