INTRODUCTION
 最近カヲル君の姿が見えなくなることが多くなった。
 何処かで何かをしているってわけでも無くて、単純に女の子と付き合うのに忙しいみたいだ。
 特定の女の子とってわけじゃない、まだ親しくなる対照を一人に絞り込む事の意味は見いだせないって言ってた。
 今の所、僕と綾波の順に大事で、後は同じに見えてるらしい。
「シンジ君は僕の大切な人だからね?」
 そう言って綾波に睨まれていたけど……
「レイは僕と同じだからさ」
 これも納得できる言い分だった。
「男と女の間で交わされる交感と言う物は理解し難いよ、どうやらシンジ君に感じている好意とは別の所にある物らしいからねぇ?」
 その言い方はちょっと誤解を招いちゃったけど。
 僕は断じてそのケはないんだ。
 でも最近、寂しさをちょっとだけ感じている。
 それはアスカがよそよそしくなってしまったからかも知れない。
 あんなこと……、話すんじゃなかったかな?
 嫌われたのかもしれない、フケツとかなんとかって……
 多分前のアスカは気が付いてたはずだから。
 僕が……、僕がアスカでそう言う事をしてたって。
 今度も同じなんだろうか?
 自分がちょっと情けなくなる、恋愛感情どうのこうのって考えてたくせに、いざ敬遠されるとこうだなんて……
 だから僕は表面的には、いつも通りを装っていたけど……
「霧島マナです」
 この日、三人の転校生がやって来た。
「ムサシ=リー=ストラスバーグです」
「浅利ケイタです」
 僕の顔はやや引きつっていたと思う。
 どういう顔をしたらいいのか分からなかったからだ、と、マナが僕に気が付いて小さく手を振って来た。
 それに気が付いたんだろう、ムサシ君がややきつい目を向けて来た。
 ……無事だったんだな、彼も。
 でもどうして浅利君まで?
 彼は戦自に捕まったままのはずじゃあ……
 それを考えた時に、酷くやっかいなことが周囲で動いてる気がした。
 だって第三新東京市は、入るだけでも特別パスの発行を待たなくちゃいけない状況にあるんだ、そこに、転校だって?
 何か裏があるに決まってる、そう思い至った時、僕の考えは以前に立ち返っていた。
 ……関わらない方がいい。
 僕は逃げる事に決めてしまった。


「大体おかしいわよ、同じクラスに三人も転校生だなんて、他のクラスの人数知ってる?、うちだけ変に多いのよ」
 アスカの言い分はもっともだった。
 学校帰り。
 マナは何かと僕に話しかけようとしていた、でも、それを許さないのはクラスメートだった。
 以前も居たマナが戻って来た、それはいい、けどあの時はろくに誰も話しかけたりはしなかった。
 それはマナが僕にやたらベタベタしようとしていたからだ。
 でも現在、僕の隣はアスカと綾波が固めている。
 二人の敵視する目にマナは躊躇していた、それがみんなに捕まる結果に繋がった。
 僕はこれ幸いと、休み時間ごとに便所へと逃げ込んでいた。
 ムサシ君も何か言いたそうだったな、ま、ロクなことじゃないのは間違い無い。
 浅利君はどういうつもりなんだか、無愛想なムサシ君のサポートに回って愛想を振りまいていた。
「やっぱりあれね?、戦自のスパイ!」
「またぁ?」
「他に何があるってのよ?」
 アスカは剣呑な目つきを作る。
「まさかあんたに会いに帰って来たとか思ってんじゃないでしょうねぇ?」
 うっ、綾波まで目が恐くなってるよ……
「そうじゃなくてさ……、戦自が僕達を見張ってどうするんだよ」
「あんたバカァ!?、チルドレンはね?、それだけで……」
「重要って言いたいんだろう?」
 僕は深く溜め息を吐いた。
「なによ?」
 その瞬間、僕は色々な事を考えていた。
 これからも一生こんな感じなんだろうか?
 近寄って来る人みんなを疑って、見張られてるって事を意識して。
 重要だから大事にしてくれるの?、そんなの僕は望んでないのに。
 それじゃあ前と同じじゃないか、必要なのはパイロットで、僕じゃあない。
 だからかもしれない、僕はアスカや綾波は大事にしたいと思うけど、やっぱりネルフの人達とは仲良く出来ないでいる。
 表層的な付き合いは出来ているけど、それは父さんに対した時と同じような物だった。
 確かにカヲル君が言ったように、絶対的な自由と言う物は死なないと得られないのかもしれない。
 でも、僕が望んだのは人との付き合いの中で得られる温もりだから……
 だから逃げ出すわけにはいかないんだ。
「シンジ君?」
 僕はその声にハッとした。


「マユミ、さん?」
 僕は固まった二人を置いて一歩前に進んだ。
 そこにはネックの長いノースリーブの服と丈の長いスカートを穿いたマユミさんが立っていた。
 色は全部……、靴下も、靴も黒だったけど、それは彼女の髪の色によく似合う雰囲気を作っていた。
「帰って来てたの?」
「はい」
 マユミさんは嬉しそうにはにかんでくれた……、嬉しそう?
 まあいいや。
「さっそく本を買いに来たんだ?」
 マユミさんが抱いてる紙袋に目を細める。
 好きなんだな、やっぱり。
「何を買ったの?」
「え?、あ、ちょっと……」
 なに赤くなってるんだろう?
 ……詮索しない方がいいか。
「学校は?」
「あ、はい……、明日から」
「そっか……、また同じクラスになれると良いね?」
「は、はい!」
 その元気の良さがおかしくて……
 僕はついつい、笑ってしまった。
 その後の……、マユミさんが帰った後の二人の追及は、ちょっと辛いものがあったけど。
 どうして二人とも、僕が誰かと付き合おうとしないその理由を分かってくれないんだろう?
 僕は少しだけ不満だった。



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