「おいしい…」
「そう、よかった」
ニコニコとシンジ。
もじもじとしているレイ。
「どうしたの?」
「あんまり見ないで…」
あ、うん…
残念そうに顔を伏せる。
そうだよな、ジロジロ見られてたら食べづらいよな…
一方レイも心を痛める。
この人はわたし達のことを好きになろうとしてくれている…
また傷つけてしまったと、酷く胸が傷んでいた。
そんな時だ。
「きゃああああああ!」
っと、アスカの悲鳴が聞こえて来たのは。
うらにわには二機エヴァがいる!
第四話「宴会、吹き込みの後」
「アスカぁ!」
どたどたと階段を駆け上がるシンジ。
その後を追いながら、レイはふと考えた。
真っ直ぐ、アスカの部屋へ向かってる。
どうして知ってるの?
もちろんその答えが出るはずも無い。
「初号!」
ドォン!
シンジの呼び声に答えて、アスカの部屋の真向かい、「碇シンジ」の寝室から、二頭身の初号機が飛び出して来た。
初号はそのまま扉をぶち破り、アスカの部屋へと乱入していく。
ヒュン!
一瞬、光る鞭のような物が見えた。
あれは!
シンジの記憶に引っ掛かる。
ガシャァン!
だが部屋に飛び込んだのと入れ違いに逃げられてしまった。
割れる窓ガラス、シンジとレイが確認できたのは、そのわずかに月明かりを浴びた昆虫のような背中だけだった。
「アスカ、大丈夫!?」
揺さぶるシンジ。
アスカの瞳が、急速に焦点を合わせていく。
「は、あ…、うん…、って!、あああああ!、パパの部屋が!、あんた一体何したのよぉ!」
初号の勢いが良過ぎたのか、扉の蝶番が外れて傾いでいる。
「ご、ごめん…」
「ごめんじゃないわよ!、あんたなんか嫌い、早く出てって、出てってよぉ!」
ドン!
シンジは突き飛ばされ、尻餅を付いてしまっていた。
「あはははは、それで追い出されて来ちゃったのね?」
「笑い事じゃないですよ、ミサトさん…」
シンジは朝を待たずに、ネルフ本部、リツコの研究室に顔を出していた。
「まあ今のうちだけよ、その内に慣れるわ」
シンジは改めてため息をついた。
「リツコさんも…、少しは僕の身になってくださいよ」
「あら?、あたしはいつでも真剣よ?」
「……」
相談した僕がバカだった…
そんなシンジの両肩に手を置くミサト。
「まあまあ、そう暗くならないでさ」
「そうね、ここはぱーっと派手に騒いで…」
「後はなるようになっちゃうわよ」
「騒いでって…、また飲むんですか?」
シンジのジト目がちょっと痛い。
「そうよ、これを見て?」
リツコの端末に、第三新東京市のマップが表示された。
その外縁部にある巨大な植物園の温室がクローズアップされていく。
「シンジ君の「歓迎会」はここでやる事になったから」
「なったからって…、バグの対策してたんじゃなかったんですか!?」
「そんないつ出て来るかわかんない物のために、貴重な時間を割いてらんないわよ」
これ以上他にどんな大事な事があるんだろう?
聞きたかったが、あっさりと答えられそうだったのでやめておいた。
「ああそれから、学校のお友達は霧島さんがバスで連れて来る手筈になったから」
「マナが!?」
シンジの脳裏に、やたらと浮かれていたマナの姿が蘇って来た。
「だってあの子には全部事情を話してあるもの、だからいいじゃない、ね?」
はぁ…と、シンジはため息をついた。
マナは一応部外者なのに…
どうりで自分を見る目がおかしかったと、今になってようやく気がつく。
知ってたんだ、マナ。
「ほらほらそんなにしょげないで、今からそれじゃあ、将来はもっと辛いわよん?」
「え?、どうしてですか?」
キランと光る、二組の目。
「あの子達のお父さん、一生帰ってこないんでしょ?」
「うっ」
「よかったわねぇシンジ君、まだ二人が「子供は10ヶ月で生まれる」って事を知らなくて」
はっとするシンジ。
「そう言えばそうね、レイが9月だっけ?」
「アスカが12月」
「シンちゃんが6月よね」
黙り合う二人。
「「可哀想に…」」
「ぐれるわね、二人とも…」
「だぁ!、なに言ってんですか!」
叫びを上げる。
「シンちゃ〜ん、どんなママ達だったのかなぁ?」
「まったくそう言うとこだけお父さんに似て…」
「「この鬼畜」」
「だから勝手なこと言わないでよ!、それに僕はまだ!…っと、その手には乗りませんよ!?」
「護魔化しになってないわよ?」
「シンジ君、「まだ」なのね」
「当たり前です!、僕はまだ6才ですよ?」
「おお!、ぼける事を覚えたか?」
「ん〜、じゃあお姉さんが好いこと教えてあげようかしら?」
「ちょっとリツコ、あんた欲求不満なんじゃない?、ここはあたしが…」
「なによ人妻は引っ込んでなさい、子供4人もいるくせに」
「良いじゃないのぉ、籍には入ってないんだから」
「関係無いでしょって、シンジ君、何処に行くのかしらぁ?」
忍び足をやめ、バツが悪そうに振り返るシンジ。
「…そんなに僕のことを、おもちゃにして楽しいですか?」
「「ええ」」
「…じゃ、そういうことで」
「「ちょっと待ちなさいよ!」」
「リツコ足!」
「しょうがないわね、さあシンジ君、ズボン脱いで」
「わあ〜!、やめて、やめてよ二人とも」
「「いやよ」」
「くくく、楽しいわねぇリツコ」
「ほんと、こんな検体久しぶりだわ」
「失礼する」
シュコーッと開く扉。
「ここにシンジが来て…」
「と、父さん助けて!」
そこにはシャツを剥かれて、なよなよとシナを作っているシンジの姿があった。
くいっと眼鏡を持ち上げるゲンドウ。
「何を…、しているのかね?」
「司令、鼻血出てます…」
「あはははは、ちょーっち生態学的に興味があって…、あの、司令も混ざります?、解剖…」
うむ…と言いかけたのだが、そこにシンジのすがるような目が…
「…葛城君、赤城君」
「「はい」」
「減棒6ヶ月」
「「ええーーーっ!」」
父として、人の上に立つ者として、辛い判決を下すゲンドウ。
「ちょ、ちょっと待ってください、司令!」
愕然としてしまう二人。
「そうです!、これは純粋にシンジ君のことを心配して…」
「嘘だ!、大人はみんな汚いんだ」
うわーん!
汚いのはどっちよ、このガキャあ!
泣き真似をするシンジ、実年齢21歳。
「碇司令、何とか言ってください!」
「そうです、ここは父親として威厳のある態度を!」
二人のすがりつきに、ゲンドウは自分の立場を思い出す。
「う、うむ…、あーシンジよ」
「なに?、父さん…」
キラキラキラ☆っと…、一瞬「父親」の一言に心奪われたゲンドウであったが、そのシンジの澄んだ瞳の前は無力であった。
「減棒10ヶ月…」
「ちょっとリツコ増えちゃったじゃないのよ!」
「司令!、あたしとあなたの仲じゃないですか!」
「リツコ君…」
やば…
ちょっとリツコ…
ゲンドウの目がすわっている。
すうっと息を吸い込み、深く吐く。
「特別にボーナスも無しだ」
「あああああ…」
大人って汚いよなぁ…
そんな人間関係に、シンジは微笑ましい物を見てしまった。
そして始まる大宴会
「ちょっとリツコ、それあたしのスルメよ?」
「なによこれ焼いてないじゃない、しょうがないわねぇ…」
「って普通こんな所に七輪持ち込む?」
「妥協はしない主義なのよ」
植物園の温室、その通路一杯にひしめき合うネルフ職員達とプラスα。
「ほんとに良いのかなぁ?、だって二度もアスカが狙われてるって言うのに…」
「ふむ、初号のデータでも体長二メートルと出ている、そんな生物がどうやってアスカ君の部屋に潜り込んだのか…」
「ま、使徒だからねぇ…、ゲフ」
「うわぁ、それで済ましますかって、酔ってますね?、ミサトさん」
「当ったり前じゃない、酔わなきゃやってらんないわよ」
一升瓶を傾ける、ごぼごぼと液体は茶碗に注がれた。
まだ給料のこと、気づいてないのか…
ちらりと父を見上げると、ゲンドウはニヤリと笑い返して来た。
今の司令はミサトさんなのに…
そう、ゲンドウにそんな権限は無いはずなのだ。
「リツコ、今日は飲むわよ!」
「しかたがないわね、付き合うわ」
放っておこうと心に決めたシンジの耳に、ふとぶつぶつと口走るリツコの言葉が入ってきた。
「わたしにかかって解剖できなかったのは、あなたが初めてよ?、シンジ君…」
解剖って…、リツコさん理工学系じゃなかったの?
「ほぉら碇ぃ!、こっちこんかい」
「そうだよ、なんだよそのカッコは?」
「もー可愛くなっちゃって、鈴原、こんな子欲しいわね?」
「…委員長、性格変わったのぉ」
「鈴原が堅過ぎるのよぉ」
懐かしの面子が揃っている。
「碇くぅん、そんなにちまちまやってないで、ほら!、あなたもお酒飲みましょうよぉ」
「…マナ先生、ぼく小学生ですよ?」
「なぁに言ってんのよ、見かけは小学生でもこっちは…」
「うわ、やめてよもう!」
シンジは立ち上がり逃げ回る。
一方その端っこでは…
「聞いてくれよぉ、マヤのやつ不潔だ何だって、手を握るのがやっとなんだぜ?」
「しょうがないだろ、それが分かってて結婚したんだからさ…」
青葉と日向、永遠の親友同士が下らない話に花を咲かせている。
「酔った彼女をおぶって帰っただけじゃないか!、それで責任取れなんて、そりゃあんまりだよ…」
「…不敏な奴」
「それでマコトってば、今日はいいだろ?、とか、そんなことばっかり言って…、ちょっと先輩聞いてるんですか!?」
「はいはい…」
「って、スルメかじりながらじゃ説得力無いわよねぇ?」
けらけらと他人事のように笑うミサト。
「笑ってる場合じゃないでしょ?、あんただって加持君との間に一体何人作るつもりよ?」
「しょうがないじゃない、妙に当たる確率高いんだからさ…」
「フケツ…」
ミサトはちらりと視線を送る。
そこに四人の男の子達が固まっていた。
上から順に、7、7、5、4才。
「まったくふざけないで欲しいよな、名前ぐらい真面目に考えて欲しかったよ」
「リョウイチ兄さんはいいじゃないか、俺もリョウジだからまだマシな方さ」
リョウイチはミサトにそっくり、逆にリョウジは父である加持にそっくりだ。
この二人は年子である。
「ま、父さんと同じだからややこしいけどね?」
その笑い方も父そっくりで、美男子とは言いがたく、にやけた所からも軽薄な感じだけが漏れ出てしまっている。
「そうだよ、僕なんてリョウサンだよ、リョウサン!、こりゃもう警官になって遊んで生きるか、闇に隠れてスイーパーになるしか無いよね?」
そう言ってけらけらと気楽に笑う、彼が一番ちょうど程よく、父と母の血を受け継いでいるようだった。
「可哀想なのは…」
「リョウシだな…」
しくしくしく…
端っこで泣いている男の子。
これがまた遺伝子異常か隔世遺伝か?、はたまた先祖返りでも起こしたか…
とてもミサトの子とは思えぬ美少年であったのだ。
「みんなが投網でも投げてろっていじめるんだ…」
「負けないでリョウシくん!」
「そうよ、あたし達が付いてるから」
「みんなリョウシ君のこと、ひがんでるだけなのよ」
「リョウシ君が、あんまりカッコイイものだからって」
「「「ねーーー?」」」
クスンと、手の甲で涙を拭うリョウシ。
「ありがとう、優しいね、みんな…」
キラリと光る涙。
はう〜ん☆と崩れ落ちる少女、お姉様たち。
その様子に兄貴達は呆れ返る。
「同情の余地無し…」
「絶対あいつ、ヤバいよな」
「一番濃く父さんの血を引いてるよ」
「同感」
微笑ましい家族ねぇ。
うっさい!
リツコの囁きを適当に払う。
ふと、ミサトは浮かない顔のアスカを見付けた。
「どうしたの、アスカ?」
「ミサトおばちゃん…」
アスカはミサトから紙コップを受け取り、その中のオレンジジュースをちびちびと飲む。
「気になる?」
アスカの視線が、シンジを追っている事に気がついた。
「べ、別にそんなんじゃないわよ!」
真っ赤になってそっぽを向く。
こういう所は変わらないのね…
レイも同じようにシンジを追いかけている。
「レイは?」
「どうしてみんな、「碇」って呼ぶの?、まるでお父さんみたいに…」
ミサトは優しく微笑み、口にする。
「きっと気をつかってるんじゃないかしら?」
「気を?」
不思議そうなレイ。
「そ、だってあの子は「綾波」だもの、同じお父さんを持っているのに、あの子だけが迎えてくれる家も、家族もないのよ…」
口からでまかせにも程がある。
「お父さんからは愛情らしい物も与えてもらえなくてね…、うう、不敏な子だわ」
それはわたしに対する嫌味かね?っと、ゲンドウは眼鏡を持ち上げた。
「減棒18ヶ月…」
すっく。
アスカは意を決して立ちあがった。
「ちょっとこっちに来なさいよ、バカシンジ」
「あ、うん…」
幾人かがキョトンとする、その物言いが昔の二人にそっくりだからだ。
「なに?」
「そこに座って!」
アスカは「んっ!」っと、紙コップを差し出した。
「ま、一杯やんなさいよ」
「あ、ありがと…」
トクトクトクっと、ペットボトルからジュースを注いでやる。
ぷーーー!
分けわかんないシンジと、吹き出すミサト。
ミサトさん、また何か吹き込んだな…
何気にジュースに口をつけ、シンジはブーッと吹き出した。
「げほっごほ、ミサトさんこれ、お酒じゃないですか!」
「何言ってるのよん、チューハイはお酒の内に入らないわ」
「また中身入れ替えて…、見た目はカルピスでも中身はお酒です!、ってああ!?、アスカ何飲んでんだよ」
ラッパ飲み。
「なぁによぉ、馴れ馴れしいわねぇ」
「はいはい、お兄ちゃんが怒るからこっちにしましょうね?」
「当たり前です!、…って、それワインじゃないですか!」
「違うわ、果物ジュースよ!」
「果実酒です!、まったく人が見てない内になんてことを…、レイ!」
「ん?」
「そんなとこに入ってっちゃダメだってば!」
キョトンとしているレイ。
レイは鑑賞用の植物を押し分けていた。
「でも、おしっこ…」
「レイにも飲ませたんですか!、おトイレはこっち!」
「面倒見が良いわねぇ?」
「みんなが悪過ぎるんです!」
「ほらほら、そんなこと言ってる間に、レイしゃがんじゃってるわよ?」
「あああああ!、レイ、もうちょっと我慢して!!」
その時、不意に天使は舞い降りた。
ドォン!
轟音が鳴り響いた。
「何事なの!?」
驚くリツコの眼前で、ぺしゃんこになっているミサトが見える。
「ぷ」
「笑ってないで、助けなさいよぉ!」
キシャアアアアア!
ミサトの上で、暴れるバグ「使徒」
「バグだぁ!」
誰が叫んだのかは分からなかったが、皆の行動は素早かった。
「構え!」
ジャキジャキジャキッと、一斉に銃器を構えるネルフ職員。
「ま、待って…」
「撃ちなさい、ヒック」
「きゃあああああ!」
みんな酔ってるなぁ…
シンジが唖然とする中で、弾着がバグを押していく。
バババババババババン!
「おお!、男なら一度は目にしておきたい光景だね、これは!」
「カメラ持って来て良かったって感じ?」
目も眩むような閃光の中で、カメラを構えている親子が一組。
ズゥン!
ついにバグは観葉植物の中に倒れこんだ。
「ちょっとリツコ、何考えてんのよ!」
倒れた使徒の下から這い出す。
ちっ、しぶといわね…
「バグの退治はあらゆることに優先するのよ?、あなたの尊い犠牲は無駄にはしないわ」
「うむ」
「司令までぇ〜〜〜、あたしまだ死んでないわよ!」
泣き笑いで反論する。
ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン…
だがまだバグの二本の鞭は蠢いていた。
「まるで髭だな…」
「アスカがゴキブリと間違えたのも頷けますわね?」
「でもまあ、この場にはふさわしくないんじゃない?」
三人はお互いに頷き合った。
「そうね、あのお腹を見てると気分が悪くなって来るわ…」
「宴会にはふさわしくない存在ね?」
「ああ、最優先排除対象だ」
昆虫タイプのお腹というのはそんな物だ。
「では終わりにしよう、シンジ、初号を使え」
「え?、良いの」
「そのための初号だ」
ニヤリ。
どのためなのかよく分からなかったが、シンジはゲンドウも酔っていると判断した。
「初号ーーー!」
ズボォ!
土中より現われる小型の二頭身エヴァンゲリオン初号機。
その手に巨大なハエ叩きを握っている。
「ATフィールド、中和!」
ベシ!
一撃粉砕、幾人かが「うえ…」と口元を押さえた。
カッ、ドーーーン…
爆発、突き立つ十字の炎。
「たーまやぁ!」
「まさに科学の勝利ね?」
「人類の希望の光ですね、これが」
「うむ」
一同は適当に締めくくり始めた。
「さあて、じゃあ宴会続けるわよぉ!」
「「「おおーーー!」」」
雄叫びが上がる。
僕の歓迎会じゃなかったの?
そんな中、シンジは初号にレイを乗せて、急ぎトイレへと駆け込んでいくのであった。
「フケツ」
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元にでっちあげたお話です。