アスカはシンジ、カヲルと共に、午後から学校へ登校した。
「碇君っ」
レイはアスカを押しのけるように飛び付き、その腕に噛り付いた。
いつもの怒鳴り合いが始まる。
皆そう身構えた。
しかし何も起こらなかった。
アスカは、勝手にしなさいよといわんばかりの態度で背を向けた。
「ヒカリぃ」
手を挙げて歩いていく。
「シンジぃ、ふられたのか?」
ケンスケが引きつりながら皮肉った。
どうせいつもの喧嘩だと思ったのだ、しかし。
「そうみたいだね」
シンジの返答は波紋を呼んだ。
バシャン!
水しぶきが上がる。
六時間目は水泳だった。
「アスカ」
「なに?」
「泳がないの?」
「気分じゃないから」
「そう……」
アスカの『ズル』を見逃す程度のゆとりをヒカリは持っていた。
二人並んで、ベンチから運動場へと視線を投げかける。
「おらシンジぃ、死ねやぁ!」
トウジの蹴ったボールをシンジがダイレクトに蹴り返した。
正確には反射的に足が出ただけだったのだが。
「カウンターシュート……」
「これは死んだね」
顔面にサッカーボールの直撃を食らって、トウジはぐらりと崩れていった。
「アスカ……」
「なに?」
「碇君と、喧嘩でもしてるの?」
「してないわよ?」
なんでそんな事を聞くの?、と、アスカは本当に分かってない風情で聞き返した。
「あたし、変?」
「う、ううん、そんなことないけど」
「ならいいじゃない」
ね?、と微笑むアスカに、ヒカリは更に違和感を募らせる。
(あたし達って、そんなに仲良かった?)
正直、これまではシンジのことがあった。
以前の、シンジを苛めていたころのことを忘れてはいなかった。
だからアスカは何処か自分達に睨みを利かせていた。
それは今でも変わっていないはずなのに、今日はやたらと馴れ馴れしい。
それもシンジの事になどお構いなしだ。
だがヒカリには、具体的に差違を説明できなかった。
[BACK][TOP][NEXT]