時に西暦2022年。
 碇シンジ、21歳。
 彼はエントリープラグの中で強く思った。
 もう一度、やり直したいんだ、みんなと…
 その願いは叶うかも知れなかった。

うらにわには二機エヴァがいる!
第弐話「見知らぬ、兄貴」

「凄い、400%を突破!、暴走、ありません…」
「シンジ君は!」
「出て来ます!」
 初号機、胸のコアから人がずるりと這い出て来た。
 今だ!
 一人飛び出した人物が居た。
「大丈夫か、シンジ!」
 司令!?
 みな動揺に、つい昔の感覚で呼んでしまった。
「シンジ、シンジ!」
 ずりずりと髭を擦り付ける。
 これだ、これなのだ!
 ちょっと顔を赤らめるゲンドウ…、だが。
「い、痛い、痛いよ父さん!」
「!?」
 凍り付くゲンドウ。
 プッ…
 誰かが吹いた。
「し、シンジ、お前記憶が…」
「うん、あの…、ありがとう心配してくれて…」
 左右、色違いの瞳がゲンドウを見つめる。
「あ、ああ…」
 照れながらも、一応離さない。
 シンジの顔も赤くなっていく。
 あれ?
 だがシンジはとまどった。
 どうしてこんなに胸がドキドキするのかな?
 同時にゲンドウも驚いていた。
 シンジ…、こんなに可愛かったか?
 腕の中には6歳ぐらいの男の子…、いや女の子、あれ?
「ちょ、ちょっとリツコ!」
「誤算だったわ…」
「こ、これは!?」
 そう!、シンジは男の子の象徴の他に、女の子のそれもあったのだ!
「どういうことかね?」
 頭痛を堪える冬月。
「はい…、エヴァは基本的に女性をベースに造られています」
「確か生産過程の問題だったな?」
「胎児は女性体で発生し、後に男性としての変位を開始するわけですが…」
「その途中で固定させる、女性体の方が生産は楽か?」
「その影響が出たのと、それに…」
 ユイ君か…
 同時にゲンドウも気がついていた。
 ユイに、レイに似ているな。
 その体を舐めるように見回す。
 その視線が気になったのか?、シンジは急にモジモジと身をよじった。
「と、父さん、恥ずかしいよ…」
「ああ…」
 自分の上着をかけてやるゲンドウ。
 何だろう?、恥ずかしいのに嫌じゃない。
 ちょっとユイが混ざって危ないシンジ。
「シンジ、よくやったな」
 なにがだー!
 この瞬間ゲンドウの権威は、地に失墜したも同然だった。


「あちゃー…、元々そっちの気があるとは思ってたけど」
「危ないわね」
 シャワーを浴びているシンジを監視している。
「ふけつ…」
 ミサトとリツコのそれが、ただの覗きであることは言うまでもない。
「あ、出て来たわよ?」
「ぷぷ、鏡で見入っちゃって、興味があるのかしら?」
「まさか?、アスカたちの世話だってしてたんでしょ?」
「あ、ポーズ取ってるポーズ、リツコ?」
「安心して、ちゃんと録ってるから」
 シンジは自分の全身が映る大きな鏡の前で、ちょっとだけ悩んでいた。
 ちょっと体が丸いや。
 古い記憶を蘇らせる。
 昔の自分はもっとガリガリに痩せていたような気がする。
 胸、膨らんでる、そう言えばアスカたちもちょっと膨らんでたっけ?
 比べて見る。
 負けてるかな?
 小学一年生で負けてるも何もないのだが気がつかない。
 ちょっと悔しくなってしまう。
 はっ!、なにを考えてるんだ僕は!、これから成長するんだから…って、そうじゃなくてさぁ!
 ごく…
 もう一度、今度は下を見やる。
 ほんとに、両方あるや…
 だが、その、なんだ、「ふぐり」がない。
 …精巣は体の中にあるとか言ってたな、リツコさん、子供は作れるってことか。
 ちょっとだけ安心する。
 でも産むこともできるって言ってたっけ?
 説明を思い返す。
「アスカ達の時にも言ったけど、純粋に同じではないのよ」
「99.89%って奴ですか?」
「そ、あなたの場合はその違いが、局部に集中しちゃったってことね」
「でもアスカたちは?」
「あの子達は元々女の子だもの」
「そっか…」
 中学生ぐらいになったらごまかせないよな…
 シャツに腕を通す。
 その頃には女の子っぽくなって…、トウジの所のトウタくんとか、結構カッコいいんだよな、将来はトウジみたいに男らしくなって…
 赤くなっている自分に気がつく。
「ち、違う、僕にそんな趣味は無いんだぁ!
「見てて飽きないわねぇ…」
 ミサトは腹を抱えて笑っていた。
 その直後であった、ネルフに小学校で使徒発生の緊急報告が届いたのは。


「あんた一体なにもんなのよ!」
 酷いやアスカ…
 シクシクと泣くシンジ。
「ぼ、僕はただ、助けようと思って…」
「それが余計なお世話だってぇの!」
「アスカ、レイ、シンジくん!」
 キキーッと「運動場でスピンターンを決める」ミサトのルノー。
「怪我は無かった?」
「ミサトおばちゃん!、こいつ知ってるの?」
「え、ああ…」
 なんて説明しようかしら?
 ちょっと迷った後、ミサトはニヤリと笑みを浮かべた。
 う、嫌な予感が…とシンジ。
「良く聞いてね、アスカ」
「え?」
 逃げられないように、アスカの両肩に手を置いて目を合わせる。
「この子、あなたのお兄さんに当たるのよ」
「ええー!?」
 アスカは露骨に嫌そうな声を上げた。
「ちょ、ちょっとミサトさん!」
 ミサトは隠れてほくそ笑む。
「ああ、分かってるわ、本当は黙ってるつもりだったってことも、その方がいいってことも、 でもね、分かって、嘘はいつかはがれてしまう物なのよぉ〜」
 悲劇的に酔うミサト。
「…楽しんでません?」
「ああ、そんな疑いの目を持つような子に育っちゃって、でもこれからは大丈夫、家族みんなで幸せに…」
「って、どういうことよ!」
「ミサトさん!、僕にあの家に住めって言うんですか!?」
「あら?、血の繋がった兄妹じゃない、当然よん☆」
 ニタリ。
 この人は…
 シンジは困ったようにアスカを見た。
 ぷい!
 そっぽを向くアスカ。
 やはりシンジは、嫌われてしまったようだった。


 2015年、あの日、あの何もかもが壊れたあの日。
「あたし、なんで生きてるの?」
 己の手を不思議に見つめるミサト。
「ここは…、ヘブンズドアの中?」
 他にも見た事のある人達が転がっていた。
 リリスの姿は何処にも無い。
 黄色い水に浮かんでいる。
「とにかく、生きてる…」
 そしてミサトは力を抜いた。


 ザザァ…
 波打ち際に押し寄せる、黄色く変色した芦の湖の水。
 横を見る、小さなレイが横たわっていた。
 青い髪の赤ん坊。
 だがシンジが間違えるはずは無い。
 それは間違いなく。
「綾波?」
 体を起こす、シンジはゆっくりと歩き出した。
 幼いレイを、その腕に抱いて。


 しばらくして、シンジは元ジオフロントであった場所に降りていた。
 黒い球体が半分ばかり姿を見せている。
 シンジは知らない事だが、一度空に舞い上がった後、降り落ちて来たのだ。
 半ば埋まっている…、と言った方が正しいのかもしれない。
 すり鉢状になってしまった第三新東京市。
 底へ向かってシンジは滑り下りていった。
 先に見えるのは食いちぎられ、焼けこげた弐号機の変わり果てた骸である。
 意味があったわけでは無く、また確信があったわけでも無かった。
 だがシンジは真っ直ぐにめざし、弐号機に取り付いていた。
 折れ、変形したプラグ、その中を覗き込む。
 おぎゃー!、おぎゃー!、おぎゃー!
「アスカ?」
 幼子が泣き叫んでいた。
「アスカなのか?」
 何故だかわかった。
 シンジはアスカに、そっと手を伸ばす。
 ふぎゃあ、ふやあ、ふぎゃあ…
 アスカは元気に泣き叫ぶ。
 それは産声にも似せて、泣きやまない。
「アスカだ…」
 抱き上げ、その髪に顔を埋める。
「アスカなんだね?」
 むせ返るような血の臭い。
 反対の腕にはレイが居る。
「アスカ、綾波…」
 シンジはその場にうずくまり、ミサト達が来るまで泣いていた。


「学校はどうする?、シンジ…」
 シンジは再改修されたネルフ本部の司令執務室に居た。
「うん、行こうと思ってる、小学校に行っても仕方が無いんだけど…」
 机の上に座り、足をぷらぷらと遊ばせるシンジ。
「ただ、問題があります」
 そう言ったのはリツコだ。
「シンジ君、これが読めるかしら?」
 そう言ってリツコは、シンジに何かのファイルを渡した。
 それをぱらっとめくって目を通すシンジ。
「えっと…、エヴァの基礎理論ですよね?、起動と運用に必要な電力の…え?」
 シンジは自分で言いながら、その違和感に気がついた。
「これって?」
「そう、今のあなたには、碇ユイの知恵と知識も宿っているの…」
「なに!?」
 焦ったのはゲンドウだ、ダリダリと脂汗を流し始める。
「言っておきますが知識です、記憶ではありませんよ?」
「そ、そうか」
 頭を傷めるリツコと、ほっとするゲンドウが対照的だ。
 一体何を焦ったんだろう?
 わからなくて、シンジはちょっと残念に思った。
「シンジ君の知能指数は人並みですが、つまっている知識はそれ以上です」
「心と精神のバランスの問題かね?」
「はい、小学生の体に大人の知恵と知識」
「それはもう、シンジに期待するしか無いな…」
「え?」
 シンジはゲンドウを驚き見つめた。
 期待?、父さんが、僕に!?
 ゲンドウも照れているのか、ちらちらとシンジを盗み見るようにしている。
 父さん…
 笑顔を広げるシンジ。
 シンジ…
 赤くなるゲンドウ。
 見つめ合う二人…
 カシャーン…
 お盆と、それに乗せたカップの落ちる音がした。
 はっとして音源を探る二人。
「ふ、不潔…」
 マヤが口元を手で被っていた。
「あ、ち、違う」
「ご、誤解だよ、マヤさん!」
いやぁ!不潔、フケツよぉーーー!
 マヤはばたばたと走り去ってしまった。
 がぁんっと、ショックを受け、二人は固まる。
「結婚しても、潔癖症は相変わらずね…」
 リツコは楽しげな目を、そんな二人に向けていた。


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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元にでっちあげたお話です。