INTRODUCTION
 そんなこんなをくり返していても……
 日常はきっかり過ぎていくわけで。
 楽しい事が続いた日々にも……
 陰りはきっちりとやって来た。
「碇君ってさー」
 そんな無駄話から始まった。
「もてるよねー?」
 昼食、アスカ達のグループか……
 そういうのは僕の居ない場所でやって欲しい。
「そうでもないわよ?」
 否定したのはアスカだった。
「ほら、外から来てる連中いるじゃない?、だぁれもシンジに気付かないの」
「碇君ってそこらに居そうだもんねぇ?」
「そうそう」
 ほっといてよ、もう……
「シンジぃ……」
「同情せんで?」
 しなくていいよ。
「で……、碇君って、誰が本命なの?」
 息を飲むのが分かっちゃったよ……
「っい、いいじゃない、そんなの」
 意外な事に、護魔化してくれたのはアスカだった。
「アスカってシンジの趣味じゃないもんねぇ?」
「マナ!」
「あ、図星指しちゃった?」
「あんたいい加減にしなさいよ?」
 ……ケンカになりそうな雰囲気だな。
 でもアスカ、なにをそんなに怒って……
「だぁってシンちゃん、いっつもアスカから逃げ回ってるじゃない」
「……そりゃあんたも同じでしょうが」
「そうなのぉ……、シンジってデートにも誘ってくれないし」
「当たり前でしょうが!」
「そうかなぁ?、あたし前にデートしてもらったことあるもん」
 ……恐いのはムサシ君の視線だな。
「シンジ……、明るくなったなって思ってたけど、ちょっと冷たくなってない?」
 え?
「前はもっと……、話しかけてくれたり、世話やいてくれたりしてくれて……」
 そう……、そうだっけ?
「カッコ良かったなぁ……、シンジ」
 何思い出してるんだよ……
「でも今のシンジって……、ちょっと情けないし」
「だったら、追いかけ回すのやめなさいよ」
「それとこれとは別!」
「なんでよ?」
「あたしの愛は不滅なの!」
「あっ、そ……」
 アスカの気遣う視線を何故か感じた。
 僕……、僕は。
 マナの言葉が、頭の中でグルグル回っていた。
 優しい?
 優しいってなんだろう…
 僕は優しくしてもらいたいだけなんだ。
 人に何かをして貰いたい。
 だからみんなが居なくなるのは嫌なんだ。
 もう独りぼっちになるのは嫌なんだよ。
 不意にあの、寂しい光景が蘇って来た。
 赤い湖。
 何も無い浜辺と、血の色の空。
 アスカにまで嫌われて……
 僕はたった一人になった。
 もうあんな所へは行きたくない。
 もしまた、あんなことになるくらいなら。
 死んだ方がマシだ。
 これまでの僕はそう考えていた。
 じゃあ……
 幸せになった今の僕は、どう考えているんだろう?
 僕に僕自身の考えが、実は全く変わっていない事に気が付いた。



[BACK][TOP][NEXT]