MAGMADIVER
「はあ、修学旅行、ですか?」
「そ、悪いけど戦闘配置だから」
「いいですよ、別に行く気もありませんでしたから」
「冷めてるのねぇ?」
 僕はミサトさんの執務室に呼び出されていた。
 ま、ここで浮浪者よりちょっとはマシって生活をしてるからしょうがないんだけど。
「アスカったらもう、ごねて大変だったんだから」
「はは……、彼女らしいです」
 しょうがないんだけど、ミサトさんのコーヒーだけは勘弁してもらいたかった……
 僕は手の内にあるマグカップと、笑顔だけど目が笑ってないミサトさんを見て、この液体をどうするべきか途方に暮れてしまっていた。



第拾話「マグマダイバー」



「んじゃシンジぃ、お土産こうて来てやるから」
「惣流と綾波によろしくなぁ」
「……ほんとによろしくしてやろうか」
「「う、裏切りもぉん!」」
「いやぁ!、三人とも、不潔よぉ!」
 三人って、どの三人の事なんだろう?
 でも委員長ってほんとからかい甲斐があって楽しいや。


 まあ冗談で言ってみたけど、あいにくと僕にはそんな気は無かったりする。
 アタックしても砕けるのが分かってるし、それに……
「なにしてんの?」
「宿題」
「ったくぅ、おりこうさんなんだからぁ」
 ネルフってこういうプールとかあったりして、中途半端に設備が整ってるんだよなぁ。
「……悪い子だから溜まっちゃってるんだけど、あ」
「ジャーン!、沖縄でスクーバできないんだから、ここで潜るの!」
「……浅いよ?、ここ」
 それにアスカの着てるビキニって、どう見てもスクーバ向きじゃないし。
「いいのよ!、どれどれ?、なにやってんの……」
 これでボンベ背負ったら、ボンベの紐とか食い込むんじゃないのかなぁ?
 僕は間近に来た水着を観察した。
「ちょっと見せて、この程度の数式が解けないの?」
 アスカ、スクール水着の時より胸大きいような……
「はい出来た、簡単じゃん」
「ま、大学出てる人にはね……」
「まあね……、って、なんであんたが知ってるわけ?」
 あ、しまった、かな?
「聞いたんだよ、うん……」
「ふうん……、あんたストーカーやってんじゃないでしょうねぇ?」
「や、やるわけないだろう!?」
「どうだか……、この間だって、人が記憶無くしてる間に……」
「なに赤くなってるんだよ?」
「う、うっさいわねぇ!」
 あれ?、まさか覚えてるとか……
 まさかね。
「で、でぇ!、こっちのこれはなんて書いてあるのよ!」
「熱膨張に関する問題だよ」
「熱膨張?、幼稚な事やってるのねぇ……、とどのつまり、物ってのは温めれば膨らんで大きくなるし、冷やせば縮んで小さくなるって事じゃない」
「ま、そうだね?」
「あたしの場合ぃ、胸だけ温めれば少しはオッパイが大きくなるのかなぁ?」
「ミサトさんみたいに?」
「あんな下品なのはヤーよ!」
「でも加持さんは好きみたいだけど」
「うっさい!」
 あ、怒っちゃった……
 なにぷりぷりしてるんだろう?、アスカだけは前の付き合いもあるのに着いていけない。
 綾波……
 顔半分だけ水に沈めてこっち見てる……
 恐いよ、なに睨んでるんだよ?
「見て見てシンジぃ!、バックロールエントリー!」
 あ、そこ綾波が……
 ゴチン!
「はぁ」
 なにやってんだか。
 ぷかぷかと二人とも浮いていた。


「使徒……」
「そうよ?、まだ完成体になってないさなぎの状態みたいなものよ?」
 どうして作戦って暗い部屋で立てるんだろう?
 下から明かりで煽られるリツコさんの顔って、恐くて嫌なんだよな、馴染めるけど。
「今回の作戦は使徒の捕獲を最優先とします、出来うる限り原形をとどめ生きたまま回収すること」
「できなかった時は?」
「即時殲滅、いいわね?」
「はぁい」
「作戦担当者は」
「はいはいはぁい!、わたしが潜るぅ!!」
 ま、代わるって言っても、許可されるはずないし。
「アスカ、弐号機で担当して」
「はぁい!、こんなの楽勝じゃん」
「わたしは」
「レイと零号機には、本部での待機を命じます」
 あれ?、またちらっとこっち見た……
「はい」
「残念だったわねぇ?、温泉行けなくて」
 だからアスカも、なにニタニタ僕と綾波の顔を見比べてるのさ?
 あ、綾波の目が釣り上が……、った?
 良く見る前にリツコさんに促されたんで、結局僕はそれを確認する事ができなかった。


「ダルマだ……」
「嫌だ、あたし下りる!、こういうのはシンジの方がお似合いよ!」
「そいつは残念だなぁ、アスカの勇姿が見れると思ってたんだけどなぁ」
「嫌ぁ!」
 隠れても遅いって。
 前は悪いと思ってダルマスーツを良く見なかったけど。
 やっぱり笑えるよな、悪いけどさ?
「困りましたねぇ」
「そうねぇ……」
 マヤさんとリツコさん、もっと上手く扱えないのかな?、アスカ。
「わたしが弐号機で出るわ」
 パン!
 綾波が上げた手をアスカは払った。
「あなたにはわたしの弐号機に触って欲しくないの!、悪いけど」
 まあアスカのことはいいや、それより。
「綾波……」
「なに?」
 僕はアスカを見たまま、綾波は目だけを僕に向ける。
「綾波って、弐号機に乗れるの?」
「……わからない」
「そう……」
 そう、コア、パーソナルパターン以上に大切な物。
 それがあるはずなのに、どうして綾波は乗るって言ったんだろう?
 なんだか腑に落ちなかった。


 浅間山山頂。
 弐号機と初号機はF装備で空輸。
 驚いた事にD型装備のエヴァを釣り下げても、この輸送機は飛べるらしい。
『あれ?、加持さんは?』
『あのバカは来ないわよ、仕事ないもの』
『ちえー、せっかく加持さんにもいいとこ見せようと思ったのに』
「残念だったね」
『うっさい!』
 ああ、通信切られた。
 ちょっと耳痛かったよ、今の。
「UN空軍?」
『空中待機してるのよ』
『この作戦が終わるまでね?』
『手伝ってくれるの?』
 あ、アスカこっちとの通信だけ切ってたな?
『いえ、後始末よ?』
『わたし達が失敗した時のね』
『どういうこと?』
『使徒をN爆雷で熱処理するのよ、わたし達ごとね』
『酷い!』
「これも父さんの仕事か……」
 僕のぼやきには、誰も答えてくれなかった。


『見て見てシンジぃ!、ジャイアントストロングエントリー!』
 史実通りに行くかどうか分からない事に送り出すって言うのは恐い物なんだな……
 そんな事を考えている間にも、冷却チューブはどんどん下に出されていく。
『目標予測地点です』
『アスカ』
『いないわ』
『作戦続行、再度沈降よろしく』
『深度千四百』
 何の音?
『第二循環パイプに亀裂発生』
 ……実際に降ろされるのと、不安な音だけ聞いて待たされるのと、どっちがほんとに恐いんだろう?
 恐いのは嫌だ、それにアスカに死なれたらやっぱり悲しくなると思う。
 やはり行くしか無いよな?
 前はぎりぎりだった、だから今度はもう少しだけ早く……
 僕は右手を握り込んだ。
『もう少し頑張って』
 バキャ!
 まただ。
『プログナイフ喪失』
『もうこれ以上は!、今度は人が乗っているんですよ!?』
『この作戦の責任者はわたしです、続けて下さい』
『ミサトの言う通りよ、大丈夫、まだいけるわ』
 そうやって無理をして……、そこまでする必要も無いだろうに。
 アスカには分からないんだろうか?、僕達がアスカを認めていると言う事を。
『居た』
『目標を映像で確認』
『お互いが対流で流されてるから』
『分かってる、目標、捕獲しました』
 僕はジリッと初号機を前に出した。
『シンジ君?』
『なに?、どうしたの?』
「なんでもないよ……、まだ気を抜かないで」
『またぁ?、あんたがそう言うと、必ず不吉な事が起きるのよねぇ……』
 そりゃそうだよ、知ってるから口にしてるんだ。
『アスカ、言う通りにして、緊張感は解かないで』
 さすがミサトさん、勘繰ってるだけのことはあるよな?
 いい反応を返してくれる様になってきた。
 ビー!
 直後に警告音、やっぱりだ!
『なによこれぇ!』
『まずいわ、羽化を始めたのよ!』
『捕獲中止、キャッチャーを破棄、作戦変更!』
『待ってました!、しまった、ナイフ……、正面!?、バラスト放出!』
「アスカ、ナイフ落とすよ!」
『早く、お願い!』
 僕も跳び下りて……、だめだ、今のシンクロ率じゃ何十秒も保たない。
「リツコさん、フィードバックのレギュレーター、下げられますか?」
『シンジ君、あなた……』
「万が一の時は、行きます」
『わかったわ』
 状況を追ってるだけじゃダメなんだよ……
 どうもみんな、状況が来てから対処する癖があるような気がする。
 先を知らないと動けないものなのかな?
 不満を感じる、そんなことはないはずだ。
 ちょっと想像すれば、考えれば……
『いやあああっ、来ないでぇ、あああーん、早く来てぇ!』
「マヤさん、弐号機の映像をこっちにも回して!」
『まさか、この状況で口を開くなんて』
『左足損傷』
『耐熱処置!』
『高温高圧、これだけの極限状態に耐えてるのよ、プログナイフじゃダメだわ』
「熱膨張だ!」
『わかったわ!、このぉ!』
『なるほど、冷却液の圧力を集中させて、早く!』
「行きます」
『え?、ちょっとシンジ君!?』
『くっうっうっうっう!、だぁああああああ!』
 倒した?
 ガン!
 でも通信に割り込んだ絶望的な震動音が、僕を酷く焦らせた。
『せっかくやったのに……、やだな、ここまでなの?』
「アスカ!」
『シンジ!?』
 間に合った!
 パイプをつかみ、D型装備の首根っこを捉える。
 パイプはまだ千切れてない!
「早く、上げて!」
『ばか……、無理しちゃって』
 ほんと……、人のために、何我慢してるんだろう、僕……
 人のため?
 違うよね、これはきっと、僕が嫌だからってだけのはずさ……
 だからこそのやせ我慢なのだと、僕は僕を納得させた。


「はぁあああああ、極楽極楽……」
 どうでもいいけどペンペン入れちゃって、怒られないかな?、後で……
「シンジくぅん、聞こえるぅ?」
「はぁい」
 シャンプーかな?
「あとで混浴行かなぁい?」
「結構狭いみたいだけどぉ」
 なっ!
「い、行けるわけないだろぉ!?」
「つまんない男ぉ……」
「あらぁ、アスカ、見てもらいたかったの?」
「ち、違うわよ!」
「無理しちゃってぇ、シャンプーなくなるまで磨いてたくせにぃ」
「きゃあちょっと、やぁん!」
 まったく、なに考えてんだよ……、もう!
 結局熱膨張しちゃったじゃないか、ったく。
 後で行くのもいいかもしれない。
 僕は少し楽しみにした。



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