「シンジ!」
ちょっと怒ったような声。
「霧島さん……」
「もう!、マナって呼んでってば!!」
屋上……
いつだったかな。
初めて会った時もこうしていたよな。
ふてくされながらも、マナは僕の隣で柵にもたれた。
「……いいの?」
「なに?」
「……ムサシ君に怒られるんじゃないかと思って」
キョトンとした後で……、マナは急に焦るような声を出した。
「だからっ、ムサシとはそんなのじゃないって!」
「そうかな……」
「そうよ!、どうしてそう言うこと気にするの!?」
「どうしてって……」
「ムサシとはなんでもないの!、あたしが好きなのはシンジだけって……、初めてだったんだからっ、あのキス!」
ガタンって……、え?
「ムサシ!」
アスカ?、綾波まで……
「覗いてたのか」
「お、お、お、お前!」
「なに?」
「マナに……、マナに、どういうつもりだ!」
「どうって……」
答えられないよな。
「こっちを向け!」
「わかったよ……」
面倒臭げに振り向いた僕の頬に……
ムサシ君の拳がめり込んで来た。
「いて、痛いって……」
「自業自得よ!」
綾波の目は冷たいな……
意外な事にアスカの方が平然としてた。
「ごめんなさい!」
「あんたが謝ること無いじゃない」
……マナには冷たいか、一応は。
「そうだけど……」
「なによ?」
「怒ってないの?」
「妬いてるわよ、ちょっとはね?」
アスカ?
「でもねぇ、あんた達、どこでキスしたか忘れてんじゃない?」
あ……
「覗いてたの?」
「た、たまたまよ、たまたま……、その、トイレに行って」
うろたえちゃってまぁ……
「覗いてたんだ」
マナもジト目になった。
「しょ、しょうがないでしょ……」
「なにが?」
「あの頃のあんたって……」
ああ……
そういうこと、か。
「そうだね?」
「そうよ……」
むぅって……
綾波とマナの両方から不満の声が聞こえた。
「何わかり合ってるのよ!」
「はん!、あんたとは絆の深さが違うのよ!!」
「絆って……」
「碇君……」
「っと、綾波?」
ピトッとくっついて来た……、まあいいか。
二人ともケンカに夢中で、気が付いてないみたいだから。
ムサシ君、本当にマナが好きなんだな、僕にはそこまで思い詰める事が出来ないよ……
もしアスカや……、綾波に恋人が出来たら?
きっと僕は、いつもと同じように落ち込んで。
いつもと同じように、笑うんだろうな。
嫌われたわけじゃないからって。
そんな僕は情けないんだろうか?
でも誰か一人に愛してもらうなんてできない、だって。
それじゃあ、その人に嫌われたら終わりじゃないか……
父さんみたいに、好きな人が一人居なくなっただけで、全てを無くしてしまうなんて堪えられない。
こんな臆病な想いを……
僕は誰かに、酷く分かって欲しかった。
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