WEAVING A STORY 2:oral stage
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なんだこれ?
ここはどこだ?
エントリープラグ……
でも誰も居ない、僕もいない。
なんだこれ?、なんだこれ?、なんだこれ?
前にも一度見た事がある、これって……
色々な人の顔が見える。
そうだ、これは僕の知っている人達だ、僕を知っている人達だ……
そして、僕を知らない人達だ……
これは?
外からのイメージ、外からのイメージ、そうだ、敵だ。
僕を引き戻すもの、僕が僕であるために必要なもの、恐いもの。
使徒?、ミサトさんのお父さんの敵?
違う、これは僕の敵だ、僕を、僕の命を脅かす敵。
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!
何も分かってないくせに、何もしてくれないくせに!
アスカ、綾波、ミサトさん、トウジ!、父さん!!
僕を傷つけ、わかろうともしないで。
自分の身を自分で守って、何が悪いんだよ!
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!
よくも母さんを、綾波を、僕を殺したな!
父さん!
殺意が収束していく。
まどろみの中にあった僕の心が、刃のようにその姿を磨ぎすましていった。
第弐拾話「心のかたち、人のかたち」
(なぜお父さんが嫌いなの?)
僕を分かろうとしないから。
(あなたは分かろうとしたの?)
わかろうとした。
(うそ、あなたは何も分かってない)
うるさい!、僕を捨てたくせに、母さんを殺したくせに!
(その代わりがわたしなの?)
違う、父さんは綾波を必要としてる!
(必要だから呼んだまでだ)
僕と同じように?
いくつもの声が入って来る……
僕に呼び掛けるのは誰だ?
それが分からなくて苛付いた。
優しく、温かい温もりを感じる……
これが人の温もりなんだよね……
(予定、ね……、じゃああたしがここに居るのも、そうなの?)
アスカの香りが鼻先をこすった。
それは苛立ちを吹き飛ばし、でも僕を誘惑していた。
(寂しいってなに?)
耐えられないもの。
(幸せってなに?)
みんなに嫌われてないこと……
(優しくしてくれる?、他の人が)
うん、今まではそうだった。
(これからは違うの?)
だってそれは僕が未来を知っているから。
未来の出来事を知っているから。
トウジ、加持さん、綾波、アスカ!、ミサトさん……、リツコさん。
みんな傷ついていくのに、僕はそれを知っているのに、何も出来ない、なにもしようともしない。
(だから責められるの?)
だからエヴァに乗らなくちゃいけない。
(乗って?)
戦うんだ、敵、敵と戦わなくちゃいけない。
(戦って?)
勝たなくちゃいけないんだ。
僕を傷つける、全てのものに。
(予定、ね……、じゃああたしがここに居るのも、そうなの?)
拳を握り込む。
そう負けちゃいけないんだ……
みんなが言うからじゃないだ、戦わなくちゃ、僕が辛くなるんだ。
逃げたところにもいいことなんてなかったんだ。
だから戦わなくちゃ……
みんな、みんな、みんな……
僕を嫌いになっていくから。
だから僕を捨てないで。
だから僕を好きになって。
だから僕に、優しくしてよ!
(優しくしてるわよ)
声が聞こえた。
(ほら、わたしと一つになりましょう?)
(わたしと一つになりたくない?)
(それはとてもとても気持ちの良いことなのよ?)
嘘だ!
僕は悲鳴を上げる。
(あれも、あんたの言ってた「予定」ってやつの一つなわけ?)
信じてくれないくせに、僕のやってること、何も信じてくれてないくせに!
(わたしと一つになりたくない?)
(心も体も一つになりたくない?)
(それはとてもとても気持ちの好い事なのよ?)
(((だからほら、心を解き放って)))
それはとても魅力のある響きだったけど、でも、……その声から引き離そうとする声が聞こえたんだ。
シンジ君。
シンジ。
ばかシンジ!
碇君……
わからない……、わからない、わからない、ねぇ?
僕は、どっちの声を信じればいいの?
(あなたは、何を願うの?)
僕は……、人を好きになりたいだけなんだ……
ついつい本音が漏れ出てしまった。
「はっ!」
ここは……
(エヴァの中だよ)
「エヴァの中?、そうだ、僕は自分で戻って来て、自分で乗ったんだ」
自分で決めて。
(シンジ君、あなたはエヴァに乗ったから、今ここに居るのよ)
そうだ。
(エヴァに乗ったから、今のあなたになったのよ)
だからこうして、頑張ってるんだ。
(その事を、エヴァに乗っていた事実を、今までの自分を、自分の過去を、否定することは出来ないわ)
でも変えられるかもしれないんだ。
(ただ、これからの自分をどうするかは、自分で決めなさい)
だから、僕は……
(だから見失った自分は、自分の力で取り戻すのよ)
そうだ。
(例え自分の言葉を失っても、他人の言葉に取り込まれても)
僕は。
(心配ないわよ、全ての命には復元しようとする力がある、生きていこうとする心がある)
ここでもう一度。
(どこだって天国になるわ)
生きていこうと……
思ったんだ。
そうだよね?、母さん……
なのに、僕はここで何をしてるの?
見渡す、何もない世界だ、優しいだけの世界だ。
そして……、僕の欲しい物が、何一つない世界なんだ。
だから僕は泳ぎ出した。
自分の姿を思い出したから。
母さん。
(生きていこうとさえ……)
そうだ、母さんも僕が生きていく事を望んでいてくれたじゃないか!
母さんの持つ僕のイメージが伝わって来る。
母さんは、僕がここに居る事を望んでくれないんだね?
だから僕は泳ぎ続けた。
もう一度、母さんから辛い世界へと生まれ落ちるために。
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