INTRODUCTION
 ネルフに父さんが帰って来た。
 それだけでも大事だった。
 リツコさんも復職した。
 マヤさんはとても喜んだ。
 僕も喜んだ。
 リツコさんは僕に味方してくれたから。
『シンジ君、S機関の出力、もう少し下げられる?』
 僕は静かに集中した。
 母さん、母さん……
 また甘えるよ?
 僕は静かに目を閉じた。
 辛い、苦しい……
 胸が張り裂けそうだよ……
 掴まれたみたいに、重苦しいんだ。
 泣きたい、でも泣くわけにはいかない。
 慰めてもらいたいんだ。
 でも甘えるわけにはいかない、これ以上は。
 そう、みんなには。
 だって、これから先、なにもなかったら?
 ずっと平和だったとしたら?
 僕には……、僕には返せる物が何も無いんだ。
 冷たいって……、マナは言ってた。
 だって僕に何ができるっていうんだよ?
 何をして上げられるんだよ?
 僕に出来る事は何も無い……
 だから恩は受けられない。
 ただ……
 S機関と、ダミープラグ。
 ダミーシステムじゃない。
 プラグだ。
 リツコさんは言ってた。
 いつかそれは完成するって。
 例えカヲル君が関係しなくても。
 いつかはって。
 その証拠に、今だに開発が中断されない、無理にでも研究を継続しようとしているって。
 ケンスケの話には穴がある。
 それがその二つだった。
 最高機密の一部だ、リツコさんが明かしてくれた真実の一つ。
 だから対抗できる力を身に付けるためにも……
 あ……
 アスカと……、綾波?
 学校サボって来たのか……
 リツコさんとケンカ始めてるよ。
 リツコさんの目線を受けて、僕はシステムを一旦落とした。


「なに考えてんのよ!」
「怒鳴らないでよ……」
 パイロットルーム……
 男子用なのに、アスカも綾波も遠慮が無いよな。
「何とか言いなさいよ!」
「……言うことなんて無いよ」
「どうして!」
 泣かないでよ、なんで泣くんだよ?
「どうして、今更エヴァに、そんなに!」
「碇君……」
 綾波の探るような目は……、苦手だ。
「何を恐れているの?」
 護魔化せないよな……
 綾波には、弱い所も見せてるし。
 でも下手な事は言いたくない……
 気持ちを話したくは無い。
 心配……、されてしまいそうだから。
「わたしが命じた」
「父さん……」
「司令!?」
 急に入って来た父さんに、アスカは驚き、綾波は脅えるように僕の陰に隠れた。
 ……ちょうどいいや。
「父さんが憎まれることは無いよ」
 僕はわざと誤解を招いた。
「僕が父さんに、戻って来てもらったんだから……」
 ビクンと……
 綾波の反応が感じられた。


 あれ以来……
 僕のしたことを話して以来。
 アスカは僕と二人きりになるのを避けていた。
 それでも綾波が居たから、余り変わりないように見えていた。
 三人にはなっても、二人って言うのは中々無かったから。
 アスカ自身も、気が付いてない様な態度だった。
 でも……
 綾波も僕が恐くなったのか。
 いなくなってしまった。
 望んだ通り……
 僕は一人になってしまった。
 そうなろうとして、こうなったのに……
「寂しいよ……、母さん」
 母さん、と言うのは付け足しだ。
 カヲル君のアスカの話を聞いたから、わざと母さんに甘える自分を作ろうとしてる。
 今の所うまく行っているのか、シンクロ率が下がる様子は見られない。
 いや……
 もともと下がってはいなかった。
 ってことはだ……
 僕はまだ、母さんに甘えてて、アスカ達には心を開いていなかったんだ。
 カヲル君だっていたはずなのに。
「なんだ……」
 自嘲気味に呟いてしまう。
「悪いのは僕なんじゃないか……」
 そうだ。
 そうだったんだ……
 アスカでも、綾波でも、カヲル君でも……
 希望に、縋れる人は居たのに、僕は……
 僕は向けられる好意に甘えてるだけで、何もしていなかったんだから。
 僕はあの新しい部屋を出て……
 再びここに、ジオフロントに戻って来た。
 最初にここに入った時のように、荷物なんて何も無い。
 その内、下着ぐらいは買って来ないとな……
 懐かしいシーツを抱きしめるように丸くなる。
 ここは暗いし、寒いよ……
 でも。
 決定的な何かを無くさないために。
 今は堪えなければならいと感じていた。



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