「だから……、だから!」
アスカは激しい慟哭を抱えていた。
自室で、机の上で髪を掻きむしるようにして頭を抱えて、泣いていた。
「だからやめろって、言ったのよ、あのバカ女!」
罵声の対象はマナであった。
(趣味とか、趣味じゃないとかっ、シンジにそういうの、考えさせちゃいけなかったのに!)
人間そう簡単に変わるものではないことをアスカは知っていた。
(シンジは!、向けられる好意は受け入れてくれるようになったけど!!)
与えるのはとても下手なままだから。
それを意識させた途端に……
具体的な何かを求めた瞬間に。
こうなる事が分かっていたから……
「あたしは、あの女だって!」
レイの事だ。
二人の願いは共通のものだった。
ただ、見ていて欲しいと……
なのに。
「あの女!」
アスカには許せなかった。
そんなことも、シンジの事など何もわからずに、知りもしないくせに。
シンジにねだったのだ、シンジがかまってくれないなどと。
シンジが相手をするのは、自分達がじゃれに行った時だけだったが、それで十分な事だった。
(だってあいつは……、嫌がってても、逃げなかったもの)
ぶつぶつと文句は言っても、かならず遊んでくれたから。
その小さな幸せは、シンジと同様に壊したくは無い物だったのに。
「あいつがぁ!」
泣き混じりの声で叫ぶ。
シンジは……、自分達に何かを返そうとするだろう。
自分にだけ、あるもので。
アスカには手に取るように分かってしまった。
『人を好きになるのはやめたって……、人を好きになると辛い事ばかりだから、好きにならなきゃ裏切られる事も無いから』
では今は?
(シンジぃ……)
アスカは寂しさからむせび泣いた。
裏切られないためには、捨てられないためには……
自分から何かをしなくてはならない。
それは今のアスカの立場だ、だからよく分かるのだ。
シンジも同じことを考えただろうと。
そしてあの不器用な少年は……
今だに何も分かっていないのだから。
どんなものを自分達が嬉しいと感じるのか?
何も分かってはいないのだから……
だからアスカには、彼を止めることはできなかった。
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