アスカ……、いつまで家出してるつもりなのかな?
もう僕の部屋にも来なくなった。
その代わりに、洞木さんの所に泊まり込んでる。
『聞いてるの?、碇君!』
「あ、うん……」
『学校にも行かないで、一日中ニタニタして右に左に転がってるのよ!?、好きだって言ったんでしょ?、男なら責任取りなさいよ!』
何でそうなるかなぁ?
『きゃあああ!、だ、誰に電話してんのよあんたわ!』
『あ、アスカ!、もうお風呂上がったの!?』
『ちょっとシンジ!、今の嘘だからね!』
「あ、うん……」
『こっちに居るのはあんたなんか関係無いんだから!、わかってんの!?』
「わかってるよぉ……」
『い〜か〜り〜くぅん!』
どうしろって言うんだよ……
『アスカものろけるなら他の人とやってよ!』
『嫌よ!、ヒカリだって鈴原がお弁当食べてくれたとかうるさいじゃない!』
『きゃーきゃーきゃー!』
『そーれーにぃ!、シンジみたいなケダモノの所に帰ったら、何されるか分かんないわ!』
『それって……、アスカにベタ惚れだから?』
『や、やー!、何言ってんのよぉ!』
「……ところでさ」
『なによ!』
僕は一つの疑問をぶつけた。
「……なんで家に帰るって言うのが、僕の部屋なわけ?」
あ、ちょっとミスったかも。
『バカッ!』
ガチャン!、って耳が痛いよ……
受話器、切らないで投げ付けたな、きっと……
洞木さんに同情しながら、僕はそろそろ寝ようと横になった。
第弐拾参話「涙」
『零号機発進、迎撃位置へ』
『弐号機は、現在位置で待機を』
『いや、発進だ、おとりぐらいには役に立つ』
なんて言い草だよ……
『のこのことまたこれに乗ってる……、未練たらしいったらありゃしない……』
「アスカ……」
『わかってるわよ……、ふん、わたしが出たって、足手まといなだけだっていうんでしょ』
アスカ、自棄になってるのか?
でも表情は明るい、作り笑いじゃない。
……信じるしか、ないよな。
シンクロ率が悪くても、アスカはあまり気にしていないようだった。
『目標接近、強羅絶対防衛線を通過』
「綾波」
『なに』
「……気をつけて」
『心配しないで』
『レイ、暫く様子を見るわよ』
『いえ、来るわ』
今回は始めから零号機、弐号機の視界もこちらにモニターさせてもらってる。
その中で使徒が光の蛇に変化した。
『レイ、応戦して!』
『ダメです!、間に合いません!』
揺れる零号機の視界、その中になんとか収まっている光の筋。
お腹を直撃されたのが見て取れた。
『くっ!』
凄い、と言える。
お腹を貫通されてなお、綾波は反撃を試みた。
『目標、零号機と物理的接触!』
『生体部品が犯されていきます!』
「綾波、銃じゃダメだ!」
僕の声が聞こえたからか?、綾波は銃を捨ててナイフを抜き取る。
ブシュッ!、突き立てた部分から血が吹き出した。
きゃああああああああ!
どこからか聞こえる悲鳴。
「綾波!?」
どうして綾波が痛がるのさ!?
『危険です!、物理的融合を果たしています!』
『使徒が積極的に一時的接触を試みていると言うの?、零号機と!?』
『弐号機発進、レイの救出と援護をさせて』
『目標、さらに侵食!』
『危険ね、既に五パーセント以上が犯されているわ』
「僕も行きます!」
これ以上は待てない。
『待て、シンジ!』
「聞かないって言ってるだろう!?」
『初号機を射出口へ移動させて早く!』
ミサトさんは踏ん切ってくれたようだ。
それにそうそう壊されるのも堪らないでしょう?
ブリッジや拘束具が移動していく。
「綾波、アスカ待ってて!」
『弐号機は!』
『動けないのよ!』
弐号機はATフィールドに押し返されていた。
今のアスカじゃ中和も無理か。
『こんちくしょー!』
『アスカ戻って!』
『でも!』
『あなたまで狙われるわ、早く!』
『くっ!』
『シンジ君は!』
『いま出ました!』
『はっ、あ、あ……』
綾波の泣くような、喘ぐような呻きが聞こえる。
僕は他の通信のボリュームを下げて、零号機との回線だけボリュームを上げた。
『これが、涙……、泣いてるのは、わたし』
「綾波!」
『碇君っ』
通信に答えてくれた!
「今行くから、待ってて!」
『ダメ!』
零号機は身を折り曲げてうずくまった。
その背中から吹き出したあれは……、使徒?
今までの使徒の形を連ねた肉塊が、まとめてずるずると膨れ上がっていく。
『レイ!』
「綾波!、自爆なんてしちゃダメだ!」
僕の台詞に、一瞬発令所の時間が止まった。
『零号機のプラグを強制射出して!』
『ダメです、背部の盛り上がった筋組織が邪魔をして……』
『そんな……』
初号機を走らせる、その目前に使徒の尾が迫って来た。
「この!」
その尾をつかんで引っ張る。
『碇君!』
「うわあああああああ!」
零号機から引き抜くためにさらに迫る。
『シンジ君離れて!』
『シンジぃ!』
使徒をつかんでいる手に血脈が浮いた。
声が聞こえる、綾波の、心?
ぼこぽこと血管が人型になっていく、プラグスーツの下に何かが生まれてる。
「綾波、ごめん!」
初号機の足を零号機にかけ、無理矢理引っ張る。
『きゃあああああああああああ!』
綾波が悲鳴を上げる、でも上げた悲鳴の分だけ、零号機の中に広がっていた根が抜けていく。
『シンジ君、無茶しないで!』
(痛い、痛いの、碇君……)
また声が聞こえる……
使徒、使徒なのか、この声……
それとも使徒を通じて声が聞こえる?
(ふふ、うふふ……)
背後から何かが抱きついて来る。
回り込んで来たそれは、初号機の顎先にキスして来た。
綾波、なのか。
使徒の尾が真っ白な綾波の姿に変わっていた。
その下半身は、元の光の蛇に繋がっている。
一瞬、心が潜在的な恐怖に支配されかけた、でも。
『これはわたしの心……、碇君と一緒になりたい』
通信だけじゃなくて、直接聞こえた。
『ダメ……』
わかる、寂しいんだ、寂しいんだね?
だから側に居たいんだ、居たいと思ったんだ。
使徒が初号機の仮面に張り付いて、僕の顔にも血管が浮き上がった。
使徒が……、綾波の心が入って来る。
『ATフィールド反転!』
『碇君、離れて……』
『自爆する気!?』
『レイ!』
父さんの叫びが耳朶を打った、僕も一瞬正気に帰る。
コアが膨れ上がって、背中の使徒がその中に収まっていく。
子宮が張り裂けんばかりに大きくなった。
「綾波、脱出して!」
『フィールド限界、これ以上はコアが維持できません!』
蛇の使徒も、引きずられるように零号機の中に入っていく。
『ダメ、わたしがいなくなったら、ATフィールドが消えてしまう、だから……』
「死ぬなんて言うなよ!」
『碇君!』
零号機のお腹に拳を入れる。
『くうっ……』
くぐもった悲鳴。
神経接続がその痛みを綾波にも与えたからだろう。
『わたしが死んでも……』
「代わりとか三人目とか、そんなの関係無いって言ってるだろう!」
さらに拳を入れる、腹が破れた、まるで流産するようにこぼれ落ちる使徒の亡骸。
人の形になっていない、なにかの赤子……
『レイのプラグを出して!』
『はい!』
背中の使徒型の肉がなくなったことで、プラグがようやく姿を見せた。
「この!」
プラグをつかみ、無理矢理抜き取る。
綾波が盛大にシェイクされただろうけど、死んじゃうよりはいい。
「うわあああああああああああああ!」
零号機とへその緒で繋がった胎児に足を振り上げる。
『零号機が!』
暴走した零号機が、赤子を守るために覆い被さった。
母さん!?
一瞬、零号機が白い人間に変わる。
その頭に天使の輪が収束して……
そして僕は、真下からの爆発に吹き飛ばされた。
前は綾波のお見舞いに行ったんだけどな……
今回、綾波は病院じゃなくてリツコさんに診察を受けてる。
「無茶をしたものね……」
とはリツコさんの言だ。
神経接続をしている上に、使徒との融合で感覚が鋭敏になってたらしい。
それなのに僕はそのお腹を殴り、破った。
恨まれても仕方ないよな……
あれ?
通路の先に見慣れた二人連れが居た。
父さんと綾波?
それも父さん、綾波を責めてるみたいな……
向き合って立ってるのはいつもと変わらないのに、なんだろ?、あ、こっち見、た……
僕に気がついた父さんは、おもむろに綾波の頬に手を伸ばしてかがんだ。
うわ……
父さんが、綾波にキスした……
綾波、目を丸くしてる、驚いてるの?
でもそんな事よりも……
パン!
綾波が叩いた。
父さんを?
綾波が!?
僕は一連の出来事に、一瞬訳が分からなくなった。
だって叩いたんだよ?
綾波が!
あ、こっち来る、走って来る?、って!?、え!、ちょ、ちょっと!!
ドンッて……
綾波は僕の胸に飛び込むと、急に身を小さくして震え出した。
首筋に顔を埋めて、ああ……、父さん呆然としてこっち見てるよ、どうしよう。
自失している父さんと、ただひたすら何かに脅える綾波。
僕はどうしたらいいのかとにかく分からなくて……
とりあえずニヤリって、笑ってみた。
「っく、ひっく、ぐす……」
まだ泣いてるよ……
正直、ここまで泣かれると困って来る。
父さんは眼鏡をくいっと持ち上げた後、背中を向けて歩いていった。
しばらくは僕もじっとしてたんだけど、通りがかった人に変な目で見られたんで……
しかたなく、僕の部屋に連れて来た、でも綾波、ここが僕の部屋だって分かってるのかなぁ?
僕にしがみつこうとするんで、僕は軽く肩を抱いて誘導した。
まるで泣いてる女の子を誘導して連れ込んだ……、ってまるでじゃなくてその通りか。
溜め息が出る。
「綾波……」
ピクッと反応があった。
二人でベッドに腰かけ、僕は綾波の体に軽く腕を回している。
綾波と僕の身長は変わらない、だから胸で泣くってわけにはいかなくて、綾波は僕の首元を濡らしていた。
「……そんなに、嫌だったの?」
迷ったようだけど、綾波はコクリって頷いた。
「そう……」
何が嫌だったんだろう?、嫌いになったのかな?、父さんのこと。
いやそんなはずはないよな……、少なくとも父さんに脅えてる風だった、でも何故?
どうして急に、父さんは綾波を責めたりしたんだろう?
いつものように会話してた、でも雰囲気が違う、なにより父さんの表情が硬かった。
あれは……、あれは僕に見せてたのと同じじゃなかったのか?
じゃあ父さんは……、父さんが。
綾波を怖れてたって言うの?、どうして!
「あの人は……、わたしを見なかった」
はっとした。
綾波が震える唇で教えてくれたから。
「綾波……」
「あの人は、わたしではない誰かを見て、その人に似たわたしのした事に怒った……」
そうか……、そうなんだ。
母さんの代用品なんだ、綾波は。
「綾波は……、今までそれでも良かったんだね?」
頷かれてしまった、けど。
「今は……、嫌なの?」
これにも頷いてもらえた。
「あの人が唇を重ねたのは……」
顔を上げた綾波の目元は酷かった、涙に腫れて。
「わたしが、似ている唇で、碇君の名を、呼んだから……」
(これはわたしの心……、碇君と一緒になりたい)
そうか、それで嫉妬したのか、父さん……
「碇君……」
「ありがとう……」
目が潤んでる、唇が塗れてる、引き付けられる、嫌がるかな?、僕だと……
僕は最低だ、胸がドキドキする、そうだ、確かに父さんの思惑通り、僕は嫉妬した。
あの時、僕は父さんよりも綾波の表情を追ってた、もしあの時、綾波が恍惚としてたらどうしたんだろう?
僕は……、逃げ出していたのかな?、でもどうしてそうしなくちゃいけないの?
僕が……、好きだから?、綾波のことを……
好きになっていたの?、それとも最初から好きだったんだろうか?
好きにならないと抑えていた分、一度溢れた感情にはまったく抑制が効かなかった。
いいよね?、僕は綾波が好きだから、母さんに似てるからじゃなくて……、綾波が。
僕はそっと唇を合わせる、この瞬間、僕は綾波が人形から脱した事を確信した。
綾波は僕を求めている、それは父さんのせいだ。
僕が無条件に好かれるほどカッコイイなんて自惚れてない、綾波を、自分の部下のように人形として操れなかった父さんは、苛着いたんだ。
それがあのキス、綾波はそれを感じて、……裏切られたと思ったのかどうかは分からないけど、でも。
綾波、まつげが震えてる……
僕は右隣に座った綾波に腕を回していたけど、左手は綾波の頭を固定していた、逃げられないように。
ゆっくりと唇を離す、最初はハッとしていた綾波だったけど、最後には薄闇の中でもはっきりと分かるほど頬を上気させてた。
もっともそれを確認したのは、顔を近づけた最初と最後だけで、途中は綾波の耳の辺りしか見えなかったんだけど……、近過ぎて。
もじっと身をよじる綾波は可愛い、左手にかかっていた綾波の頭の重みは逃げていった。
でもただ逃げるんじゃなくて、綾波は僕に向かって擦り寄ろうとしたんだ。
綾波は父さんが恐くなって、とっさに僕に逃げ込んだんだと思う、自分を守る為に、綾波を綾波として見ていた僕に。
綾波は誰でも良かったんだと思う、でも僕は開き直ることにした。
あそこに居たのは僕だし、僕が居たから父さんはああいう事をしたんだし、たまたま居たのが僕だったから、綾波はこうしてここに居る事を選んだ。
他に登場人物は居なかったんだ、後でどうなるかは分からないけど、今は僕達だけなんだ……
「綾波」
「……なに」
か細い声にゾクッと来て、僕はさらに調子に乗る。
綾波が切なそうに見えるのは気のせいなのかな?
「もう一度……、キスしても良いかな?」
それは確認でも何でも無い。
綾波が嫌と言う前に、僕は綾波の首筋を引き寄せた。
「あ……」
強引に仰向きになった唇が開いていた。
押し付けるように奪う、そのまま強く抱きしめ覆い被さる。
これが綾波の唇なんだ!
勢いのままに舌を差し込む、驚いた綾波は舌を引っ込めたけど、どんなに逃げても舌先は触れ合う。
つつき合う様な感じがくすぐったくて気持ち良い。
(大人のキスよ……)
不意に思い出した生々しい感触、口腔を犯していくいやらしい物。
僕は舌で遊ぶのをやめて、綾波の歯を丁寧に舐めた。
苦しげな呻き、でもその中に「は、あ」と悩ましい物が混じっている。
それが僕を暴走させる。
目は閉じてない、うっすらと開けて綾波の頬を見てる。
お互いの鼻から、ふっふと熱い息が吹き出している。
互いの顔に吹きかかる。
綾波は空気を求めるかの様に喘いで口を大きく開いた、僕はそれも塞いで、痙攣を始めた綾波の舌を貪った。
甘いんだ、唾液って……
僕達は布団の上に重なっていた、暫くさ迷わせていたようだけど、綾波は手を僕の両頬にあてがってくれた。
下から綾波が求めて来る、僕だけが押し付けていたのに、今度は綾波から吸い付いてくれた。
どれぐらいそうしていたのか分からない、ドーパミンがどばどばと溢れた僕の頭からは時間と言う概念がすっ飛んでいた。
ただ何度か唇を離す度に綾波の手で引き戻されて、鼻先の角度を入れ替えて浸り直していたから、短い時間じゃなかったと思う。
舌先が痺れたのは多分疲れのせいだと思う、最初の頃よりは緩慢な動きしか出来ない。
綾波の舌も動きに元気さがなくなって来ていた、それに不満を感じて、僕は少し正気に戻った。
ゆっくりとした動きで、綾波の舌を名残惜しみながら体を起こす。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
綾波は目を閉じて大きく喘いだ、酸素を求めて。
小山を描く胸元が激しく上下に動いていた。
僕もそれを見下ろしながら、何度も息を吸っては吐いた、体を支える両腕は痺れから今にも折れ曲がりそうだった。
綾波の体に重なりたい、そのまま体重を預けたい。
そんな欲望に取り付かれたけど、僕の理性が恥ずかしいと悲鳴を上げたからできなかった。
お互いの口元は唾液でべたべたになっていた、僕は綾波のそれを、頬に手を当てて、親指で拭い、そして思い切ってこう尋ねた。
「綾波……、君の秘密を、教えて……」
それが何を指しているのかに気がついたんだ。
綾波は泣きそうな目をして、頷いた。
綾波の部屋、エヴァの墓場、綾波は無表情に前を歩いていった。
僕は何も言わない、ただ確認したかっただけだから。
例えそれで綾波が傷ついたとしても。
前の時は一度に色んな事を知り過ぎて、正直ほとんど覚え切れなかった。
いや、覚えたくなかったのかもしれない、夢だったって、嘘だって想いたかったのかもしれない。
「こっちよ……」
「あ、うん」
ぼうっとしていた僕を、綾波は導いてくれる。
「これがダミープラグの元だというの!?」
誰か、居る?
「シンジ君!」
「レイ……、いいわ、シンジ君にも真実を見せてあげるわ」
リツコさんはリモコンのボタンを押した。
ダミープラグのプラント、巨大な脳を象った機械と、部屋の外周を一周するDNA配列の文字列。
その文字が消え、オレンジ色の光に水槽が浮かび上がった。
「綾波、レイ!?」
思わずこぼれたミサトさんの声に、綾波達が一斉に反応して顔を上げた。
「まさかっ、エヴァのダミープラグは!」
「そう、ダミーシステムのコアとなる物……、シンジ君は知っていたようだけど」
僕は答えない、まあ……
(お願いっ、やめてよ!、母さんっ、綾波っ!、やめてよぉ!)
あれのことを、指してるんだろうけど……
「ここにあるのはダミー、そしてレイのためのただのパーツにすぎないわ」
綾波はこれをどう思ってるんだろう?
「人は神様を拾ったので喜んで手に入れようとした、だからバチが当たった、それが十五年前」
バチなのかな?、でも加持さんのディスクじゃそう言う感じじゃなかった……
「せっかく拾った神様も消えてしまったわ、でも今度は神様を自分達で復活させようとしたわ、それがアダム、そしてアダムから人間に似せて神様を作ったの、それがエヴァ」
そう……、なの?
一瞬、あやふやだけど繋がった。
抜けてる第二使徒の話。
最初に見付けた神様。
(他の使徒が覚醒する前にアダムを卵にまで還元する事によって被害を……)
アダム、第一使徒、セカンドインパクトの引き金になった使徒……
消えてしまったアダムは、人が復活させたのか?、それが第二使徒?
ううん、エヴァが第二使徒なのか?、零号機、母さんになったあのエヴァは……
(リリンも……)
アダムとリリスの間に生まれたリリン……、でも聖書じゃ消されて、人は、アダムとイヴの……、イヴ?、エヴァ?、アダムから株分けされたエヴァ……
「人間だって言うの!?」
「そう、人間なのよ、本来魂のないエヴァには、人の魂が宿らせてあるもの、みんなサルベージされた物なの」
どこから引き上げたって言うんだ……
「魂の入った入れ物はレイ、一人だけなの、あの子にしか魂は生まれなかったのよ」
それって綾波以外のものを作ろうとしても、魂はこもらなかったって事なのかな?
僕は隣に居る綾波を見た。
震えてるの?
たくさん作られた綾波レイ、か、でもここに居る綾波達は抜け殻だ。
それって、ダミーシステムやコアを作るために綾波を作っては魂を抜いていたってことなのか?
綾波はその度に魂をすり減らしていたのかもしれない。
だからなのかな?
三人目の綾波。
あの無表情さと、感情の希薄さは。
二人目の綾波ほど感情を見せてくれなかったのって、もう魂が削られ切っていたからだったのかな?
でもここに居る綾波は気丈に耐えているようにも見える、わずかに唇が噛み締められて歪んでいる。
だから僕は手を握った、綾波もつたなく指を絡めて来た。
「ガフの部屋は空っぽになってたのよ……」
加持さんのディスクに一つの写真が入ってた。
プラグスーツを着た大人の女性。
綾波に似た髪型、綾波と同じ白いプラグスーツ。
監視カメラの映像だったからぼやけてたけど、間違いなく母さんだった。
形而上学、だったかな?、それについて注釈があった。
「ここに並ぶレイと同じ物には魂が無い、ただの入れ物なの」
「だから壊すんですか、綾波に嫉妬して」
「そうよ!」
僕がエヴァに取り込まれた時、僕のイメージがプラグスーツを作り出してた、そうなんだ、綾波も何かのイメージで出来上がった物なんだよ!
サルベージは僕の形を固定させるために、僕の意識を浮上させる、僕の親しいイメージを送り込んだらしい。
同じことは母さんにも行われていた、母さんが十四歳の頃に何があったかなんて知らない、けど、でも間違いなく綾波は母さんが何かにすがって作り出したイメージのはずなんだ。
リモコンを取り出し、リツコさんはボタンを押した。
ギュッと、綾波の指に力が篭った。
僕はそれに応えて握り返した。
「あんた!、何やってんのかわかってんの!?」
崩れ行く綾波達に、ミサトさんはリツコさんの狂気を感じて銃口を向けた。
「ええ……、わかっているわ、破壊よ、人じゃないもの……、人の形をしたものなのよ、でもそんな物にすらわたしは負けた、勝てなかったのよ!」
でも。
「あの人のことを考えるだけで、どんな、どんな陵辱にだってたえられたわ、わたしの体なんてどうでもいいのよっ」
「でも、父さんは綾波に捨てられた……、綾波は父さんを捨てた、綾波が裏切られたと感じたように、父さんも捨てられると恐がって、綾波を自分のものにしようとしたのに……」
それが真実だ。
母さんの何かを綾波は託されてる、それは父さんの、リツコさんの、そんな自分勝手なわがままを通すための道具にされることじゃないはずだ!
僕は知ってる、それだけは違うって知っている。
「でも、でもあの人は、わかっていたのよ、バカなのよ、わたしは!、親子揃って大馬鹿者だわ!、あの人も、バカよ!」
「エヴァに取り付かれた人の悲劇、か……」
「碇君……」
不安げな綾波の声に、僕は微笑み返した。
「わたしを殺したいのならそうして、いえ、そうしてくれると嬉しい……」
「リツコさんが死んだって……、父さんはなにも感じないのに」
「バカよ、あなたは……」
それがどれほど容赦のない言葉だったとしても言わずには居られなかった。
僕も、リツコさんも、誰も彼もがどうなったって、父さんはなにも感じない。
リツコさんは崩れ落ちる様に膝をついて泣き始めた。
少しだけ復讐して、全てから逃げ出したかったのかな?、リツコさんも。
僕は綾波に裏切りを期待していた、それはリツコさんと同じ感情なわけで……
「ミサトさん……、リツコさんをお願い」
だから僕は、リツコさんを捨て置けなかった。
リツコさんの背を、ミサトさんの手で撫でてあげて欲しかった。
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