Those woman longed for the touch of other's and thus invited their kiss.
|
「ああーん!、助けてぇ、加持さぁん!、なにすんのよへんたぁい!、きゃあああ!」
なにやってるんだか……
廊下からアスカの叫び声。
ちょっとは気になったけど、僕はこっちに集中した。
綾波レイ。
雑巾をしぼる姿に何かを感じる。
やっぱり母さんって感じだ……
教室の掃除をしながら盗み見る。
やっぱり強いのか、母さんのイメージが……
綾波から何かを感じるのではなくて、僕が何かをダブらせているのかもしれない。
そんな風に思え始めた。
第拾伍話「嘘と沈黙」
「明日……、父さんと会わなくちゃいけないんだ」
学校からの帰り道、僕は綾波と一緒に歩いていた。
アスカはもう僕とは歩きたくないみたいだ。
綾波と呼び止めたんだけど、振り返った後、僕達だと知って急にむくれて行っちゃった。
「何を話せばいいと思う?」
「どうしてあたしにそんな事聞くの?」
横目に見られる。
切れ長の目が少し恐い。
「……綾波が、父さんと楽しそうに話してるの見たから」
父さんは楽しいんだろうな……、綾波は?
「ねぇ、父さんって、どんな人?」
「わからない……」
「そう」
「それが聞きたくて、昼間からわたしのこと見てたの?」
「……それだけってわけでも無いけど」
「そう……」
少し声色が変になった。
上擦ってる?
「あ、掃除の時さ、雑巾しぼってたでしょ?、あれって……、なんだかお母さんって感じがした……」
「お母さん?」
「うん……、案外、綾波って主婦とかが似合ってたりして」
あ、落ち着きがなくなった、かな?
頬も赤いし、でも、何が恥ずかしいんだろう?
「何を言うのよ……」
なにを考えたんだよ?
今ひとつ綾波の思考は読み辛い……
翌日、僕は墓参りに連れ出された。
……違うな。
一応は自分の意志で来たんだ。
ここまでの電車に乗ったのは、僕なんだから。
墓標の前に跪く、バカらしい……、花を添えるなら、初号機にだろう?
「三年ぶりだな、二人でここに来るのは」
「僕は……、あの時逃げ出して、それから来てない」
それに今はもう、来る気も起きない。
「ここに母さんが眠ってるわけじゃないのに」
「人は想い出を忘れる事で生きていける、だが決して忘れてはならない事もある、ユイはそのかけがえの無い物を教えてくれた」
「確認のために、ここに来てるんだね?」
「そうだ」
重苦しい沈黙。
真後ろに居るのに、まるで向こう側の世界の人に話しかけられてるみたいだ。
それだけ、隔たりが大きいって事なんだと思う。
「先生は、写真とかみんな捨てたって言ってた」
「全ては心の中だ、今はそれで良い」
ネルフの飛行艇が降りて来る。
こんな場所に乗り付ける事も無いだろうに。
「時間だ、先に帰る」
綾波、そこにいるのか。
「父さん!」
僕は思わず呼び止めていた。
「綾波を……、母さんを、何をするつもりなのさ、父さん!」
僕は叫んでいた、でもそれも父さんの足をわずかに遅らせる事しかできなかった。
ミサトさんは結婚式、アスカはデートか……
その間に掃除を頼まれたんで片付けた。
押し入れからは忘れ物が出て来た、チェロだ。
そっか……
あの時も、こうして……
僕は懐かしくなって弾き始めた。
そして拍手。
「結構いけるじゃない、あんたのだって言うからどうなんだろうって思ってたけど」
「忘れて行っちゃうくらいだからね?、そんなに大したもんでも無いよ」
「謙遜は美徳じゃないわよ?」
でも自慢しまくるよりは良いと思う。
「早かったんだね?、夕飯、食べて来るんだと思ってた」
「退屈なんだもんあの子、だからさ、ジェットコースター待ってる間に帰って来ちゃった」
「……酷いことするね?」
「はぁ〜あ、まともな男は加持さんだけね?」
「今更なに言ってるんだか……、ご飯、作ろうか?」
「お願い」
良く考えたら、僕は普段の加持さんってあまり知らない。
そんなにかっこいいのかな?、加持さんて……
「アスカぁ、電話鳴ってるよぉ?」
『シンジが出てよぉ!』
まったく……
アスカはご飯を食べるとさっさとお風呂に入っちゃった。
洞木さんから電話があって、デートの相手って人から電話があるかもしれないとかなんとか……
だからって僕に取らせること無いのに。
「はい」
『あ、シンちゃん?』
「ミサトさん?」
「ミサトぉ?、ちょっと変わって!」
「あ、うん……」
電話をふんだくられる。
バスタオル一枚、髪は濡れたままで滴が飛ぶ。
もわっとした湯気を纏ってた。
タオルも急いでまいたのか?、緩んで背中が見えちゃってる。
無理に押さえた胸元に意識を取られて、おかげで電話を盗み聞くのを忘れちゃった。
ま、内容は大体想像つくけんだけどね?
「ミサトさん、なんて?」
「……遅くなるって、不良中年が!、加持さんも加持さんよ!」
「一緒なんだ?」
「飲んでるって……、ねえ!」
「なに?」
「……ビールでも飲もっか?」
「うん……」
飲んだことは無いんだけど……
きっとこんな時に飲む物なんだと思う。
アスカはそんな気分なんだろう。
だから付き合うことにした。
「うう、気持ちわるぅい……」
「一気に飲むからだよ、はい、お水……」
パシッとひったくられる。
「むぅ!、あんただって初めてだって言ってたじゃない!」
「言ったよ?」
「なんで初めてで飲み方が分かるのよ!」
「聞いた事があるだけだよ」
「いい加減なこと言わないでよねぇ……」
僕は肩をすくめて立ち上がった。
「シンジぃ、何処行くの?」
「そろそろ帰るよ、電車無くなっちゃうから」
「泊まって行きなさいよ」
「……二人っきりなのに?」
「恐いの?」
「そうだね……」
「お母さんの命日に、女の子となにかあるの、嫌?」
「そうじゃないよ……」
「天国から見てるからって」
天国には……、行ってないよな?
「酔ってるの?」
「今ならあんたにだって負けるわよ」
「……いいよ、僕はそう言う事、する気無いから」
「なんでよ!」
「何怒ってるのさ?」
「あんたなんかに好きだなんて言われたからよ!」
あれ?
怒って行っちゃった、けど……
僕、そんなこと言ったかなぁ?
どの道、怒らせちゃった事には変わりない。
僕は再び座り込み、飲み差しのビールを全部空けた。
アスカの台詞の意味を考えながら。
[BACK][TOP][NEXT]