「うっ、うう……、う」
ここにもまた一人、泣いている女の子が居た。
「い、かりくん……、いかり、君」
彼女の感情を端的に説明するのなら、『裏切られた』、この言葉に全てが集約されてしまっていた。
綾波レイには泣くことしかできなかった。
あの夜……
ゲンドウに酷い事をされた時に慰めてくれたシンジの激しい情熱も。
あの日……
最後の戦いの後、相対するゲンドウから守ってくれた、戦ってくれたシンジの態度も。
まるで全てが嘘であったと、自分を手なずけるための演技であったのだと……
手の内を明かされたような心境であった。
「うう、う……」
だけど……、と。
レイはまだ、シンジを信じようと努めていた。
あの時……
『側に居てくれるから……、嬉しくて』
シンジは確かに甘えて来たのだ。
縋って来たのだ。
何かに……、堪え切れなくて。
それは弱さだ。
今は隠してしまっているシンジの本質……
本当の心。
(碇君……)
レイはそんなシンジを掻き集めていた。
今のシンジは、本当のシンジでは無いと信じて。
レイの望むシンジを、必死になってより集めていた。
「よろしいのですか?」
「ああ……」
総司令執務室。
以前は冬月も居たものだが、現在では追い出してしまっている。
ここに居られるのは、今はリツコだけになっていた。
「君こそいいのか?」
「はい?」
「……わたしの命は、君に預けている」
「こうしている方が、あなたらしくて良く思えますから」
「そうか……、そうだな」
二人はお互いに微苦笑を浮かべたが、その心中はシンジのことで埋まっていた。
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