1st Impression Your EPISODE:X
 使徒は片付いた、でも僕達の問題は片付かなかった。
「あんたそんなに出て行きたいわけ?、いいわよ、勝手にすれば!」
 なにを怒ってたんだろう?
 やっぱり添い寝がいけなかったのかな?
 まあ、怒らせた後じゃもう確認のしようなんて無いんだけどさ。
 新しい僕の部屋はまだ決まってない、だからもう暫くはってことにはなってた。
 でも僕にはもうそのつもりがなくって、またネルフで寝泊まりする時間を持ってた。
 そんなある日のこと。
「使徒?」
 非常警報が鳴り響いた。



第X話「戻らない昨日」



 最初見た時、嫌な予感を覚えた、思い出すのにも時間がかかった、それは言葉の通り、僕が覚えていなかったからだと思う。
 記憶を奪う使徒、こいつは僕の恐怖をそのまま力にしてしまう使徒だった。
 だから今まで現れた、僕の知っている使徒の全ての力を身に付けることができるんだ。
 それはある意味、最悪の使徒だった。
 僕は全ての使徒のことを知っているから。
「なぁにやってんのよ!、この臆病者!」
 それがわかってたから記憶を奪われないように逃げ回って戦ってたのに!
「アスカ、ダメだ!」
「え?、きゃあああああ!」
「アスカぁ!」
 どうしてこう墓穴を掘りに出るんだよ!
 使徒は一応撃退に成功、でも殲滅はしてない。
 それよりもやっかいな事を背負い込んでしまった気がした。


「記憶喪失?」
「ええ」
「まさか、精神汚染!?」
「違うわ、可視領域の光線、あれに秘密があるのと、後は……」
「またシンジ君?」
 僕は普段は綾波が使っているって言う検査用のベッドを見ながら、二人の話しに耳を傾けていた。
「治らないでしょうね……」
「ええそうね、原因不明、いいえ、ある意味原因ははっきりとし過ぎているわ?」
 そのベッドにはアスカが寝かされている。
 機械がスキャンしてるけど、どうせ何も得られやしないよ。
 僕はぎゅっと拳を握り込んだ。
「シンジ君……、他に何を知ってるの?」
「……あの使徒はアスカが倒さなきゃ」
「無理よ、今のアスカをエヴァに乗せるなんて!」
「ならアスカはもう、エヴァには乗れません」
「なぜそう断言できるのかしら?」
 僕は真っ向から、二人の不審げな視線を受け止めた。


 あの使徒は僕達が持つ恐怖を武器にする、それが浮き彫りにされたから逃避する、アスカが自分で乗り越えられないのなら、もう記憶は取り戻せないんだ。
 でもそれを説明しようとは思わない。
 アスカが自分で決める事だ、もうエヴァには乗らない方が幸せなのかもしれないし。
 僕の記憶が正しいのなら、アスカが居なくても使徒の殲滅は出来る。
 苦しくはなるだろうけど大丈夫だ、でも自分を忘れて生きるのは嫌だと思う。
 だから僕は、アスカの世話のためにマンションに戻ることにした。
「おじゃましまぁす」
「おじゃま、します……」
 おどおどとしたアスカに振り返る。
「アスカ?」
「は、はい」
 なんか調子狂うんだよなぁ……
「ここはアスカの家なんだからさ」
「あ、あの……、ただいま」
「それで良いと思うよ?」
 ちょっと笑っちゃった、でもアスカも笑い返してくれたから別にいいよね?


「そっちがトイレ、こっちがお風呂、それにそこがアスカの部屋だよ」
「あの……」
「なに?」
 胸を張ってないアスカって可愛いかも……
「あ、いえ……、あの、詳しいなぁって、思って」
「ああ、この間まで僕も住んでたからね?」
「ええ!?」
「……なにそんなに驚いてるのさ?」
 こういうアスカもちょっと意外だ……
「だ、だって!」
「アスカが日本に来るまでの話だよ」
「え……」
「元々は僕が居候させてもらってたんだけどね?、アスカも住むならさすがに出て行かないとなぁって……」
「じゃあ、あたしのために……」
「違うよ」
「え?」
「ほら、一人暮らしってしてみたいじゃない、だからね?」
 まったく、上手くいかないよね……
「でもミサトさんは暫く帰って来れないみたいだから、僕がお世話させてもらうことになるけど、我慢してね?」
「あの!」
「なに?」
 なんだろう?、重苦しいな……
「あの……、碇君、は」
「なにさ?」
「あたしのこと……」
 なにおどおどしてるんだ?、……なんか綾波みたいだ。
「嫌いなんですか?」
「は?」
「あっ、ごめんなさい……」
 あ、あ、しおれちゃった……、って違うよ!
「ち、違うよ、そんな事ないよ!」
「え?、じゃあ……」
「好きだよ?、アスカはね」
 あ、赤くなった。
「あ、あの……」
「でも安心して……、僕は近付かないから」
「え……」
 前に踏み出しかけたのか、アスカはたたらを踏むように立ち止まった。
「どうして……」
「僕は好きだよ……、綾波、ミサトさん、リツコさん……、トウジ、ケンスケ、今は忘れてると思うけど、みんなアスカの知ってる人だよ」
「……はい」
「でも僕が好きだからってそれを伝えてどうなるのさ?」
「どうって……」
 そりゃ、こんな話し戸惑うよな……
 僕はアスカの顔を見ていられなくなって後ろを向いた。
「僕が他人だから楽しく笑っていられる、僕のことを好きだったなら問題なんて無いさ、でも嫌いだったら?」
「そんな!」
「嫌いだったら……、気持ち悪いって、警戒されるだけだ」
 それに。
「それに、アスカは特に僕のことを嫌っていたからね?」
 息を飲む気配がした。
 まだそんなには嫌われていないかもしれない、でも、僕はもう一つの記憶に縛られてもいた。


 食事はお互い黙りこくったままで、凄く味気ない感じがした。
 僕はリビングに僕のものだった布団を敷こうとして困った、僕の布団をアスカが使っていたからだ。
 まったく、布団ぐらい替えればいいのに。
 でもこれも僕が他人として遠ざかろうとしたからだと思うと嬉しくなった。
 でなきゃアスカは、僕の触れた物全てに嫌悪感を持っていたはずだから。
 だから出ていったのは間違いじゃなかったんだって、そう思えた。
「布団は諦めるか……」
 毛布だけを出してくるまる。
 本部で寝るよりは楽だけど、部屋ぐらい余ってるだろうに、どうなってるんだろ?
 ……ふいにミサトさんから聞かされた話が脳裏を過った。
『詳しいことは言えないわ……、ただ、アスカはお母さんの自殺した現場を見てしまったのよ』
 僕はアスカの過去を良く知らない、でも今のお母さんが本当のお母さんじゃないって事だけは知っている。
 ……これでますますアスカが元に戻る可能性は低くなったってわけだ、でも。
 僕は、元に戻ってくれる事を望んでる?
 段々考えがまとまらなくなって来て、僕は毛布を深く被って寝る事に集中した。


「おはようアスカ!、……どうしたの?」
「あ、あの……、おはようございます」
 その態度と、僕の背中に隠れるような仕草にみんなが驚愕。
「あ、実は、さ……」
 僕は記憶喪失になってると説明した。
「ほんまエヴァのパイロットちゅうんは無茶苦茶な目ぇばっか会うのぉ」
「ろくなことがないのは確かだよ……」
 でもやっぱり、同じ目に会うのはトウジが一番確率高いんだろうな……
 そう考えると暗くならざるをえない。
「ケンスケ、何やってるの……、って聞くまでもないか」
 はぁっとつい溜め息吐いちゃう。
「これは売れる、売れるぞぉ!」
 驚喜してレンズを向けてる先には、戸惑いながら自分のことを教えてもらってるアスカがいる。
 たまに自分の彼女だったとか嘘言って洞木さんに殴られてる奴が居るけど……、あ、あれ?
 なんか真っ赤になって、こっちに来る?
「あ、あの、碇君」
「はい?」
 なんだよ、なんなんだよ、この緊張感は?、みんな黙り込んじゃってさ……
「あの……、わたし、あなたの彼女だったって、ほんとですか!?」
「はぁ!?」
 見渡すと、洞木さんか……
 ごめんってゼスチャーでやられてもさ……
「違うわ」
「え?、あ、綾波……」
 いつの間に……、って言うかなんだか怒ってるよ。
「あなたは、碇君を苛めていたもの……」
「え……」
「おほっ、女の戦いかぁ!?」
 そんな無責任な。
「あ、あの……」
 あ、泣きそうになった。
「その表情もいいー!、これは売れるぞぉ!?」
「相田くん!」
 バカケンスケ、あ、アスカほんとに泣き出しちゃったよ。
「アスカ、これ」
 しょうがないからハンカチを差し出す。
「ありがと……」
 目をはらして、身を小さくして……
 そんなアスカに僕が微笑んだ途端、綾波は背を向けて席に戻ってしまった、けど?
 ……口元が尖ってた様な気がしたのは気のせいだったのかなぁ?、まるですねてるみたいだった。


「ごめんなさい!」
「もう、冗談にしてはきついよ、洞木さん……」
 週番っていうのはこういう時ありがたい。
 僕はしたことなかったから、洞木さんに教えてもらう振りをして誘ったんだ。
「でもアスカ、碇君のこと……」
「洞木さんにどう見えたのか知らない、でもアスカは間違いなく僕を疎ましく思ってる」
「そんなこと」
「洞木さん」
 たぶん、はっきりさせた方がいい。
「アスカは、エヴァのパイロットでもトップを目指してるんだ」
「ええ……」
「でも敵の殲滅率、情況判断なんかじゃアスカは僕に負けてる、それがコンプレックスになっててアスカは僕を殺したいほど憎んでる」
「そんなことないわよ!」
 そう、今はそうかもしれない、でもいずれはそうなる。
「……ま、それはいいんだ、でも今のアスカに適当な事を吹き込まないでよ」
「適当って……」
「今のアスカは間違いなく心細くなってる、そんな時に親切にされたら?、すがれる話があったらしがみつきたくなるに決まってるだろ?」
「碇君は嫌なの?」
「僕は……、好きになるのを、やめたから」
「え……」
 だめだ、言葉を多くすると脆くなる。
「さ、戻ろうか?、アスカが待ってる」
 でも家に帰るわけにはいかなくなった。
 ウーウーウー……って!
「非常警報!?、使徒だ!」
 僕はアスカを迎えに慌てて駆け出していた。


『なによあれ?』
 人型だった使徒は形を変えていた。
『パターン青!、前回の使徒との波長も一致、間違いありません』
『自己進化?』
『と言うより変異、変態ね?、恐らく幾つかの能力を統合するための変異だわ』
 そうそれは第六使徒をベースにしていた。
 宙を浮き、たぶん光線を使うはずだ。
 分離しない事を祈りたい。
「あれって……、どのぐらいの早さで動くと思いますか?」
 僕はエントリープラグの中で緊張していた。
『わからないわ……』
『通常兵器が効かないと学習したのかしら?、こちらからの攻撃には一切無反応なのよ』
『しゃらくさい』
 アスカ……、やっぱり弐号機に乗るのか。
「アスカのシンクロ率は……」
 ミサトさんの目が細くなる。
『二桁を切りかけてます』
 答えてくれたのはマヤさんだった。
『構わん、囮には使える』
「そう言うこと言ってると、いつか誰も従ってくれなくなるよ?、父さん」
 反論はなし、か。
『発進、いいわね?』
「アスカ、行けるの?」
 アスカは青ざめた顔で、か細く「はい」と答えて来た。
『発進!』
 ミサトさんの号令と共に、僕達は街の外に放り出された。


 使徒が道路沿いに飛んで来る、でもその巨体とATフィールドが周囲のビルを吹き散らした。
 速い!
「ぐぅ!」
 間一髪横へとかわす。
『碇くん!』
『零号機も出して!』
 アスカとミサトさんの悲鳴で意識を繋ぐ。
 車に跳ね飛ばされた方がマシだよ、これじゃあ!
『碇君』
「わかってる!」
 綾波の冷静な声に落ち着きを取り戻して、僕は使徒の後を追った。
 地上なら、こっちの方が速いはずなんだ!
 空気の壁が見える、突き抜ける。
 音速を越えて使徒の尻尾にしがみつく、ガクン、衝撃、なに?
 アンビリカルケーブル!、ちょうどいい!
 ナイフを出して使徒に突き立てる。
「止まれぇええええ!」
 切り裂いちゃ意味が無い、ナイフの震動は切ってある。
「綾波!」
 深々とナイフを刺して引き止める。
 エヴァの背中で装甲が軋んだ、ソケットが外れるかもしれない、もしかするとエヴァの装甲ごと。
 それとも先に電源供給ビルが倒れるか!
『シンジ君、無茶よ!』
『制御系に問題発生!』
『やめなさい!、エヴァは……』
「うるさい!」
 ケーブルの繋がるビルが傾いた、でも僕は使徒から離れない。
 零号機が使徒に飛び乗った、僕の目の前でスマッシュホークを振り上げる。
「アスカ!?」
 使徒が突然口を開いた、その先に居たのは弐号機だった。
「アスカ逃げて!」
 ミサトさんと声が重なっちゃった気がした、でもそれはアスカの悲鳴にかき消された。
『いやああああああああ!』
「アスカ!」
『わたしの中に入って来ないで!、わたしの中を覗かないでぇ!!』
「アスカしっかりして!」
『いや、ママ!、あたしを見て、こっちに来て!』
『アスカ正気になって!』
『嫌い嫌い嫌い、大っ嫌い!、あたしに優しくしないで、わたしは一人で生きるのっ、あんたなんかいらないんだからぁ!』
『アスカ!』
「アスカ、逃げちゃだめだ!」
 一瞬弐号機の動きが止まった、聞こえてる?、聞いてるのか?
『逃げる……、逃げる……』
「逃げちゃだめだ、現実から、なによりも自分から!」
 偉そうに言える立場でも無いのに!
 なにかぶつぶつ言ってる?、なに?、何を言っているのさ?
『好きなものを見付けたのよ……、楽しい事も見付けたの、でもダメなの?、わたしはパイロットなの?』
「そんなのっ、自分で決めればいいじゃないかぁ!」
 瞬間、シンクロ率が跳ね上がった。
 零号機の数度に渡る攻撃にも耐えていた使徒が苦しんだ。
 初号機の腕の筋肉が盛り上がり、ぎりぎりとその太い尾を締め上げる。
『ああああああああ!』
 狂ったようなアスカの雄叫びと、持たされていたポジトロンライフルが火を吹いた。
『このっ、このっ、このぉ!』
 狂ったように速射する。
『あんたなんかにっ、あんたなんかに負けてたまるもんですかぁ!』
『弐号機のシンクロ率が上昇していきます!』
『いける!?、アスカ、コアを狙って!』
『こんちくしょー!』
 綾波が使徒の上顎をさば折りして裂く、暴れようとする使徒を僕が押さえる。
 そしてアスカのライフルが、使徒のコアにとどめを刺した。


「疲れた……」
 僕はエヴァから降りると、そのまま崩れ落ちるように座り込んだ。
 横目に弐号機を見ると、嬉しそうにアスカが駆けて来るのが見えた。
 なに笑ってるんだろう?
 それにどうして使徒は分離しなかったのかな?
 僕は眠くなって、それ以上考えるのを放棄した。



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