はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ…
 うわあああああああああああ!
 絶叫と共に目を開く。
 体を反らせるだけ反らし、肺の中の空気は全てを声に変換された。
「あ…」
 ようやく瞳に正気が戻る。
 夢か…
 ふと部屋を見渡した。
 自分の部屋だ、対地球外生命体対策本部「ネルフ」にある宿泊施設の一室を借り切っている。
「綾波ぃ…」
 腕で目を覆い隠し、ついでに夢で見た惨劇からも目を逸らす。
「どうして死んじゃったんだよ…」
 最後を見たわけでも無いのに、シンジにその光景が現実のものだと知っていた。


ウルトラマンエヴァ 第三話『来訪編』


「こら起きろ、バカシンジぃ!」
「うわぁ!」
 シーツを引っ張られて転がり落ちる。
「ん〜〜〜」
 目をこすりながらベッドにもたれると、さらなる怒声が降って来た。
「まったくこのあたしが起こしてあげてるってのに、どういうつもりよ!」
「どうって…」
「あんたがそんなじゃ困るのよ!」
「…だって夕べも遅くまでさ?」
「あまーいっ!」
 アスカはビシッと指差した。
「このあたしがしろってんだから、頑張るのが当たり前でしょうが!」
「うん…」
「それにあたしとあんたはもう他人じゃないんだからね!」
 ずがたん!
 換気扇の向こうで何かが驚く音がした。
「…ネズミかしら?」
「最近多いんだよね」
 二人はそのネズミが眼鏡を掛けている事を知らない。
「とにかく!、そのあんたが情けないんじゃあ、このあたしが恥ずかしいのよ!」
 アスカは切れる寸前なのだが、寝ぼけているのかシンジは一向に気がつかない。
「でも良いじゃないか…、どうせ誰にも話せないんだから」
「そう言う問題じゃ無いわよ!、まったく…、どうしてこんな奴に上げちゃったのかしら?」
 くうっと光る眼鏡の奥で涙が溢れる。
 それでも記録は続けるようだ。
「とにかくっ、さっさと起きて準備をする!」
「え?」
「今日は一日、付き合ってもらうわよ?」
 そのとろけさせるような微笑みも、「今日は早く寝かせてよねぇ?」っとシンジにはまるで通じてなかった。


 ネルフエースパイロットと一衛生兵の恋!
 そんな噂が駆け巡るのに、そう時間はかからなかった。
「な、な、な、なによそれぇ!」
「ちょっとアスカ、静かにして!」
 もがが!っと口を塞がれる。
「ごめん…、じゃないわよ!、なんであたしがシンジなんかと!」
 食堂で働く洞木ヒカリと、ヒソヒソ小声でぶつかり合う。
「だって朝から晩までべったりで…、ねえ?、ほんとに違うの?」
「当ったり前じゃない!、あたしは司令の命令で相手をして…」
「はいはい、そう言うことにしておきましょうか?」
「ちょっとあのねぇ!」
 こそっとヒカリは耳打ちする。
「あのね…、ここだけの話なんだけど、碇君って結構人気あるのよ?」
「うそ!?」
「なにしろ衛生班の中じゃ一番可愛いって…」
「そ、そうなの?」
「結構指とか細いでしょ?、包帯とか巻いてもらっててドキドキするとか…」
 そこでヒカリはニヤッと笑った。
「…アスカ、赤くなってるわよ?」
「え!?」
「耳まで真っ赤、そっか、アスカも…」
「ち、違うわよ、何言ってんのよ!」
 まったくもう!
 プイッとそっぽを向いて頬杖をつく。
 パイロットであるアスカが怪我負えば、普通は衛生兵の世話になどならず、治療室へ直行となる。
 そんなのあたしは知らないわよ!
 アスカは純粋に恥ずかしい話に赤くなっていただけだった。


 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…
 トレーニングルームで、シンジはひっくり返っていた。
「…綾波」
「今日のスケジュールを伝えます」
 シンジは正規のスタッフとして登録されている以外の特殊任務をおびていた。
 それはこうして、同じ特殊隊員であるレイから直接伝え聞く事になっている。
「本日木星圏に新たな宇宙怪獣の来襲を確認、各パイロットは直ちに迎撃態勢を整えること」
 シンジは起き上がると、うなだれたままでレイに尋ねた。
「…ねえ?」
「なに?」
 メモを閉じるレイ。
「綾波は恐くないの?」
「……」
「そっか」
 シンジは勝手に納得した。
「じゃ、先行くから」
「綾波!」
 強く叫んで呼び止める。
「…あの、守るから」
 僕が、守るから。
「だから…」
「ありがと」
 え!?
 レイの頬が赤くなっているような気がした。
 シンジは驚いて、それ以上言葉を紡げなかった。


 宇宙怪獣来襲、シンジはパイロットルームでアスカとレイから作戦会議での内容を伝え聞いていた。
「いつも通りよ、通常兵器で攻撃、通じない場合はウルトラマンエヴァに出動を願う、まったく芸が無いったら…」
「使徒獣で無い限りは衛星軌道上に配備された宇宙ステーション『トール』のトールハンマーで何とかなるからね?」
「あれも危ないわよ、いっくら大出力ライフルのためだからって、直径一キロもある原子力発電施設を作るだなんて…」
 そこから撃ち出される電気の力、陽電子砲は確かに通常の怪獣である限りは撃退に成功していた。
「地上に降りて来た怪獣はまず間違いなく使徒獣なのよ?、こんなちゃちな兵器効くわけないんだから…」
「己の手で戦い続けなければ、死を受け入れたのと同じことだわ」
「だからあたしは頑張ってるでしょ!」
「そ、そうだよね?、だけど十五年前には普通の怪獣にもどうしようもなかったんだよ?、それを考えればみんな頑張ってるって事じゃないのかな?」
 ピンッと、シンジはおでこを弾かれた。
「当ったり前でしょ!、でなきゃ人間なんて守る価値が無いわよ」
 スッとレイは立ち上がった。
「なら…、碇君は守る価値があると言う事ね?」
 命を分け与えてまで救ったのだから。
「あ、あ、あ、あんた何言ってんのよ!」
 動揺する。
「事実確認…」
 シンジを見る。
「碇君は、最後に守ってくれるから」
「ブラコン!」
 アスカはべぇっと舌を出した。


 ブラコン、か…
 飛び立つジェッターを、シンジは本部中階にあるロビーから見送った。
 レイとは兄妹のように育って来たが、それも幼い頃の話だった。
 人類をかくまう大地下シェルター、その地上部分にはネルフの本部、あるいは支部施設が配置されている。
 シェルターの生命維持機関だけでも人出は足りない、学校は無駄な事を教える場では無く、生き残るために必要な知識を詰め込む場所となっていた。
「はっはっはっはっはっ…」
 ザッザッザッと足の音が揃い、グラウンドを行進している。
「シンジ、大丈夫かいな?、顔青いで…」
 喋る気力も無いのか、シンジは空気を求めて喘いでいる。
「ようし、それじゃあ五分休憩する!」
 担当教官が声を出し、シンジは助かったとばかりにへたり込んだ。
「…シンジぃ、そんな事やとパイロットにはなれんで?」
 寝っ転がったまま、シンジはへらへらと手を振って答える。
「いいよ…、ぼく衛生兵に志願するつもりだし」
 なんや?、とトウジは驚いた。
「てっきりシェルターの管理機構へ行くもんやとおもっとったけど…」
「あんな凄いとこ、僕には無理だよ」
 来年には十三歳になる、シンジ達はそれぞれ働きに出なければならないのだ。
 無駄に生かしておけるだけの余裕は無い、それが人類の現状だった。
「そやけどオヤジさんのコネとかあるやろ?」
「父さん?、もう随分会ってないよ…」
 空は無い、ジオフロントの天井は巨大な照明施設と明り取りの窓で構成されている。
「綾波は会ってるみたいなんだけどさ?」
「綾波か?、そう言えば今日は来とらんようやけど…」
 二人でプールの方を見る。
「適性試験、なんでも新型シュミレーターで空中感覚がよかったからって」
「そやけど体があかんやろ?」
「うん…」
 その細身の通り、レイの体が戦闘機のGに絶えられるかどうかが妖しいのだ。
「でも仕方が無いよ、パイロットは一番欲しがられてるんだし…」
「かあああああ!」
 頭をがしがしっと掻く。
「なに情けないこと言うとんねん、お前兄貴やろ!」
「え?」
「自分の妹が駆り出されるっちゅうのに、自分は見とるだけかいな!」
 キョトンとした顔でトウジを見る。
「…えらいね、トウジは」
「なんやねん急に?」
「うん…」
 シンジはちょっと口ごもった。
「トウジみたいなのがお兄さんだったら、レイももっと違ったのかなって…」
 シンジは人が苦手だった。
 そのほとんどは父のせいであるとも言える、司令官である父はその威厳と畏怖を家庭内でも崩さない。
 恐いんだよなぁ、父さん…
 そのために顔色を窺う癖がついていた、妹にまで。
「…綾波って何考えてるか分からなくて」
「分かりやすい方が良かったっちゅうんか?」
「どうなんだろ?、その方が嫌だったかも」
「あん?」
「僕…、嫌われてるからね」
 綾波には。
 だからシンジは、レイを名前で呼べずにいた。


 戦闘が始まった。
 敵は黄金の翼だけで構成された使徒獣だった。
 何故?
 あんなことを言ってしまったのだろう?
 それまでレイは、何もシンジに期待していなかった。
 嫌い、そう、嫌いだったのね…
 いつも脅えるような目で、卑屈な表情を作っていた。
 なぜ?
 決まっている。
 あの人を、取られたくは無かったから…
 大丈夫か、レイ!
 引き取られて間もない頃に、レイは暴走して変身していた。
 人のサイズのままで、レイはおのれの中の力と記憶に苛まれ、自らの体を引き裂こうとした。
 それを身をていして抱き留めたのがゲンドウだった。
 だから信頼する、だから守る。
 だがシンジは違った、違っていた。
 いつも距離を置いて遠ざかる。
 遠くから様子を窺っている。
「そうね…」
 敵の速度がそれほどでも無いのを感じ、一気に追い抜く。
 あれはわたし、わたしの目に脅えていた…
 シンジを敵と見ていたから。
 人類が怪獣に脅えるように、シンジはレイに脅えていた。
 なら、今は?
 シンジとは命と言う絆で繋がっている。
 シンジは守ろうとしてくれた。
 これは罰、わたし自身にかせられた罰。
 シンジを傷つけた、その償いはしなければいけない。
 だから戦うの、わたしのために。
 レイは至近距離から、Nミサイルを叩き込んだ。


 ゴゥン!
 着弾と同時に巨大な光球が空中に生まれた。
 キュルルルル!
 甲高い泣き声を上げながら、鳥が地上へと落ちていく。
 ドザァ!
 人類衰退後、原生林に帰ったとある街へと墜落する。
「レイは?」
 赤木が確認する。
「ジェッターは蒸発しましたが、直前に脱出を確認しています、爆発に巻き込まれていなければ…」
「なら大丈夫よ、回収班を回しておいて」
 もっとも、見つかるのは怪獣を倒した後でしょうけど…
 胸の内で密かに呟く。
「アスカは?」
「N爆弾の投下準備に入りました…、あ!」
 オペレーターの動きが慌ただしくなった。
「ウルトラマンエヴァ、ですが」
「なに?」
「もう一体、これは!?」
 いつもの青いウルトラマンエヴァが怪獣を押さえつけに走った。
 ドズゥン!
 その背中に、別の白いエヴァが取り付く。
「あれは…」
 もんどりうって倒れるレイ。
 アスカは自分の目を疑った。
「あのエヴァは!」
 古い記憶が蘇る。


「あたしと一緒に死んでちょうだい」
「いや、ママ!」
「アスカ、お別れね?」
「いやぁ!、あたしはママと!」
 アスカそっくりのウルトラマンエヴァが、白いエヴァに組み付いた。
 グッ、ググ…
 だが白は赤の首に手をかけ宙吊りにする。
「あ、がぁ…」
 もがくが手は外れない。
 アス、カ…
 ゴォオオオオオオオオオオオオン!
 大気を歪めるほどに巨大な翼が広がった。
 その力に星が壊れ、崩れ始める。
 残ったのはアスカだ、アスカは不思議な黒い光に包まれ放り出されていた。
「ママ、ママー!」
 だがどんなに叩いてもその壁は破れなかった。
 母が散る姿に、アスカは涙を流すしか無かった。


「何処から出て来たのよ!?」
 アスカは空中を旋回しながら目を剥いていた。
 似てはいるのだがウルトラマンエヴァとは何処かが違う。
「あの羽はなによ!」
 カラスのような翼を広げ、死肉に群がる様にレイに襲いかかっている。
 冗談じゃないわ!
 レイはまだ生きているのだから。
 自分のイメージに嫌悪する。
「…アスカ、下がりなさい」
「え?、でも!」
 アスカは非常脱出用のレバーに手をかけていた、そのまま変身するつもりだったのだ。
 記憶と寸分違わぬ敵。
 そして記憶に無い姿を見せる敵。
「作戦を立て直すわ」
 使徒獣も再び飛び立とうとしている。
 くっ!
 操縦桿を引いて高空へ待避しつつ、レイにはテレパシーで語りかける。
 レイ、下がって。
 だが返事が無い。
 レイ!
 だめ…
 弱々しい返事が帰って来た。
 わたしがいなくなれば本部へ飛ぶつもりよ、それは、だめ。
 レイ!
 死ぬつもり!?
 もうすぐリミットの三分を過ぎてしまう。
「早く逃げて!、早く!」
 嫌ぁ!
 母の死とシンジの死がレイにも重なる。
 碇君を…
 弱々しい思念の後、カッ!っとまばゆい光が放たれた。
「レイ!」
 通信機から取り乱した声が聞こえた。
 アスカはゲンドウだと気がつかない。
 構成素材の限界から、肉体を成していた物質が崩壊を起こしたのだ。
 無理に形を変えられていた原子核が、そのねじれとよじれを解放する。
 内側に圧縮されていたエネルギーが外部へ向かって溢れ出た。
 レイは地上の太陽になった。
 ゴォオオオオオ…
 何も残っていない、すり鉢状に大地が溶けてしまっている。
 使徒獣もエヴァも消えてしまった。
 レイもまた。
「…帰還、しなさい」
 くっ!
 アスカは歯噛みをしながらも、命令に応じて機首を上げた。


「綾波が?」
 シンジは呆然とした面持ちでその話を聞いていた。
「そうよ!」
 ダンッと壁に押し付けられる。
「何が守ってくれるよ、自分から死にに行ってどうするのよ!」
「アスカ…」
「あんたがもっとしっかりしてれば…、あんたも戦いに着いて来てれば!」
「だって…」
 その物言いに腹が立つ。
「なによ!」
「僕は…」
 はんっと、アスカは笑い飛ばした。
「そうよね?、これであんたの嫌いな宇宙人は死んだわけよね?」
「アスカ…」
「後はあたしだけ…、あたしだけよ!」
 僕は…
 シンジはただ胸元をつかんで耐えていた。


 綾波レイ…
 シンジは記憶を探り始めた。
 何も知らないんだな…
 趣味も性格も。
 知っている様で何も知らない。
「家族なのに」
 思い出せない。
「アスカの言う通り、なのかな…」
「シンジ!」
 プシュ…
 扉が開く、顔を向けるとアスカだった。
「…なに?」
「ちょっと付き合って」
 シンジはアスカに引っ張り出された。


 二人が並んだのはレイ、アスカから正体を告げられたあの浜辺だった。
 あの日からシンジの運命は狂ったと言える、シンジは言葉を見付けられなくて、アスカの背中を見る事もできなかった。
「…あたし、行くわ」
「え?」
 急な展開に着いていけない。
「行くって…」
「冥王星の向こうにエヴァ軍団を感じたの」
「!?」
「あのエヴァよ…、はっきり言って勝てる見込みはどこにも無いわ?」
「なら、僕も」
「あんたバカぁ?」
 振り返ったアスカは泣いていた。
「あ、アスカ…」
「もう嫌なのよ、誰かが死ぬのは」
「そんなの僕だって!」
「あんたが死ぬのも嫌なのよ!」
「そんなのないよ!」
 シンジは叫んだ。
「僕が行かなかったから綾波は死んだんだろ?、ならアスカだってそうじゃないか!、アスカにだって死なれたくないよ!」
「あんたの命の半分はあたしの命が入ってんのよ?」
「…だから死なれちゃ困るの?」
「そうよ!」
「アスカ…」
「それだけよ、それだけなんだから!」
 カッ!
 赤い閃光に包まれた。
「アスカ!」
 さよならね。
「アスカー!」
 だがシンジの叫びは届かない、ただむなしく海の音にかき消されていく。
 シンジはアスカの姿を見失った。


 まだ基地は静かだった。
 エヴァ軍団は発見されていないらしい。
 あるいはアスカが倒しちゃったの?
 まだ接触もしていないだろう、戦いが始まれば嫌でもその余波は観測できるはずだから。
「…僕は」
 基地の屋上から空を見上げる。
 〜〜〜♪
 歌が聞こえた。
 旧世紀時代の歌だったが、シンジはあいにくと曲名を知らない。
「誰?」
「人はいいねぇ…」
 見た事も無い少年だった。
 白い服を着て、柵の上に腰かけている。
「命は尊く儚い、なのに失う事よりも大切なものを守ろうとする」
 彼はシンジと同じくらいの歳に見えた。
「迷いは後悔にしか繋がらない、君の悩みはここで晴らせるものなのかい?」
「君は…」
「カヲル、ナギサ星雲のウルトラマンエヴァさ」
「エヴァ!?、君が…、その」
「カヲルと言ったろう?」
「うん…、あ、そうだじゃあ知ってるの?、あのエヴァを!」
 カヲルはからかうように笑みを浮かべる。
「それを知ってどうするんだい?」
「え?」
「エヴァは一つの星雲に一人生まれる」
「生まれる?」
「そう、同じ力、同じ姿をしていても、真にウルトラマンエヴァとなれるのはたったの一人だけなんだよ」
「じゃあアスカは…」
「彼女も消えるべき定めにある、彼女を迎えるためにエヴァは舞い降りた」
「そんな!」
「エヴァ達は連れ去るつもりだよ、誰もいない世界へね?」
「で、でも別に良いじゃないか、なんで消えなくちゃならないんだよ!」
「星の力がウルトラマンの源だからね?、彼女の星雲は滅んだ、彼女の力はもう尽き果てる」
「だから迎えに来るの?」
「彼女もあのエヴァ達の一人になるよ、そして今度は君を迎えに来るかもしれない」
「嘘だ、嘘だ、嘘だ、そんなの嘘だ!」
「事実だよ…」
「アスカ!」
「行くのかい?」
「今からでは間に合わないかもしれない、けど!」
 カヲルは満足げに頷いた。
「ガラスのように繊細だね、君の心は」
「え?」
「好意に値するよ」
「好意?」
「好きって事さ」
 あ、ああ?、ああ!
 シンジの中から、とてつもない力が溢れ出す。
「何だよこれ、なんだよ!?」
「恐がることは無いよ、それは君自身の力さ」
「僕の!?」
「星雲の力が君の中に流れ込んでいる、でもそれだけじゃないね…、消えたはずの二つの世界からも、最後の力が届いている」
 アスカと綾波の!?
 シンジの体が勝手に変身を始めてしまう。
「僕はどうすれば…」
「飛べばいい、彼女の元に」
「カヲル、くん?」
 カヲルはうすら笑いを浮かべている。
「きっと間に合う、飛べばいいさ」
「ありがとう、カヲル君!」
 カッ!
 紫色の閃光。
 黄金の翼を広げたウルトラマンエヴァが、天を目指して飛んでいく。
「これでいい、さあリリス、君を消してあげるよ?、そしてアダムを返してもらう」
 カヲルは不敵な笑みを浮かべて基地の中へと消えていった。


 アスカの戦闘。
 シンジの飛翔。
 カヲルの呟きが漏らされたのと同時刻。
 基地最深部にある秘密研究施設にて、静かに目を覚ます者が居た。
 そこは様々な機械で埋めつくされていた。
 01、02、03と書かれたシリンダーが、機器の壁に埋め込まれるように立てかけられていた。
 シュコン…
 その内の一つ、02の扉が開く。
 03の扉は開いていた、中は空だ。
 01は閉ざされたまま封印されている。
 …白い足が見えた。
 細い指が縁をつかんで、ゆっくりとその裸体を光に晒す。
「…予備が壊れた」
 誰かが言った。
「行くぞ、レイ…、お前はこのために作られたのだからな?」
 こくん…、と頷く。
 黄色い液体に濡れた髪。
 赤い瞳はゼリーのように気味が悪い。
 綾波レイ。
 それは死んだはずの彼女であった。



続く






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