「もう二週間か……」
「シンジがこうへんようになってからか?」
「そう言う事」
二人の視線は、自然と同居人であるカヲルへと向かう。
しかしカヲルは険しい顔をして、肩をすくめただけだった。
「そっか……」
遊びに行っていたケンスケである。
シンジが出ていってしまったことは知っていた。
「そやけど、何考えとるんじゃ、あいつは!」
憤慨する声、だが決定的な物は嫌悪感では無く、案じている物である。
以前アスカに叩かれたことから、シンジが何を考えているのか、悩むようにはなっていた。
「あいつらもあの調子だしなぁ……」
ケンスケはアスカ達をなめるようにカメラで捉えた。
昔に似た、殻のようなものに閉じこもっている綾波レイ。
アスカは……、どこかそっけなく、マナに対してはあからさまに避けるような態度を取っていた。
マナはシンジが学校に来なくなったことと、そしてアスカの態度にわけが分からず悶々としている。
いつもと変わりないのはマユミぐらいなものであろう。
だが良く観察していれば、ちらりと視線がシンジの席へ横向くのが確認できた。
「今度は何やらかしたんだ?、あいつ……」
ケンスケの疑問はもっともだった。
世界はとても平穏で……
何も起こってはいなかったのだから。
「シンジ君、頑張りますね?」
「そうね……」
マヤの明るい声に、リツコは冴えない表情で答えた。
「でも……、ここまでする必要あるんですか?」
「備えはね?、いつも必要なのよ……」
「でも……、学校くらい」
「自分で言い出した事なのよ?、わたし達がとやかく言える問題ではないわ」
マヤは取り付くしまも無い言葉にキュッと唇を噛んだ。
リツコに進言した所で意味は無いと言う事だからだ。
(でも、シンジ君……)
マヤもまた、ネルフ本部内、自販機の前で寝泊まりしていたシンジに胸を痛めていた一人であった。
あの時のシンジと、今のシンジが重なるのだ。
(どうしてそこまで……)
思い詰めているのかが分からない。
そして同じような事を思いやっている女性が他にも居た。
ミサトである。
「あんたを連れ戻したのはシンジ君ってわけ?」
剣呑な目つきで睨み付ける。
「あら?、わたしはわたしの意志でここに戻ったのよ」
「嘘ね」
「ミサト……、いい加減その目はやめて」
ミサトの目は、相変わらず断罪する物だ。
まともにリツコを信じるつもりは無いらしい。
「シンジ君のあれ、異常だわ?」
ミサトは言う。
「似てるのよ……、ここへ来た頃に、思い詰めて、エヴァにのめり込み始めた頃に……」
「アスカが危ない目に合った頃に?」
ミサトははっとするような顔をした。
「アスカが?」
「いえ……、シンジ君が恐れているのは、全部よ」
「全部?」
「そう……」
リツコは少しだけ明かした。
「せっかく手に入れた幸せだもの……、失いたくはないでしょう?」
その台詞は、酷く納得できる物をミサトへと伝えていた。
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