「碇ゲンドウ、そこまでだ!」
 ネルフの管理する文化遺産研究所、別名『博物館』
 その屋根の上にサーチライトが集中する。
「加持君、君か」
 マントで眩しげに光を遮ったのはゲンドウだった。
「ネルフの技術遺産を狙って、あなたは何を考えているのですか!」
 同じ屋根の上に立ち銃を構える。
「その前に言っておこう」
「なに?」
「わたしはもはやゲンドウではない、そう、闇に生きるもの、復讐者Gだ」
「Gだと?、くっ!?」
 瞬間の判断に身を捻る。
「かわしたか、さすがだな」
「今のは、ラミエル!?」
 空気の焼け付く香りが漂う。
「そう、それも君達の販売するラミエルの比ではない」
 ニヤリと笑い、右の手のひらの上でゆっくりと回転するラミエルを見せた。
「ではさらばだ!」
 一度手を閉じて開くと、ラミエルはレリエルになっていた。
「待て!」
 問答無用で銃を撃つ、が。
「ATフィールド!?」
 金色の壁に銃弾は全て弾かれてしまった。
 …などと、第三新東京市に怪人が誕生していた頃。
「え〜〜〜?、納豆ぉ!?」
「そうよ?」
「ママ納豆なんて食べるんだぁ」
「臭い…」
「あら?、納豆は栄養が沢山入ってるのよ?、ね、シンジ」
「あ、僕も納豆はちょっと…」
「まったく、みんなで好き嫌い多いんだから」
 ユイはニコニコと納豆を掻き混ぜていたのだが…
「あれ?、どうしたのさ?」
 ピタとその動きが止まった。
「…違う」
「へ?」
「違う、これは本物の納豆じゃないわ!」
「…母さん、何を言って」
「このねばり具合、あなた、バルディエルね!」
 糸がびくりと震えたかどうかは別として…
「使徒殲滅!」
 ユイはおもむろに掻き込み出した。
「結局食うんじゃないか…、母さん」
 その時、シンジには他に言うべき言葉が見つからなかった。

うらにわには二機エヴァがいる!
第拾五話「舌と沈黙」

「と言うわけで、正しい味覚は美味しい料理から、今日は料理に挑戦します」
「…また唐突なんだから、母さん」
「いいからさっさと着替えなさい」
「はぁい」
 シンジとユイは自前のエプロン。
 レイとアスカは給食当番着を着用した。
「さて、それでは今日のメニューは何かというと…」
「はーいはいはい!、あたしそーめんがいい!」
「…冷や奴」
「ダメです!、…とは言えあなた達に火や包丁を使わせるのは心配ですから、今日は助っ人を頼みました」
「助っ人って、これ?」
「そう、レストランネルフでも有名な、ゼルエルさんです」
 ぬぼーっとパンチング人形みたいな風船が浮かんでいる。
 ぼかすかと殴りだすレイとアスカ。
「こらこら、遊んじゃダメです」
「はぁい」
「…だめなのね」
「ダメ!、さ、ゼルエル、あなたの技を見せてあげなさい」
 よろめくようにふらふらとするゼルエルさん。
 ふわふわと漂いつつテーブルの前に立つ。
 そこに置いてあるのは大きなマグロだ。
『帰って来た』生物の中では数が少なく、十分な貴重種である。
 ちなみにここにあるのはそのフェイクで、合成たんぱく質精製工場内の食肉加工場で作られたニセマグロである。
 ゼルエルは自慢の刃を振るおうと持ち上げた。
「あ、ちなみに失敗したら、かじるわよ?
 ユイの呟きにわずかな緊張感が迸った。


 だらりと両腕の帯が落ち、それを持ち上げて軽やかに振るう。
「わぁ!」
 横からわくわくと覗いていたアスカの声、それは絶賛するものだった。
 マグロの巨体がサクサクと奇麗に捌かれていく。
「はいはい、アスカちゃんとレイちゃんはこっちよ?」
「はぁい」
「なに?」
「あ、お鍋!」
「鍋なのね、今日は…」
「はいはい、ほらもうお野菜入れてあるから、味付けをしてね?」
「はぁい!」
 元気に返事をするアスカに対して、レイは行動で示そうとした。
「レイちゃん!、マヨネーズなんて入れちゃダメでしょ!」
「…なぜ?」
「あんたバカぁ!?、マヨネーズは最後に決まってるでしょ!」
「それも違うわよ…、アスカちゃん」
「つまらない…」
「レイちゃん、マヨネーズをそのまますすっちゃダメよ…」
 ちゅうちゅうと吸いながらレイは調味料を漁るために冷蔵庫を覗く。
「豆板醤、ニンニク、ワサビ、唐辛子…、マスタード、カレー粉、青のりは歯に付くからだめ、マーガリンは美味しい」
「こらこら、そんなのどばどば入れちゃダメでしょ」
「じゃあちょっとだけ」
「ちょっともだめ!、アスカちゃんも牛乳を入れようとしない!」
「え〜〜〜?」
「だからってチーズもダメよ、粉チーズを振りかけないの!、まったくもう…」
 ちらりとシンジを見る。
「シンジ…、あなたね?、普段どんなものを食べさせてるの」
「ふ、普通だって、ほんとに…」
「だからレイちゃん、ケチャップもダメ!」
「…ダメばっかり」
「もうちょっと常識を教えてあげなさい!、アスカちゃん、ご飯に生卵と醤油をかけて食べないの!」
「…お腹空いたんだもん」
「はぁ…、ゼルエル、マグロを焼いてあげなさい」
『マ゛』
 妙な声で返事をする。
 マグロのサクに顔を向けると、ゼルエルは目を光らせた。
 ピカ、ジュッ!
「そのマグロのステーキでもつまんでなさい」
「はぁい!」
「わたしも…」
 ドタドタとてとてと床が響く。
「ゼルエルの火加減って便利なんだ…」
 仕事を取られたようでちょっと悔しいシンジであった。


「「「いただきまぁす!」」」
 それはそれとしてマグロのごった煮はそれなりの完成を見せた。
「わかった?、マヨネーズやケチャップは、できたものに付けて食べるためにあるのよ?」
「え〜〜〜?、でもパパって、色々入れてるけど…」
「シンジ?」
「え?、あ、そりゃソースを作るのに使ってるけどさ…」
「はぁ、わかりました…」
 パシッと箸を置くユイ。
「アスカ、レイ…、あなた達このままじゃお嫁に行けなくなっちゃうわよ?」
「え!?」
「嫁…、なに?」
「バカ!、お嫁さんになれないって事は、パパと結婚できないって事じゃない!」
「アスカ…」
 じぃんと感動に浸るシンジ。
「親馬鹿…、じゃなくて、アスカちゃん?」
「なに?」
「お父さんとは結婚できないのよ?」
「ええーーー!?」
「なぜ?」
「日本の法律でそうなってるの!」
「じゃあ外国に行く!」
「…母親とは結婚できるの?」
「世の中そうなってるの!」
「なってないって」
「うーーー!」
「ぷぅ…」
「ともかく!、お嫁さんは置いておいて、パパのためにご飯を作ってあげようかなぁ?、なんて思わないの?」
「でぇもぉ」
 ちらとシンジを見る。
「パパのご飯好きだしぃ」
 指を咥える。
「そう?、ならシンジ、あなたはどうなの?」
「え?」
「アスカちゃんの作ったご飯、食べたくない?」
「う…」
 アスカの料理かぁ…
 以前のアスカのことを思い出す。
「そ、そりゃあ、料理ができないよりは出来る方がいいと思うけど…」
 十四歳のアスカが三角巾にエプロンを着けて振り向く、そしてトンと置かれたのは…
 カップヌードル。
 インスタントはまさに人類最大の発明よね!
「はっ!、だ、ダメだよ、女の子なんだから料理ぐらいできなくっちゃ!」
「なに泣いてるの?」
「レイちゃん?、シンジはもうちょっと女の子らしくなってくれたらなぁって思ってるのよ?」
「…女の子?」
 じいっとシンジを見る。
「う、な、なに?」
「パパも半分…」
うわぁああああああああ!
「ど、どうしたのよパパ!?」
「はははっ、なんでもないっ、何でも無いんだよ!、ね?、レイ!」
「レイ、なによ!?」
「…秘密」
「むっ!、パパ!!」
「なんでもないったら!、ほら、料理の話はどうなったのさ!?」
「ぶぅ!」
「ま、その件は後でね?」
「やだやだやだ!」
「聞き分けの悪いのは悪い子…」
「なによレイばっかり!」
「ああもうケンカしないでよ!」
「ふんっだ!」
「とにかく!、パパもこう言ってるんだから、しっかりとお料理も覚えましょうね?」
「はぁい!」
「…わかったわ」
「…僕は子供らしく、伸び伸び育ってくれるだけでも良いんだけどね」
「そう言う事を言っていると、葛城さんみたいな大人が出来上がるのよ」
 シンジの手から、ポロリと箸が転がり落ちた。
「み、ミサト、さん…」
「ミサトおばさん?」
「なに?」
 二人は知らないのだ、二人が知っているのは子持ちになった後のまともな姿だけだから。
「シンジ、ちゃんと育ってもらいたかったら愛情はちゃんと注ぎなさいね?」
 固まってしまった我が子に対して、自分を棚に上げてるユイであった。


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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
この作品は上記の作品を元にでっちあげたお話です。