ビービービー!
非常警戒音が鳴り響く。
「どうしたの!?」
「網走の収容所が、何者かの襲撃を受けました!」
「何ですって!?」
ミサトは急ぎ、入って来た情報を閲覧した。
これは!?
「ネルフの武装ヘリ!?」
「はい」
焦った表情で日向は報告を続ける。
「ヘリは強襲後、囚人一名を連れて逃走、現在は第三新東京市に向かって侵攻中とのことです」
これって!?
その犯人らしき人物の映像に驚く。
恐らくは何かの光学迷彩なのだろう、ぼやけてはいたが、なんとかその特徴のある白衣は見て取れた。
まずい!
冷や汗が流れ落ちる。
「非常警戒体勢を解いて早く!」
「え?」
「襲撃が行われたのは!?」
「約5分前です」
「なら10分前からの情報は全て部外秘とします、網走の方にも通達出して、ネルフの指揮監督下におきなさい!」
何考えてるのよ、リツコは!
メインモニターを見上げる。
そこにはガレキの山と化している、網走の収容所が映し出されていた。
うらにわには二機エヴァがいる!
第九話「瞬間、父、取り合って」
「それで霧島先生、相談ってなんですか?」
生徒指導室に呼び出されているシンジ。
「やだもうシンちゃんてば☆、二人っきりの時は、マナって呼んで」
カチャッと鍵を閉めた上に、順にカーテンまで締めていく。
「あ、あの…、なにをしてるんですか?」
シンジは椅子から中腰を浮かせた。
「あ、何でも無いから☆、気にしないでね?」
しないでって…
身の危険をひしひしと感じる。
「実はね?、レイちゃんのことなんだけど…」
椅子をガタガタと寄せるマナ。
「レ、レイが…、どうかしたんですか?」
「最近一人で居る事が多いでしょ?、心配じゃない?」
「そ、それは、まあ…」
なんで隣に座るんだよう…
耳に息まで吹き掛けられて、シンジはかなり逃げ腰になる。
「やっぱりね?、あの頃の子にはお母さんが必要だと思うのよ…」
「そうですか?」
「そうよ!、シンちゃんだってそうでしょ?」
「え?」
「お母さん…、恋しくない?」
なにが、言いたいのかな?
良くつかめない。
つまりは、戦略は変わるもの、と言うことである。
「これから先、大変でしょ?」
「た、例えば?」
「面談とか、保護者呼び出し、ううん、何かの届け出とか」
「み、ミサトさんがいますから…」
「もう!」
「うわ!」
抱きつかれるシンジ。
「な、なにするんだよ!?」
「だってシンちゃん、他人みたいに話すんだもん!」
「ここじゃ先生でしょ!?、当たり前じゃないか!」
逃げられない!?
エヴァの訓練は行っていたが、自分の体を鍛えたわけではない。
しかも今はただの子供に戻っている。
「ふふふ、もう逃がさないんだから!」
当然専門に習い鍛えたマナに抗えるはずが無いのだ。
「ひ、卑怯だよ!?」
「これでもう、他人じゃないよね?」
「え!?」
ぶちゅう
あああああ!、僕のファーストキスがぁ!?
錯乱しているシンジ。
ずるるるる、ずっ、ずっ!
肺の中の空気まで吸い上げられる。
さようなら、僕の青春…
キラリと涙が目元で光る。
「ぷはぁ、さあシンちゃん!、存分にお母さんに甘えていいのよ?」
ドカァン!
「な、なに!?」
いきなりドアが吹き飛んだ。
「パ…、お兄ちゃん!」
アスカだ、弐号も居る。
零号の上にはレイ。
「全校放送で呼び出すから、心配して来てみれば!」
コクンと頷くレイ。
「あなた達、授業はどうしたの!?」
狼狽し、破片の下から這い出すマナ。
「先生ってバカぁ?、自習にしといてなに言ってんのよ!」
う、うかつだったわ!、授業中なら邪魔は入らないと思ったのに!?
当然のごとく、見張る人間も居なくなる。
「さ、お兄ちゃんを返してもらうわよ!?」
アスカはぐったりと床にのびているシンジを指差した。
ドオン!
爆発と共に、学校の壁面が吹っ飛んだ。
「なんや!?」
窓から校庭を見下ろす。
「先生と碇達だ!」
シンスケは慌ててカメラを構えた。
「先生にたてつくとは良い度胸ね?」
「そっちこそ!、小学生になに迫ってんのよ!」
ビシッと指差す、いつの間にやらプラグスーツだ。
「セカンドレッド…、だっけ?」
「ちゃあんとホワイトファーストもいるわよ!」
ゲションと破壊された壁の奥から姿を見せる。
「それもパパに頼んで作ってもらった本物のプラグスーツでのリニューアルよ!」
「いいなぁ」
頭上からの声、シンスケだ。
「ふふふ…」
「な、なによ?」
突然マナの漏らした笑いにアスカはびびった。
「そう、シンジ君にもらったの?」
顔を上げ、マナは懐に手を入れた。
「それならあたしも持ってるわよ?」
「え!?」
「これがネルフ…、いいえ?、シンちゃんから受け取った、あたしだけの守護天使よ!」
ピカ!
「こ、これは!?」
地面に叩きつけられた赤い玉、そこから緑色の細胞が増殖し、バグが生まれる。
「そんなものぉ!」
ゲション!
アスカの意を酌み、弐号は地を蹴った。
「ソニックグレイブ!」
右の肩バーツが開き、棒が飛び出す、それをつかむとアスカはブンと振った。
バシュっとのびて、それは一瞬で高跳び用のバーになる。
「ていやああああああ!」
ズガン!
バーはバグを飛び越えてマナの顔面に直撃した。
ドサッと後方へ倒れ込むマナ。
「…なんちゅうインチキや」
ぽかんとかキョトンとしているイスラフェル。
とぼけた仮面をマナに向けると、何を納得したのかいきなりニ体に分裂した。
「あと頼んだわよぉ〜」
ぺたんぺたんぺたんぺたんぺたん…
イスラフェルはアスカの声援に答えるように、マナを担架に乗っけて去っていった。
「うっ、うっ、うっ…、みんながおもちゃにするんだ」
この忙しい時に…
こめかみを引くつかせているミサト。
「もう!、落ち込まないでよぉ…」
「お父さんは、わたしが守るから…」
既に襲われた後である。
校舎を壊した零号、弐号の持ち主とその保護者として、シンジ達はネルフの執務室まで連行されていた。
「大体あんたが、「戸が開かないの」って、ぶち破ろうって言ったんじゃない!」
「壊すべき?、と聞いただけ」
「ずっこいわよ!?」
指差すアスカ。
「なにもしてないもの…、今日は」
はぁ…
手で橋を作り、その上に額を押し付ける。
「シンジ君も泣いてないで…」
シンジは三角座りで落ち込んでいた。
「だって舌が動いたんだ、うねうねって口の中で動いたんですよ!?」
手をわきわきとして訴える。
「もう!、キスぐらい初めてじゃないんでしょ!?」
「え!?、パパってしたことなかったの?」
ミサトは急にニマッとした。
「アスカのママとはしたはずよね?」
「ミサトさん!?」
「『でぃーぷきす』ってやつね?、気持ち悪いのかなぁ?」
指を咥え、ジイッとシンジを見つめるアスカ。
「わたしの、ママとは?」
レイは対抗意識を燃やして尋ねた。
「胸に触ったのよね?」
「ど、どうしてそれを!?」
焦りまくる。
「ふ、ネルフの監視能力を甘く見ないで欲しいわね?」
まずい、きっとライブラリに収められてる…
シンジは今度の定期検査で、MAGIのデータを洗い直そうと考えた。
「とにかく!、二人とも謝る所に謝る!、シンジ君は責任を取らせるのよ!」
「え?」
「え?、じゃないでしょ!、あんたお父さんでしょうが!」
ガガーン!っと、シンジを衝撃が突き抜けた。
外ではおりしも落雷があり、ちょうど夕立が降り始める。
そうだ、お父さんなんだ、きっちり怒らなくちゃいけないんだ!
シンジは涙を拭うと、二人の顔を交互に見た。
う…
じっと見上げているアスカと、無表情なレイ。
「怒るの?」
聞いたのはレイだった。
「シンジ君!」
たじろいだ所を怒られる。
「そう、怒るのね…」
レイは目を伏せた。
「助けてあげたのに」
「で、でもさ?」
何故か罪悪感を感じるシンジ。
「やり過ぎ…、じゃないかな?」
「そう?」
「うん…、だってスーツを着たり、遊んでるようにしか見えないもん」
違う…
アスカはゆっくりと首を振り始めていた。
アスカ?
「違う、違う、違う!」
「アスカ?」
「違う、遊びじゃない!、正義の味方よ!」
「アスカ!?」
「正義の味方よ!、正義の味方になるの、そう決めたんだから!」
アスカ、泣いてる!?
シンジは戸惑った。
「パパがそう言ったんじゃない、良い子にしてろって、パパが言ったんじゃない!」
あ…
シンジは呆然とした。
「うわああああん」
泣き出すアスカ。
アスカ…
呆然としてしまうシンジ。
すっとレイが動いた。
「れ、レイ…」
シンジの頬を、ぺチッと手をあてがうように小さく叩く。
「…ご、ごめんよ?、アスカ」
アスカと言いつつ、二人に謝る。
アスカはまだ両手で顔を隠している。
「そ、その、そんなに約束、大事にしてるなんて、思わなかったから…」
くすんくすんと、泣き声がシンジの心を痛ませる。
「だから、守ってよ?」
ぴくっと、アスカの肩が反応した。
「正義の味方なんでしょ?、だから、守ってよね?」
「…いいの?」
おずおずと、手の間が開かれる。
「うん、だから…、ああ!?」
「へへーんだ、やったぁ!」
アスカは両手を挙げて跳ね上がった。
「だ、だ、だ、騙したなぁ!?」
べーっと、目を引っ張って舌を出す。
「泣き真似、卑怯、お父さん…」
素朴に尋ねる。
「怒らないの?」
「いや、怒るとね?」
また泣かれるし…
不満そうに、レイはギュッと袖を引いた。
「怒らないの?」
「う…」
困ってしまう。
「お父さん、うそつきにおしおき…」
「パパ!、負けちゃダメよ!」
あーうー…
両側から腕を引っ張られる。
「パパはあたしに守ってって言ったの!」
「嘘をついたのはあなた、取り消しに値するわ」
「あ、むかつく!、パパ、レイがいじめるぅ!」
ニヤリと笑むレイ。
誰だよ?、こんな笑い方教えたのは…
シンジは頭が痛かった。
その頃、その笑い方を伝授した男は困っていた。
「…い、いいのかね?、赤木君」
「かまいませんわ?、本部へ帰ればあなたが正真正銘、本物の碇元司令だと証明できますから」
「そうか…」
ゲンドウは新しい眼鏡をかけ直した。
「それで全ては収まりますわ?、あなたに手出しできる者など誰も居ませんもの」
だからと言って…
珍しくちょっと青ざめている、ネルフのロゴマーク入りヘリでの襲撃。
信用が一つ崩れるぞ…
頭の中では対抗策を練りあげていた。
これはダミーのテロ集団を用意する必要があるな?
全てはそちらの責任に、そして真相は闇の中へ。
まあ、いい…、シンジに会えるのなら。
いきなり前向きな思考に切り換える。
だが責任を取る者は必要だ。
ゲンドウはニヤリと口を歪めた。
「赤木君、君は本当に…」
「よろしいんですのよ?、あなたのためでしたら」
「そうか」
「そうですよ」
これで正妻の座はあたしのものに。
「「ふふふふふふふふふ」」
無気味な笑いがこもるヘリ。
バラララッと爆音を立てて、戦闘ヘリは夕日に向かって飛んでいった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元にでっちあげたお話です。